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休憩時間中に会社食堂において無許可でビラを配布した労働者が、
就業規則、労働協約に違反するとして戒告処分を受けた場合、
処分が無効となることはないのでしょうか。
【事件の概要】
Yは、食品製造等を業とする会社です。
Yの工場に勤務するXは、国政選挙に関連した政治的内容を含むビラ60枚余を、
休憩時間に工場食堂において2回にわたり配布しました。
Yの就業規則では、「会社内で業務外の集合又は掲示、ビラの配布等を行なうときは予め会社の許可を受け所定の場所で行なわなければならない」と定められていたが、
XはYの許可を受けていませんでした。
Xは工場長からビラの配布を行わないよう注意されたが、
本件ビラは許可を要しないものであると反論し、ビラを配布しました。
Yは、Xの行為を就業規則中の「会社の諸規定或は労働協約に違反したとき」、
「正当な理由なくして上司の命令に従わないとき」に該当するとして、
Xを戒告処分にしました。
そこで、Xは、本件処分は懲戒権の濫用にあたり無効である等として、
処分の無効を求めて争いました。
1審及び2審はXの主張を認めたため、Yが上告しました。
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【判決の概要】
Yの就業規則14条には「会社内で業務外の集合又は掲示、ビラの配布等を行なうときは予め会社の許可を受け所定の場所で行なわなければならない。」と定められており、
また、YとA労働組合との間で締結された労働協約57条にも同旨の定めがあるところ、
Xの本件ビラの配布は、いずれもYの許可を受けないものでした。
右の赤旗号外及び日本共産党参議院議員選挙法定ビラ(以下「本件ビラ」と総称する。)の配布は、
食事中の従業員数人に1枚ずつ平穏に手渡し、
他は食卓上に静かに置くという方法で行われたものであって、
従業員が本件ビラを受け取るかどうかは全く各人の自由に任され、
それを閲読するかあるいは廃棄するかもその自由に任されていました。
また、右の配布に要した時間も数分間でした。
ところで、Xの本件ビラ配布は、許可を得ないで工場内で行われたものであるから、
形式的にいえば就業規則の条項等に違反するものであるが、
右各規定は工場内の秩序の維持を目的としたものであることが明らかであるから、
形式的に右各規定に違反するようにみえる場合でも、
ビラの配布が工場内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、
右各規定の違反になるとはいえないと解されます(最高裁昭和47年(オ)第777号同52年12月13日第3小法廷判決・民集31巻7号974頁参照)。
そして、前記のような本件ビラの配布の態様、経緯及び目的並びに本件ビラの内容に徴すれば、
本件ビラの配布は、工場内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められる場合に当たり、
右各規定に違反するものではないと解するのが相当です。
したがって、右と同旨に出てXに対する本件戒告処分を無効とした原審の判断は相当であり、
原判決に所論の違法はありません。
【関連判例】
→「目黒電報電話局事件と休憩時間」
→「バイエル薬品事件と職場規律違反」
→「わかしお銀行事件と非違行為」
→「崇徳学園事件と非違行為」
→「長野電鉄事件と企業の風紀を乱す行為」
→「豊橋総合自動車学校事件と企業の風紀を乱す行為」
→「小川建設事件と労働者の二重就職」
→「東京メディカルサービス事件と無許可の兼業」
→「十和田運輸事件とアルバイト」
→「都タクシー事件とアルバイト」