東京貯金事務センター事件と年休の事後請求

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労働者が欠勤した日を事後的に年休に振り替えるよう請求した場合、

使用者は、年休の取得を認めなければならないのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、東京貯金事務センター(旧名称東京地方貯金局)に勤務していました。

Xは、4回にわたる遅刻及び勤務時間中の組合事務室入室による19分間の欠務により、

合計52分間の欠務があったとして、1時間分の賃金を減額されました。

それに対して、Xは、

各遅刻はいずれも通勤に利用している電車の遅延によるものであるから、

特別休暇又は年次有給休暇として処理されるべきであったとして、

減額された賃金等の支払を求めるとともに、

各欠務及びその後の同様の4回の遅刻につき訓告を受けたのに対し、

これが違法であるとして慰謝料の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


労働基準法に定める年次有給休暇の制度は、

労働者において同法39条1項ないし3項に基づく具体的な時季指定をすることによって、

当該労働者の当該日についての労働義務を法律上当然に免れさせるものであるが、

他面、使用者に時季変更権が認められていることに照らすと、

右時季指定は、使用者において事前に時季変更の要否を検討し当該労働者にその告知をするに足りる相当の時間を置いてなされなければならないと解されます。

したがって、年次有給休暇の事後請求という概念は本来成立たない性質のものです。

もっとも、労働者が急病その他の緊急の事態のため予め時季指定をすることができずに欠務した場合、

使用者において、当該労働者の求めに応じて、

欠勤と扱わず、年次有給休暇と振り替える処理が実際上行われることがあります。

この場合の年次有給休暇の扱いを求める申し出が年次有給休暇の事後請求と呼ばれることがあるが、

右申し出に応じた処理をするか否かは、

使用者の裁量に委ねられているものというべきであり、

この申し出によって当然に休暇取得の法的効力を生ずるものと解すべき法的根拠はありません。

したがって、年次有給休暇のいわゆる事後請求が認められなかったからといって、

一般には、使用者の処理が違法なものとなることはなく、

ただ、当該申し出の事情を勘案すれば年次有給休暇として処理することが当然に妥当であると認められるのに、

使用者がもっぱら他の事情に基づいてその処理を拒否するなど裁量権を濫用したと認められる特段の事情が認められる場合に限り違法となるものというべきです。

ところで、郵政省における年次有給休暇に関する制度をみるに、

前記郵政省就業規則9条1項及び前記「郵政事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規程」69条は、

自由付与にかかる年次有給休暇の請求につき、

所属長に対して希望日の前日正午までに請求書を提出することによって行うべき旨規定しています。

そして、郵政省就業規則86条2項は、

「病気、災害その他やむを得ない事由によってあらかじめ休暇を請求することが困難であったことを所属長が認めたときは、職員は、その勤務しなかった日から、週休日及び祝日を除き、遅くとも3日以内に、その事由を付して請求書を提出することができる。」(「郵政事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規程」及び「年次有給休暇に関する協約」付属覚書〔乙第33号証〕も同旨)と定めています。

右各規定に照らすと、年次有給休暇の時季指定の時期についての前示の一般的原則は郵政職員についても同様であるということができ、

いわゆる事後請求の申し出に対応した処理をするかどうかは、

使用者の裁量に委ねられているものというべきであり、

労働者の当然の権利ではないのであって、いわゆる事後請求が認められなかったからといって、

前記のような裁量権の濫用と認められる特段の事情がない限り違法となることはないものと解されます。

本件においては、申し出られた年次有給休暇のいわゆる事後請求につき、

かえって前記認定のような事情が認められるから、

この申し出をもって所属長が、「やむを得ない事由」によってあらかじめ休暇を請求できなかったとは認められないと判断したのは是認し得ることであって、

この裁量権の行使に違法の簾は認められません。

Xは、就業規則等の右規定が一定の場合につき年次有給休暇を事後に請求することを権利として認めたものであると主張するが、

それは前記のように使用者の裁量によって認められるものにすぎないから、

Xの右主張は失当です。

また、Xは、本件における年次有給休暇の請求は職場に到着して後直ちにしたものであるから、

数分間の遅刻のために1時間の年次有給休暇を犠牲にすると申し出たもので、

すべてが事後請求というわけではなく、

大部分は事前の請求である旨主張します。

しかしながら、郵政省と全逓との間の労働協約である「年次有給休暇に関する協約」(乙第33号証)にも年次有給休暇は1日を単位とするものとされ、

ただし、労働基準法39条による日数を超えて認められる当該年度の年次有給休暇及び前年からの繰越分については1時間を単位として与えることができる旨明記されています。

このように年次有給休暇は、時間単位で認められるのが限度であって、

分単位での休暇を認める制度ではないのみならず、

前示のような年次有給休暇の時季指定の趣旨に鑑みれば、

ここに「事前」という意味は時季変更について検討する余裕を置いた時期の意味であって、

これを過ぎて請求されたものは年次有給休暇の本来の趣旨を外れたものとしていわゆる事後請求と異ならないものにすぎないから、Xの右主張は理由がありません。

さらに、Xは、その担当業務は分単位の遅刻が影響するようなものではなかった旨主張するが、

事前の時季指定に対する時季変更についてはともかく、

いわゆる事後請求に関しては、

業務に対する影響のみが裁量判断の要素となるものではないことは当然であり、

Xには前示のような事情が認められる以上、

使用者がXからのいわゆる事後請求を認めなかったことはけだしやむを得ません。

以上のとおりであるから、Xの前記各遅刻について年次有給休暇が認められなかったことはやむを得ないことというべきです。

前記就業規則116条は、「職員は、過失があった場合には、郵政部内職員訓告規程(昭和25年7月25日公達第83号)の定めるところにより、

訓告されることがあるものとする。」と定めており、

郵政部内職員訓告規程(乙第38号証)1項は、「部下職員に過失があった場合、その軽重を審査し軽微であって、懲戒処分を行う範囲内のものでないと認めるときは訓告する。」と規定し、

右規程の運用通達である「郵政部内職員訓告規程について」(昭和25年7月25日郵人第258号〔乙第39号〕)記1の1は、

「この規程にいう『過失』は職員の職務上の過失事故は勿論のこと、職員の部内外のすべての非違行為を包含するものであること。」としています。

東京貯金事務センター所長は、右規定に基づいて本件訓告をしたものであるが、

その趣旨は、Xに対する指揮監督権限を有する同所長がXの業務違反行為を指摘してその注意を喚起し、

Xの職務遂行の改善、向上に資せしめるために将来を戒めるところにあるものと解されます。

しかして、Xの前記第二の一2の(一)ないし(八)の各遅刻については、

国家公務員法98条1項及び101条1項に違反するもので、

かつ、Xの過失によるものというべきであり、

また、同(九)の組合事務所に入ったことによる19分間欠務については、

これを正当化する特段の事情は何も認められないことは前記のとおりです。

そして、前示のような遅刻の各事情に加えて、

Xは、平素から、勤務時間内に昼食をとったり、離席したり、

新聞を読むなどの行動が多く、職務専念義務に違反する行為については欠務処理をする旨a課長からとくに注意されていたばかりか、

前記運用の実施された翌日から遅刻し、上司からの再三の指導に従わず、

規律に従う意思を示さなかったものであって(乙第26、第28、第29号証、証人e、証人a)、

以上のような実情を前提として、Xに対する指揮監督権者である東京貯金事務センター所長が、

Xの義務違反行為を指摘してその注意を喚起し、

Xの職務遂行の改善、向上に資せしめるために将来を戒めたことを違法とすることはできません。

【労働基準法39条(年次有給休暇)】


使用者は、その雇入れ日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

◯2 使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して六箇月を超えて継続勤務する日(以下「六箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄の掲げる六箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし、継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の八割未満である者に対しては、当該初日以後の一年間においては有給休暇を与えることを要しない。

「六箇月経過日から起算した  「労働日」
       継続勤務年数」  

 一年             一労働日
 二年             二労働日
 三年             四労働日
 四年             六労働日
 五年             八労働日
 六年以上           十労働日

【まとめ】


労働者の求めに応じて、欠勤と扱わず、

年次有給休暇と振り替えるかどうかは、

使用者の裁量に委ねられています。

【関連判例】


「白石営林署事件と有給休暇」
「此花電報電話局事件と時季変更権」
「津田沼電車区事件と年次有給休暇の成立」
「高知郵便局計画休暇事件と時季変更権」
「国際協力事業団(年休)事件と継続勤務」
「日本中央競馬会事件と継続勤務」