西日本ジェイアールバス事件と「事業の正常な運営を妨げる場合」

スポンサーリンク










恒常的な要員不足により、

常時代替要員の確保が困難である場合、

時季変更権の行使に際し、

「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、バスによる旅客運送等を業とする会社です。

Xは、昭和46年3月29日、国鉄に雇用され、

西日本旅客鉄道株式会社を経て、Yの設立に伴ってその従業員となり、

バスの運転係として稼働しています。

Xは、Yから2年間にわたり、

41日分の年次有給休暇(以下「年休」という)の行使を不法に妨げられたうえ、

うち7日分について年休を取得する権利を失効させられたと主張して、

Yに対し、労働契約上の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求をしました。

スポンサーリンク










【判決の概要】


Xが当時Yの金沢営業所で唯一の国労組合員であり、

X自身その立場を意識していて、勤務に就かなければ懲戒処分の対象になるのはもとより、

上司に異議を申し入れることにより不利な扱いを受けるのではないかという懸念を抱いていたことが認められ、

このことに本件当時Yの金沢営業所では現場での労使交渉が認められていなかったこと(当審証人〈人証略〉)、

当時Yにおいては時季変更権の行使に対して異議を述べる者がいなかったこと(当審証人〈人証略〉)や代替要員が確保されないままXが勤務に就かなければ欠便が生じることが予測されるという運転係の職務の性質をも考慮すると、

Xが異議を留めることなく勤務に就いていたことが直ちにXにおいて時季変更権の行使を容認したか、

もしくは時季指定そのものを撤回したことを根拠づける事情となるものではありません。

Yは、一時期運転係は要員不足の状態であったが、これは労使間の合意により、

Yでは必要人員を可能な限り訴外西日本旅客鉄道株式会社から受け入れて雇用の場を確保するという方針が取られていて、

それ以外の外部から直ちに人員採用をすることができなかったというやむを得ない事情による過渡的な現象であった旨主張するが、

Y主張のごとき労使間の合意があったとしても、

そのことが使用者として年休の時季指定がなされた場合に尽くすべき通常の配慮を尽くさなかったことや運転係の要員の不足が9か月以上にわたって常態化したことを正当化するものであるとは到底認められません。

Xの時季指定にかかる年休の取得を合計35日間にわたって侵害したことは労働契約上の債務不履行にあたるというべきであり、

右35日のうち年休の失効した7日分を除く28日分についても、

Yの右侵害行為によりXが精神的苦痛を被ったことは明らかであり、

前記(本判決3)認定のXの勤務環境や職務の性質等を考慮すれば、

XがYの時季変更権の行使に対し強く異議を述べることなく就業したことをもってXに対し不利益に重視することは相当でなく、Yの主張は理由がありません。

【労働基準法39条(年次有給休暇)】


使用者は、その雇入れ日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

◯2 使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して六箇月を超えて継続勤務する日(以下「六箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄の掲げる六箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし、継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の八割未満である者に対しては、当該初日以後の一年間においては有給休暇を与えることを要しない。

「六箇月経過日から起算した  「労働日」
       継続勤務年数」  

 一年             一労働日
 二年             二労働日
 三年             四労働日
 四年             六労働日
 五年             八労働日
 六年以上           十労働日

◯5 使用者は、前各号の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

【まとめ】


使用者が、代替要員の確保努力や勤務割りの変更など、

使用者として尽くすべき通常の配慮を行えば、

時季変更権の行使を回避できる余地があるにもかかわらず、

これを行わない場合や、

恒常的な要員不足により常時代替要員の確保が困難であるというような場合には、

「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たりません。

【関連判例】


「此花電報電話局事件と時季変更権」
「弘前電報電話局事件と使用者の配慮」
「横手統制電話中継所事件と配慮の無い時季変更権の行使」
「時事通信社事件と長期かつ連続の年次有給休暇」
「日本電信電話事件と訓練(研修)期間中の年次有給休暇」
「広島県ほか(教員・時季変更権)事件と年休取得時季の変更」
「電電公社関東電気通信局事件と使用者の配慮」