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労働者が勤務割による勤務予定日につき年次休暇の時季指定をした場合、
使用者が代替勤務者確保のための配慮をせずにした時季変更権の行使は、
有効となるのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、YのF整備課に勤務しており、各種テレビ中継装置の定期点検、
定期試験及び障害修理作業並びにその保全工事及び建設工事作業に従事していました。
Xは、昭和53年9月11日、勤務割において同人と他の1名の計2名の職員の配置しか予定されていなかった同月16日(土曜日)につき年次休暇の時季指定をしたが、
当時、過激派集団による成田空港開港反対百日闘争が行われており、
その最終日(同月17日)が間近であって、
Yの施設等に対する無差別的破壊活動が行われるおそれが大であるという異常な事態に直面し、
Yは、管理者による特別保守体制をとることを余儀無くされていたため、
右時季指定に対し、管理者による欠務補充の方法をとることができない状況にありました。
そこで、F整備課のG課長は、右時季指定に対し、
勤務割を変更して代替勤務者を確保することを考慮しないで、
1名の配置では業務に支障が生ずるとして、時季変更権を行使しました。
しかし、Xは当日欠務したため、
Yはこれを欠勤として扱い、懲戒(戒告)処分に処するとともに、
賃金のカットを行いました。
これに対して、Xが右懲戒処分の無効確認、未払い賃金等の支払、
ならびに右違法な処分に対する損害賠償を求めて争いました。
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【判決の概要】
労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)39条3項ただし書は、
使用者は、労働者がした年次休暇の時季指定に対し、
その時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、
他の時季にこれを与えることができると規定し、
使用者の時季変更権の行使を認めています。
右時季変更権行使の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かの判断において、
代替勤務者確保の難易は、その判断の一要素であって、
特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、
重要な判断要素であるというべきです。
このような勤務体制がとられている事業場において、
勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合に、
使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、
使用者がそのための配慮をしなかった結果、代替勤務者が配置されなかったときは、
必要配置人員を欠くことをもって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当です(最高裁昭和59年(オ)第618号同62年7月10日第2小法廷判決・民集41巻5号1229頁、同昭和60年(オ)第989号同62年9月22日第3小法廷判決・裁判集民事151号657頁参照)。
そして、勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合に、
使用者としての通常の配慮をすれば代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあったか否かについては、
当該事業場において、年次休暇の時季指定に伴う勤務割の変更が、
どのような方法により、どの程度行われていたか、
年次休暇の時季指定に対し使用者が従前どのような対応の仕方をしてきたか、
当該労働者の作業の内容、性質、欠務補充要員の作業の繁閑などからみて、
他の者による代替勤務が可能であったか、
また、当該年次休暇の時季指定が、
使用者が代替勤務者を確保しうるだけの時間的余裕のある時期にされたものであるか、
更には、当該事業場において週休制がどのように運用されてきたかなどの諸点を考慮して判断されるべきです。
右の諸点に照らし、使用者が通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかったと判断しうる場合には、
使用者において代替勤務者を確保するための配慮をしたとみうる何らかの具体的行為をしなかったとしても、
そのことにより、使用者がした時季変更権の行使が違法となることはないものと解するのが相当です。
以上の事実関係によれば、Xが本件時季指定をした勤務予定日に休暇を与えるとするとF整備課の最低配置人員を欠くことになるうえ、
同課においては、従前の労使間交渉の経緯により、
従来から、一般職員について週休日の変更は行わないとの運用がほぼ定着しており、
そのこととの関係で週休日についての勤務割の変更はほとんど行われず、
最低必要人員しか配置されていない土曜日に、
勤務割による勤務予定の一般職員が年次休暇を取ったため要員不足を生じた場合には、
もっぱら管理者による欠務補充の方法がとられ、その日が週休予定の一般職員に対し、
勤務割変更のうえ出勤が命じられることはおよそありえないとの認識が労使間に定着していたが、
Xの右勤務予定日については、当時の前記異常事態により管理者による欠務補充の方法をとることができない状況にあった、というのであるから、
このようなF整備課における勤務割変更についての実態、
週休制の運用のされ方、当時の異常事態による欠務補充の困難さなどの諸点を考慮すると、
Xが本件時季指定をした勤務予定日については、
使用者としての通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかったものと判断するのが相当です。
したがって、右の勤務予定日にXに対し休暇を与えることは、
Yの事業の正常な運営を妨げることになるものというべく、
結局、Yの担当課長がした本件時季変更権の行使は適法なものと解するのが相当です。
【労働基準法39条(年次有給休暇)】
使用者は、その雇入れ日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
◯2 使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して六箇月を超えて継続勤務する日(以下「六箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄の掲げる六箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし、継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の八割未満である者に対しては、当該初日以後の一年間においては有給休暇を与えることを要しない。
「六箇月経過日から起算した 「労働日」
継続勤務年数」
一年 一労働日
二年 二労働日
三年 四労働日
四年 六労働日
五年 八労働日
六年以上 十労働日
◯5 使用者は、前各号の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
【まとめ】
労働者が勤務割による勤務予定日につき年次休暇の時季指定をしたのに対し、
使用者が代替勤務者確保のための配慮をせずに時季変更権を行使した場合であっても、
当該事業場における勤務割の変更の方法及びその頻度、
使用者の従前の対応、代替勤務の可能性、週休制の運用、
当該時季指定の時期などに照らして、
使用者が通常の配慮をしたとしても、
代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にないときには、
右時季変更権の行使は適法です。
【関連判例】
→「此花電報電話局事件と時季変更権」
→「弘前電報電話局事件と使用者の配慮」
→「横手統制電話中継所事件と配慮の無い時季変更権の行使」
→「高知郵便局計画休暇事件と時季変更権」
→「西日本ジェイアールバス事件と「事業の正常な運営を妨げる場合」」
→「広島県ほか(教員・時季変更権)事件と年休取得時季の変更」