スポンサーリンク
使用者は時季変更権行使に当たり、
労働者に対して、他日を指定すべき義務があるのでしょうか。
また、使用者は、代替勤務者を確保して勤務割を変更すべく、
通常の配慮をすることが求められるが、
通常の配慮とはどのようなものを指すのでしょうか。
【事件の概要】
鉄道会社Yの車掌として勤務するXは、海水浴を目的として4日間の有給休暇の取得を申請しまし。
しかし、Yでは夏期の繁忙期により、年休申請者に対する年休付与は困難であったものの、
予備員の充当や、休日出勤の要請、列車の行路の変更等の措置がなされた結果、
その内の2日間についてはXを含む一部の者(1日目31名のうち10名、2日目25名のうち6名)が、
年休取得する案がまとめられました。
ところが、Yの労組主催行事の実行委員長Aに同日に年休取得させなければならなくなったため、
前記年休取得予定者の取得理由及び消化率等が検討された結果、
Xは2日間について年休不承認の意思表示がなされたため、
年休付与を再度申し入れるとともに、右両日に年休が取得できないのであれば、
他日を指定するように求めたが、了承を得ることはできませんでした。
その後、面会を経て、右両日に出勤するように業務命令が発せられたが、
Xは、両日に出勤しなかったので、
Xの行為が就業規則の規定に該当することを理由に戒告処分を受けたました。
そこで、Xは、戒告処分の無効を求めて争いました。
スポンサーリンク
【判決の概要】
当裁判所も、使用者は時季変更権を行使するに当たって他日指定をすべき義務はないと判断します。
本件において、XはYに対し他日指定することを求めているが、
そうであるからといって、Yがこれに応じて他日指定しなければ時季変更権の行使が不適法であるということはできません。
蓋し、労働基準法にも被控訴人の就業規則(〈証拠略〉)にもこれに関する規定は設けられていないうえ、
仮にYが他日指定したとしても、労働基準法39条の趣旨に照らせば、
使用者に一方的な休暇の指定権が与えられたと解することはできないのであるから、
労働者においては右他日に時季指定するか否かの自由を有するし、
仮に労働者がYの他日指定に応じて右他日に時季指定したとしても、
後になって、その他日について事業の正常な運営を妨げる事由が実際に発生したならば、
使用者としても改めて時季変更権を行使できると解さざるをえないのであるから、
他日指定は、使用者としては、その時季にはおそらく事業の正常な運営を妨げる事由がないであろうと考え、
その時季について労働者の年休請求があれば、
時季変更権を行使しない見込である旨を通知するものにすぎないと解せられるのであり、
したがってこのような通知自体に時季変更権行使の適法性を左右する意味があると解するのは相当ではないというべきであるからです。
平成3年7月23日に10名、24日に6名を超える年休付与申請者に年休を付与することは、
Yの業務の正常な運営を妨げるものであったと認められます。
なるほど、Yの担当者は休日予定者の内一部の者に23日または24日に出勤することを打診したのみであるし、
特別改札業務は、その業務内容に照らすと、運転業務などと違って、
どうしてもこれを確保しなければならないものであったということはできません。
しかしながら、使用者であるYとしては、
このような場合、代替勤務者を確保して勤務割を変更すべく通常の配慮をすることが求められているのであって、
可能な限りの方法を講じる配慮をすることまで求められるものではありません(最高裁判所平成元年7月4日判決・民集43巻7号767頁参照)。
休日出勤は就業規則66条(3)に基づくものであり、
強制することができないのはもちろん、強制と受け取られるような方法をとることもできないことから、
Yが、誰にでも声をかけるというわけにもいかず、
また車掌の勤務は原則として徹夜勤務の行路(2日にわたって勤務する行路)になっているので、
23日、24日と連続で休みになっている者の方が手配しやすいが、
逆に公休日や特休日の前後に年休を付与されていて連続して休日をとる予定であると考えられる者には声をかけにくく、
また休日出勤をすることにより4日を超える勤務となる者にも声をかけにくいと考えたというのはやむを得ないところであって、
Yとしては、相当数の休日予定者についてこのような検討をした後、
協力してもらえる可能性の高そうな者についてだけ実際に打診をしたものと認められます(〈証拠・人略〉から、
これをもって通常なすべき配慮に欠けるということはできません。
また、特別改札行路は、ダイヤ改正時に各組合(鉄道産業労働組合、東労組、国労)との団体交渉の結果を生かして組まれるものであって(〈証拠・人証略〉)、
その後右行路は平成3年10月に廃止されてはいるが、
その際、Xの所属する国労はその重要性を主張してその廃止に強く反対していたこと(〈証拠・人証略〉)からも明らかなように、
年休付与の確保のために安易にこれを通常の乗車勤務に振り替えられない性質を有していたというべきであるから、
これを圧縮しなかったことをもって、Yが年休を付与するためになすべき通常の配慮をしなかったものということはできません。
【まとめ】
使用者は時季変更権を行使するに当たって他日指定をすべき義務はありません。
また、通常の配慮については、
協力してもらえる可能性の高そうな者についてだけ打診をしたことをもって、
通常なすべき配慮に欠けるということはできません。
【関連判例】
→「此花電報電話局事件と時季変更権」
→「弘前電報電話局事件と使用者の配慮」
→「横手統制電話中継所事件と配慮の無い時季変更権の行使」
→「高知郵便局計画休暇事件と時季変更権」
→「西日本ジェイアールバス事件と「事業の正常な運営を妨げる場合」」
→「広島県ほか(教員・時季変更権)事件と年休取得時季の変更」
→「電電公社関東電気通信局事件と使用者の配慮」