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労働者が、病気によって長期間休むことになったからといって、
使用者が既に承認していた長期休暇を取消すことは許されるのでしょうか。
【事件の概要】
Yは、航空運送事業を主たる目的とする株式会社です。
Xは、昭和56年5月6日にYに雇用され、客室乗務員として勤務していました。
Yでは、公休、年次有給休暇、夏期特別休暇等を組み合わせて、
連続16日間を限度として長期休暇が取得できることとなっており(以下「本件長期休暇制度」という。)、
Xは、Yに対し、公休に該当しない日を年次有給休暇と指定して、
長期休暇(以下「本件長期休暇」という。)を取得する旨の申請を行い、
Yは、承認しました。
その後、Xは、業務災害による病気休暇により欠勤したことを理由に、
長期休暇を取り消されました。
そのため、Xは、友人と予定していた旅行をキャンセルし、
旅行業者に対し、キャンセル料2万9400円を支払いました。
そこで、Xは、旅行業者に支払ったキャンセル料等の損害賠償を求めて争いました。
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【判決の概要】
計画年休とは、使用者が事業場の過半数労働者を組織する労働組合又は過半数労働者を代表する者と、
労働者に対して年次有給休暇を与える時季を書面による協定(以下「計画年休協定」という。)により定めれば、
有給休暇の日数のうち5日を超える部分に限り、
その定めに従ってこれを与えることができる制度であり(労働基準法39条5項)、
その場合には、その定めによる時季における労働日が年次有給休暇に確定し、
その限りで労働者の時季指定権が当然に排除されることとなります。
計画年休協定に右のような効力が認められる以上、
右協定中には計画年休を与える時季及びその具体的日数を明確に規定しなければなりません。
これを本件においてみるに、
Yが計画年休協定と主張する「確認事項」(乙第七号証)には、
長期休暇の取得期間を通年とし、付与日数を連続12日ないし16日と定められてはいるものの、
具体的な内容は希望者の多くが取得できるよう各部課別に基準を設定することとして、
協定中に定められておらず、
年次有給休暇を与える時季及びその具体的日数が明確にされているとはいえません。
したがって、「確認事項」は計画年休協定の要件を満たしているとはいえないというべきです。
また、Yが右確認事項を受けて作成したという本件運用要領も弁論の全趣旨からして、
Yにおいて一方的に作成し、実施しているものと認められ、
確認事項を補充する計画年休協定の内容をなすものとはいい難いです。
以上によれば、本件長期休暇は計画年休とはいえないというべきです。
Yは、本件運用要領の取得制限事由は、いったん承認した休暇の取消事由となるとし、
証人Dの供述では、例外を認めることが従業員間の公平を害し、
それがYの業務の正常な運営を妨げる旨述べます。
しかし、長期休暇であろうとも労働者の有する年次有給休暇の時季指定権を計画年休制度によらないで、
使用者が一方的に作成した運用要領によって一般的に制限することはできないというべきであるし、
その規定する取得制限事由が具体的事案において適正なものであったとしても、
いったん承認した休暇の時季を変更する基準としても適正なものとは当然にはいえません。
右証人の述べる公平を害するという点についても、
従業員が休暇承認後長期病気休暇をとること自体は多くあることではなく、
いったん休暇を承認すれば、その従業員はそれを前提に休暇中の計画を立て、
準備する場合も少なくないと考えられるから、
休暇の時季を変更することは、当該従業員に予想外の不利益を課すこともあり得るし、
病気の種類、内容によっては、これによる不利益を本人に負担させるのが酷な場合もあり、
病気によって1か月程度休むことになったからといって、
既に承認していた長期休暇を取り消されなければ公平に反するとまでは到底いえないところです。
以上によれば、Xが本件長期休暇を取得したとしても、
現実に航空機を就航させるように人員計画を策定することは可能であり、
本件長期休暇について時季を変更しなければYの事業の正常な運営を妨げる事情があったとは認められないのであって、
それにもかかわらずXに対してされた本件長期休暇に対する時季変更権の行使は裁量の範囲を超える不合理なものであって違法です。
したがって、Yによる右時季変更権の行使は不法行為に該当します。
甲第4号証の2、X本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、
Xが、Yにより本件長期休暇の承認が取り消された後である平成6年12月30日、
かねてよりBと予定していた旅行をキャンセルし、
旅行業者に対し、キャンセル料2万9400円、
B一人しか参加しなくなったことによる1人割増参加料3万5000円を支払ったことが認められます。
右のうち、旅行中止によってキャンセル料を負担することは、
社会通念上通常生ずることであり、右による損害は通常損害であるというべきです。
これに対し、1人割増参加料については、
そもそも右旅行に参加したBが支払うべきものであり、
本件全証拠をもってしてもXが右旅行業者に対して支払うべき義務があったとは認められないので、
Xがこれを支払ったことについてはYによる右不法行為との相当因果関係がないというべきです。
以上によれば、Xの請求はキャンセル料2万9400円、慰藉料10万円、
弁護士費用5万円の合計17万9400円及びこれに対する不法行為の後の日である平成6年12月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容します。
【関連判例】
→「此花電報電話局事件と時季変更権」
→「弘前電報電話局事件と使用者の配慮」
→「横手統制電話中継所事件と配慮の無い時季変更権の行使」
→「高知郵便局計画休暇事件と時季変更権」
→「西日本ジェイアールバス事件と「事業の正常な運営を妨げる場合」」
→「広島県ほか(教員・時季変更権)事件と年休取得時季の変更」
→「電電公社関東電気通信局事件と使用者の配慮」