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年休付与の基準となる全労働日とは、
どのような日をいうのでしょうか。
また、賞与の支給基準となる出勤率の計算において、
年休取得日を欠勤扱いにすることは許されるのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、昭和55年3月、Yに雇用され、Yの特許部電気課に所属し、
文書の翻訳、書類の作成等の業務に従事していました。
Yは、昭和59年1月、旧就業規則を変更した(以下、変更後の就業規則を「新就業規則」という。)が、
新就業規則によると、日曜日を休日とし、祝日、交替出勤日以外の土曜日、
年末年始は、本来労働義務が課されてはいるが、
通常は欠勤しても差し支えのない「一般休暇日」として、
生理休暇、特別休暇などとともに、
年休付与の基準となる全労働日に含ませることとしました(すなわち、1年間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した者が次年度に年休を取得できるとし、この全労働日とは、1年の総日数から休日を引いた日とした。)。
Xは、昭和61年及び昭和62年に、年休の時季指定をし、同日勤務しなかったところ、
Yは、これを欠勤と扱い、給与及び賞与を減額し、これを支払いませんでした。
そこで、Xは、年休の時季指定を行った日は、いずれも旧就業規則によると、
年休を取得しうる日であるから、給与及び賞与からの控除は無効であると主張し、
Yに対し、未払賃金等の支払いを求めて争いました。
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【判決の概要】
労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの。以下同じ。)39条1項にいう全労働日とは、
1年の総暦日数のうち労働者が労働契約上労働義務を課せられている日数をいうものと解すべきところ、
これを同旨の見解に基づき、原審の適法に確定した事実関係の下において、
Yの新就業規則に定める一般休暇日は労働者が労働義務を課せられていない日に当たり、
したがって、同就業規則中、右の一般休暇日が全労働日に含まれるものとして年次有給休暇権の成立要件を定めている部分は同項に違反し無効であるとした原審の判断は、
正当として是認することができます。
原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができません。
原審の適法に確定した事実によれば、Yの就業規則は、
年次有給休暇権の成立要件、年次有給休暇期間の賃金支払義務について、
法定年次休暇と法定外年次休暇を区別せずに定めており、
両者を同様に取り扱う趣旨であると認められます。
また、使用者に対し年次有給休暇の期間について一定の賃金の支払を義務付けている労働基準法39条4項の規定の趣旨からすれば、
使用者は、年次休暇の取得日の属する期間に対応する賞与の計算上この日を欠勤として扱うことはできないものと解するのが相当です。
したがって、右事実関係の下において、
Yの新就業規則中、年次有給休暇権の成立要件を定める部分は無効であるから、
法定年次休暇と法定外年次休暇のいずれに関しても、
その権利の成立要件は旧就業規則によるべきものとした上、
Yは、Xがその年次有給休暇権に基づき年次休暇を取得した第一審判決添付の未払賃金一覧表の年休権行使日欄記載の各日について、
給与を支払わないものとし、
また、賞与の支給に係る勤怠考課に当たりこれを欠勤として扱うことはできないとした原審の判断は、
正当として是認することができます。
原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができません。
【労働基準法39条(年次有給休暇)】
使用者は、その雇入れ日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
◯2 使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して六箇月を超えて継続勤務する日(以下「六箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄の掲げる六箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし、継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の八割未満である者に対しては、当該初日以後の一年間においては有給休暇を与えることを要しない。
「六箇月経過日から起算した 「労働日」
継続勤務年数」
一年 一労働日
二年 二労働日
三年 四労働日
四年 六労働日
五年 八労働日
六年以上 十労働日
◯7 使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇の期間又は第四項の規定による有給休暇の時間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、それぞれ、平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その期間又はその時間について、それぞれ、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第四十条第一項に規定する標準報酬月額の三十分の一に相当する金額(その金額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)又は当該金額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した金額を支払う旨を定めたときは、これによらなければならない。
【まとめ】
労働基準法39条1項にいう全労働日とは、1年の総暦日数のうち、
労働者が労働契約上労働義務を課せられている日数をいいます。
また、使用者は、年次休暇の取得日の属する期間に対応する賞与の計算上、
この日を欠勤として扱うことはできません。
【関連判例】
→「日本シェーリング事件と不就労時間」
→「沼津交通事件と年次有給休暇の取得に対する不利益取扱の禁止」
→「エヌ・ビー・シー工業事件と生理休暇」
→「八千代交通事件と年次有給休暇の成立要件」