JR東日本(本荘保線区)事件と教育訓練

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使用者が教育訓練として、

就業規則全文の書き写し等を命じることが、

違法となることはあるのでしょうか。

【事件の概要】


Y1会社のA保線区の区長であるY2は、昭和63年5月11日、

B労働組合のマーク入りベルトを着用して就労した同組合の組合員Xに対し、

就業規則違反を理由にそのベルトの取外しを命じたうえ、

同12日、朝の体操の終了後、自らの面前に着席させ、

就業規則全文の書写し、感想文の作成、

書き写した就業規則の読上げを午後4時50分までさせました(その間、昼休み以外の休憩は与えなかった)。

Y2は同13日も同様の命令を出したが、Xが体調不良を訴えたため、

11時20分にXを解放しました。

Xは、同14日から20日まで病院に入院しました。

なお、Y1会社の就業規則128条は、

「社員は、会社の行う教育訓練を受けなければならない」と定めています。

Xは、このような命令は正当な業務命令の裁量の範囲を逸脱した違法なものであり、

それにより精神的損害を受けたとして、

Y1会社及びY2に対して、損害賠償を求めて争いました。

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【判決の概要】


就業規則128条に基づき、職場内教育訓練を含めてY1会社が社員に命じ得る教育訓練の時期及び内容、

方法は、その性質上、原則としてY1会社の裁量的判断に委ねられているものというべきであるが、

その裁量は無制約なものではなく、その命じ得る教育訓練の時期、内容、

方法において労働契約の内容及び教育訓練の目的等に照らして不合理なものであってはならないし、

また、その実施に当たっても社員の人格権を不当に侵害する態様のものであってはならないことはいうまでもありません。

かかる不合理ないし不当な教育訓練は、Y1会社の裁量の範囲を逸脱又は濫用し、

社員の人格権を侵害するものとして、不法行為における違法の評価を受けるものというべきであるが、

右裁量の逸脱、濫用の有無は、当該教育訓練に至った経緯、目的、

その態様等諸般の事情を考慮して判断すべきものと解するのが相当です。

本件ベルト着用の就業規則違反の程度は軽微であること、

就業規則の全文書写しは、肉体的、精神的苦痛を与えるものであり、

合理的教育的意義を認め難く、必要性も見出し難いこと、

Y2の態度はXの人格をいたずらに傷つけ、また、その健康状態への配慮も怠ったこと、

勤務時間中に事務室内で長時間にわたり行われたことなどから、

Y2の命じた教育訓練は、懲罰的目的からなされたものと推認せざるを得ず、

その目的においても具体的態様においても不当なものであって、

Xに故なく肉体的、精神的苦痛を与えてその人格権を侵害するものであるから、

教育訓練についてのY2の裁量を逸脱、濫用した違法なものであり、

不法行為を構成することは明らかです。

以上より、Y2は民法709条に基づき、Y1会社は民法715条に基づき、

損害賠償義務を負います。

【まとめ】


就業規則などに基づき行われる教育訓練の時期、内容、方法は、

原則として使用者の裁量的判断にゆだねられます。

しかし、実施した教育訓練が、

労働契約の内容および教育訓練の目的などに照らして不合理な場合、

または労働者の人格権を不当に侵害する態様で行われた場合には、

裁量権の逸脱・濫用として違法となります。

【関連判例】


「電電公社帯広局事件と就業規則の法的性質」
「国鉄鹿児島自動車営業所事件と業務命令権」