バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件と降格

(東京地判平7.12.4)

スポンサーリンク










使用者による人事権の行使が、

権利の濫用と認められるのはどのような場合でしょうか。

【事件の概要】


Yは、アメリカに本店を有し、在日支店として東京支店及び大阪支店を有する銀行です。

Xは、昭和27年から勤務していたA銀行が、

昭和39年にYに買収されたことに伴い、Yに雇用された者です。

昭和47年1月、Xは、Y東京支店の総務課セクションチーフ(課長)に昇格しました。

しかし、Y銀行在日支店は昭和53年度以降ずっと赤字基調にあって、

合理化・機構改革が急務となっていたところ、首脳部は管理職らに対し、

新経営方針への理解・協力を求めたが、

積極的に協力を申し出たのは一部の管理職に過ぎず、

Xを含めた多数の管理職らはこれに協力する姿勢が積極的でなかったため、

Yは、昭和57年4月頃、新方針に積極的に協力するものを昇格させる一方、

多数の管理職を降格しました。

その一環として、Xはオペレーションズテクニシャンに降格された上、

昭和61年には総務課の受付業務や備品管理・経理支払事務の担当に配転され、

平成2年に人員縮小を理由に解雇されました。

そこで、Xは、Yによるオペレーションズテクニシャンへの降格から受付配転にいたる一連の行為は、

Xを退職に追い込む意図をもってなされた不法行為であるとして、

慰謝料の支払を求めて争いました。

スポンサーリンク










【判決の概要】


使用者が有する採用、配置、人事考課、異動、昇格、降格、解雇等の人事権の行使は、

雇用契約にその根拠を有し、

労働者を企業組織の中でどのように活用・統制していくかという使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事柄であり、

人事権の行使は、これが社会通念上著しく妥当を欠き、権利の濫用に当たると認められる場合でない限り、

違法とはならないものと解すべきです。

しかし、右人事権の行使は、労働者の人格権を侵害する等の違法・不当な目的・態様をもってなされてはならないことはいうまでもなく、

経営者に委ねられた右裁量判断を逸脱するものであるかどうかについては、

使用者側における業務上・組織上の必要性の有無・程度、労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するかどうか、

労働者の受ける不利益の性質・程度等の諸点が考慮されるべきです。

Y銀行在日支店においては、昭和56年以降、新経営方針の推進・徹底が急務とされ、

Xらこれに積極的に協力しない管理職を降格する業務上・組織上の高度の必要性があったと認められること、

役職手当は、4万2000円から3万7000円に減額されるが、

人事管理業務を遂行しなくなることに伴うものであること、

Xと同様に降格発令をされた多数の管理職らは、いずれも降格に異議を唱えておらず、

Y銀行のとった措置をやむを得ないものと受けとめていたと推認されること等の事実からすれば、

Xのオペレーションズテクニシャンへの降格をもって、

Y銀行に委ねられた裁量権を逸脱した濫用的なものと認めることはできません。

Yは、「総務課配転は、Xの希望であり、組合の要求でもあったので業務上の必要性がないにもかかわらず、Xを総務課に配転した。」旨主張するが、

Xは、総務課においてA課長の行っていた職務の一部を担当したいと述べていたのであり、

総務課であればいかなる業務に就くことも差し支えないとの趣旨ではなかったと認められます。

また、Yは、右配転についてもXが同意していたかのように主張するが、

Xは、前記降格のときと同様、業務命令として発令されるのであればやむを得ない旨述べたことはあるが、

これをもって右配転に同意していたと認めることはできません。

総務課の受付は、それまで20代前半の女性の契約社員が担当していた業務であり、

外国書簡の受発送、書類の各課への配送等の単純労務と来客の取次を担当し、

業務受付とはいえ、Xの旧知の外部者の来訪も少なくない職場であって、

勤続33年に及び、課長まで経験したXにふさわしい職務であるとは到底いえず、

Xが著しく名誉・自尊心を傷つけられたであろうことは推測に難くありません。

Xは、同年5月から、備品管理・経費支払事務を担当したが、

従来同様、昼休みの1時間は、総務課員のうちXだけが受付を担当していました。

そして、備品管理等の業務もやはり単純労務作業であり、

Xの業務経験・知識にふさわしい職務とは到底いえません。

Xに対する総務課(受付)配転は、これを推進したB人事部長自身、

疑念を抱いたものであって、その相当性について疑問があり、

オペレーションマネージャーのCは、受付業務に就いていたXに対し、

「エンジョイしているか。」と話しかけるなどしており、

かつて昭和57年3月、Dを「メッセンジャークラーク」に発令したときと同様、

Xら元管理職をことさらにその経験・知識にふさわしくない職務に就かせ、

働きがいを失わせるとともに、行内外の人々の衆目にさらし、

違和感を抱かせ、やがては職場にいたたまれなくさせ、

自ら退職の決意をさせる意図の下にとられた措置ではないかと推知されるところです。

そして、このような措置は、いかに実力主義を重んじる外資系企業にあり、

また経営環境が厳しいからといって是認されるものではありません。

そうすると、Xに対する右総務課(受付)配転は、

Xの人格権(名誉)を侵害し、職場内・外で孤立させ、

勤労意欲を失わせ、やがて退職に追いやる意図をもってなされたものであり、

Yに許された裁量権の範囲を逸脱した違法なものであって不法行為を構成するというべきです。

そして、Xが総務課(受付)配転を受ける前後の経過に照らし、

右配転によってXが受けた屈辱感・精神的苦痛は、甚大なものがあると認められ、

Xの右精神的苦痛は、平成2年9月30日に解雇されるまで(昼休み1時間の受付勤務は、同元年11月まで)継続したこと等本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、

慰謝料としては金100万円をもって相当と認めます。

【まとめ】


職位の引下げが労働契約上許容される範囲内のものであるとしても、

その降格が使用者に付与された裁量権の範囲を逸脱し、

社会通念上著しく妥当性を欠く場合には、

権利濫用として違法・無効となります。

【関連判例】


「医療法人財団東京厚生会(大森記念病院)事件と降格」
「エクイタブル生命保険事件と人事権行使としての職位の引下げ」
「アメリカン・スクール事件と人事権の行使としての職位の引下げ」
「倉田学園事件と降職と労働契約の同一性」
「明治ドレスナー・アセットマネジメント事件と人事権の濫用」
「近鉄百貨店事件と昇進・降格についての使用者の裁量」