医療法人財団東京厚生会(大森記念病院)事件と降格

(東京地判平9.11.18)

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使用者の行った降格処分が、

裁量判断を逸脱しているか否かは、

どのように判断されるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、病院の経営を主たる目的とする医療法人です。

Xは、平成5年5月10日、Yとの間で婦長として雇用契約を締結し、

A病院に勤務していました。

平成8年7月初め、総婦長は、東京都衛生局の監査が同月中旬に実施されることから、

Xにその予定表の提出を求めました。

ところが、平成7年11月以前の数ヶ月分が見つからなかったため、

予定表の管理が不十分であったとして、

同月29日、Xは婦長から平看護婦に格下げとされました(本件降格)。

Xは、同年8月2日、弁護士と相談して、Y宛に降格処分の撤回を求める内容証明郵便を出したところ、

Yは、解雇はしていないとして、予定表という重要書類を紛失した重大な義務違反を理由に降格したことを記載した内容証明郵便を送付しました。

そこで、Xは、本件雇用契約は、専らYの違法、不当な降格処分によって維持できなくなったものであり、

故意又は重大な過失がYに存すること、

Xは本件債務不履行による損害の賠償を求める旨意思表示した上で、

雇用契約を解除する旨通知しました。

その上で、Xは、定年までの賃金の外、2階級の降格処分をされ、

就業中に婦長の帽子を平看護婦の帽子に変えるよう命じられるなどして、

甚だしい精神的苦痛を味わったとして、Yに対し、慰謝料等の請求をしました。

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【判決の概要】


本件降格は、前記の事実に照らすと、Yが、予定表の紛失を理由に、

Xを管理職不適と判断して、人事権に基づき降格したものと認められます。

一般に、使用者には、労働者を企業組織の中で位置づけ、

その役割を定める権限(人事権)があることが予定されているといえるが、

Yにおいても、就業規則10条(異動)は「業務上必要あるときは、配置転換・職種変更を命ずる」旨規定しており、

したがって、本件においても、Yは、右人事権を行使することにより、

労働者を降格することができます。

このように、本件降格は、

Yにおいて人事権の行使として行われたものと認められるところ、

降格を含む人事権の行使は、基本的に使用者の経営上の裁量判断に属し、

社会通念上著しく妥当性を欠き、

権利の濫用にあたると認められない限り違法とはならないと解されるが、

使用者に委ねられた裁量判断を逸脱しているか否かを判断するにあたっては、

使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度、

能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度、

労働者の受ける不利益の性質及びその程度、

当該企業体における昇進・降格の運用状況等の事情を総合考慮すべきです。

前記のとおり、婦長と平看護婦は待遇面では役付手当5万円が付くか否かにしか違いがないうえに、

本件降格が予定表という重要書類の紛失を理由としていることなどに照らすと、

Yが降格を行うとの判断をしたことは一応理解できなくはないけれども、

一方、〔1〕本件降格が実施された直後に、Xが予定表を発見していることに照らすと、

YがXに対し、紛失した予定表を徹底的に探すように命じたのか否かにつき疑問も存し、

予定表の発見が遅れたことについてXのみを責めることもできないこと、

〔2〕予定表の紛失は一過性のものであり、

Xの管理職としての能力・適性を全く否定するものとは断じ難いこと、

〔3〕近時、Yにおいて降格は全く行われておらず、

また、〔4〕Xは婦長就任の含みでYに採用された経緯が存すること、

〔5〕勤務表紛失によってYに具体的な損害は全く発生していないこと等の事情も認められるのであって、

以上の諸事情を総合考慮すると、本件においては、

Yにおいて、Xを婦長から平看護婦に2段階降格しなければならないほどの業務上の必要性があるとはいえず、

結局、本件降格はその裁量判断を逸脱したものといわざるを得ません。

以上のとおりであるから、本件降格は無効・違法なものです。

【まとめ】


使用者に委ねられた裁量判断を逸脱しているか否かの判断は、

使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度、

能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度、

労働者の受ける不利益の性質及びその程度、

当該企業体における昇進・降格の運用状況等の事情を総合的に考慮されます。

【関連判例】


「バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件と降格」
「エクイタブル生命保険事件と人事権行使としての職位の引下げ」
「アメリカン・スクール事件と人事権の行使としての職位の引下げ」
「倉田学園事件と降職と労働契約の同一性」
「明治ドレスナー・アセットマネジメント事件と人事権の濫用」
「近鉄百貨店事件と昇進・降格についての使用者の裁量」