アメリカン・スクール事件と人事権の行使としての職位の引下げ

(東京地判平13.8.31)

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使用者は、就業規則上に規定されていない場合、

労働者に対して、降格処分を行うことはできないのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、在日アメリカン人の子弟の小中学校及び高等教育を行う学校です。

Xは、学校内外の掃除等を業務内容とする施設管理部の部長の地位にありました。

Xは、学校の出入業者から仕事発注の見返りに、

長期にわたり多額の謝礼を受け取ったり、

また、管理部用務係主任のリベート受領を知りつつ放置していたところ、

「Yの取引業者から多くの贈答品を許可なく受け取ったことが就業規則に違反し、懲戒処分とする」などの内容が記載された英文の通知文書により、

施設管理部長から新設の建物及びグランド管理アシスタント・マネージャーに降格されるとともに減給されました。

そこで、Xは、懲戒処分の無効を主張して、施設管理部長たる地位の確認と、

差額賃金及び差額賞与等の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


懲戒処分は企業秩序維持のための労働者に対する特別な制裁であることから、

それを行うについて契約関係における特別の根拠が必要とするのが相当であり、

就業規則上の定めが必要と解されます(労働基準法89条1項9号参照)。

したがって、使用者が、懲戒処分として降格処分を行うには、

就業規則上懲戒処分として降格処分が規定されていなくてはなりません。

Yにおいては、前示第二の1(3)のとおり、

就業規則上懲戒処分として降格の規定はないから、

Yは、懲戒処分として降格処分を行うことはできません。

他方、法人は、特定の目的及び業務を行うために設立されるものであるから、

この目的ないし業務遂行のため、当該法人と雇用関係にある労働者に対し、

その者の能力、資質に応じて、

組織の中で労働者を位置付け役割を定める人事権があると解されます。

そして、被用者の能力資質が、現在の地位にふさわしくないと判断される場合には、

業務遂行のため、労働者をその地位から解く(降格する)ことも人事権の行使として当然認められます。

したがって、降格処分についての就業規則に定めがないYにおいても、

人事権の行使として降格処分を行うことは許されます。

そして、前示第二の1(4)のとおりYの給与・退職金規定の第9条に各従業員の給料は、

地位、能力を考慮して決められる旨の定めがあることからすれば、

被用者の降格処分に応じて減給することも許されます。

ただし、この人事権の行使は、労働契約の中で行使されるものであるから、

相当な理由がないのに、労働者に大きな不利益を課す場合には、

人事権の裁量逸脱、濫用として無効となるとするのが相当です。

そうすると、XはYの出入り業者から仕事発注の見返りに長期に渡り多額の謝礼を受け取っていたということになり、

この行為は、就業規則に違反する行為であって、

施設管理部長という自らの地位を利用して私利を図り、

リベート分の代金上乗せ分の損害をYに与えるのみならず、

Yの業務の適正な管理遂行を害する行為であるから、

Xの管理職としての不適格性は明らかで、

YがXの施設管理部長の職を解くことに十分な理由があります。

以上の各事実は、清掃等の業務を委託する業者を適正に選択し監督する能力資質、

部下に対する指導監督する能力及び適正な情報管理を行う能力等被告施設管理部長として要求される能力資質について、

いずれも重大な疑問を抱かせる事実であるから、

YがXを施設管理部長の職には不適格としその職位を解くことに十分な理由があります。

そして、本件降格処分は、XをYの従業員格付表の第一表事務系における8等級のマネージャーにあたる施設管理部長からその2段階下のアシスタントマネージャーにあたる建物及びグラウンド管理アシスタントマネージャーへ降格するものであるところ、

この降格はイ及びエで認定した事実に照らして相当な程度を超えないというべきです。

【まとめ】


使用者が、懲戒処分として降格処分を行うには、

就業規則上、懲戒処分として降格処分が規定されていなくてはならないが、

人事権の行使として降格処分を行うことは許されます。

【関連判例】


「バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件と降格」
「医療法人財団東京厚生会(大森記念病院)事件と降格」
「エクイタブル生命保険事件と人事権行使としての職位の引下げ」
「倉田学園事件と降職と労働契約の同一性」
「明治ドレスナー・アセットマネジメント事件と人事権の濫用」
「近鉄百貨店事件と昇進・降格についての使用者の裁量」