明治ドレスナー・アセットマネジメント事件と人事権の濫用

(東京地判平18.9.29)

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使用者が退職勧奨をするとともに、

一方的に労働者を部長から係長へ降格して、

給与を従前の半額に減額することは許されるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、平成12年7月に合併した投資顧問、投資信託等を業とする会社です。

Xは、平成11年4月からは合併前のYの営業第三部長として勤務していました。

Yの経常利益は、平成14年度以降減少を続けており、

平成17年度には赤字転落もあり得る経営環境にあったため、

平成16年1月から3月の間にXを含む10名に退職勧奨を行いました。

Xは、同年3月1日から自宅待機命令を受け、

X及び同様に退職勧奨を受けたCらは、管理職ユニオン(組合)に加入し、

Yに団交を申し入れました。

団交によってCらは退職に合意したがXについては合意が成立しなかったため、

自宅待機は長期化しました。

Yは、平成17年3月31日、Xに対し、

部長としての業績が悪く、管理者としての適格性に劣ること、

架空の領収書を発行させたことなどを挙げて改めて退職勧奨をし、

平成17年4月以降は、年俸を額に減額し、

役職も部長から係長に降格して自宅待機命令を続け、

組合との話合いの結果、早期円満解決が望めない場合には解雇する旨併せて通告しました。

そして、同年6月30日、XはY総務部長から「解雇通告書」を交付されました。

そこで、Xは、本件解雇の無効による雇用契約上の権利を有することの確認、

年俸の復活並びに慰謝料等を求めて争いました。

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【判決の概要】


会社には、人事考課による査定により職員を降格し、

それに伴い給与も減額となる人事権の発動の権限があったり、

Yの社員就業規則57条には、「基本給は、社員知識、経験、職務内容、能力、担当職務の賃金水準に応じて…契約更改時に会社が決定し、本人に書面で通知する」とあり、

XY間の労働条件についての合意書によれば、

「労働条件の更改に、原則として毎年1回、労働条件の改定を行う。」とあり、

その後も同様な労働条件の改定をしているようです。

しかし、使用者の人事権は労働契約によって労働者から使用者に付託された相当の裁量権の範囲内で行使され濫用にわたるものは許されないし、

契約更改時の賃金決定に際しても新たな労働契約の条件として労使間で合意が交わされることが予定されているものというべきです。

本件においては、Yは平成17年3月29日付けで同月末をもっての退職勧奨をXに対してするとともに、

同年4月以降の年俸を従前の半額である750万円に減額し、

引き続き自宅待機を命じているものです。

このような本件給与減額は、労働契約における合意から基礎付けるものとはいえず、

使用者の人事権の発動としても、

発端はYからの一方的な退職勧奨とそれに引き続く自宅待機命令に始まり、

結局XY間で話合いがまとまらない中で、

更にYが退職勧奨をするとともに一方的にXを部長から係長へ降格して給与を従前の半額に減額したものであり、

上記経緯からは合理性・必要性は基礎付けられておらず、

人事権の濫用にわたるものと評価せざるを得ません。

また本件給与減額は、業務活動費及び事務打合せ会費の不正請求が部長としての適格性に欠けることを理由に係長に降格したことによるものと見る余地があるが、

不正請求がどうかは未だ確定的ではなく、

Xの部長としての不適格性が明らかになったとはいえないので、

この点を理由とすることも妥当とは思われません。

それ故YによるXに対する本件給与減額は無効です。

Yは、Xが業務活動費及び事務打合せ会費を不正に請求して会社の金銭を取得したことを理由に、

本件解雇は有効であると主張する一方、

Xは何ら不正領得の意識はなかったと反論するところ、

Xは実際に請求金額に見合う金額の飲食をしていることが窺えます。

Yが問題にしているのは、当該飲食の有無ではなく、

申告に係る打合せメンバーが実際に参加していないのにこれがあるが如く装って各請求を偽造したというところにあるが、

Xが打合せの相手について架空の請求をしていたものと断定することには一定の躊躇を感じざるを得ません。

その他、Xが業務活動費あるいは事務打合せ会費の各請求について一定期間中に頻回にわたり架空の打合せメンバーによる経費請求を繰り返したことを推認するに足るものは見当たりません。

次に、Yが本件解雇の理由とするところのXの経費不正請求が、

金融機関においては解雇に相当するかどうかについて検討するに、

確かに他人の金銭を預かって運用する側の責任ある立場にある人間がお金の取扱いにおいて厳格でなければならないことはいうまでもないが、

本件でYがXにおいて不正行為をしたとする対象が、預かり運用業務に係る他人の金銭ではなく、

業務遂行上必要な経費としてYの内規で定められた範疇の金銭であること、

Xは架空の金銭を計上して請求したものではなく現実に利用した形跡が窺われること、

YにおいてXの申告に係るメンバーとは別人で業務に関係のない者らとの会食であるなどの不正を積極的に明らかにしているわけではないことなどからすると、

当該Xの経費請求にメンバー申告上の何らかの不正があったとしても、

果たしていきなりの懲戒解雇あるいはこれに替わる通常解雇に相当性があると評価できるかどうかは疑問です。

むしろ、本件のような場合、会社としては、一度Xに対して直接警告を発するなどして、

その後のXの経費の使用状況を見守った上でXの責任者としての適格性を見極めるべきではないでしょうか。

それ故、XによるYに対する経費の不正請求を主たる理由とする本件解雇は、

解雇権の濫用にわたるものとして無効といわざるを得ません。

本件給与減額及び本件解雇がいずれも無効であるというべきところ、

これら及びそれにまつわるYの対応がXに対して不法行為を構成するかどうかはさらに慎重に検討を要するものです。

Xは、YがXに退職勧奨をして自宅待機にした後、退職条件の交渉をしたが、

条件なり考え方が折り合わずこれに応じないXに対して、

意図的に経費不正請求の話を蒸し返して退職を半ば強要し、

それでも応じないXを不当に解雇したと主張します。

しかし、・・Yにおいても営業利益の減少が続いている状況にあり、

経費削減、とりわけ経費の中で比較的大きな割合を占める人件費の削減の必要性があると経営判断して社員への退職勧奨に出た行為自体を責めることはできないこと、

・・XY間では組合を通して平成16年3月以降団体交渉及び事務折衝を重ねており、

その交渉経過に照らして、不幸にして当事者間に合意が成立してはいないものの、

不誠実であるとか強引な手法による交渉態度であるといった評価をすべき事情が特に見受けられないこと、

交渉途中でYの代理人弁護士が交替しているものの、

弁護士による事情把握とその評価の仕方には自ずと差異があり、

そのため交渉の方針が前の代理人と変わることもあり得ないことではないこと、

YがXの業務活動費及び事務打合せ会費の請求を問題視しはじめたのは団交をはじめて間もなくの平成16年4月からであることなどからすると、

必ずしもXが主張するように不当に意図的に経費請求のことを持ち出して退職を強要したとまではいえないものというべきです。

そして、Xの自宅待機が長期間に及んだのも、

当事者間で組合を通じた団体交渉をはじめて間もなく、

Xの経費不正請求の問題が取り上げられ、会社から関係者への事情聴取を重ねたり、

その後も団体交渉あるいは事務折衝をしていることによるものと考えられることからすると、

不法行為を構成するような不当性がYには特に窺われません。

また,本件給与減額についても、実際の稼働のないままXの給与レベルを維持することがYの経営事情や他の退職勧奨者との均衡上望ましくないと考えたYの対応にも経営上からは分からなくはないところがあり、

後記のようにXは差額賃金等の支給を本件で受けることになれば、

本件給与減額によるXの不利益は救済されるのであるから、

Yの上記対応がXに対する関係で不法行為を構成するほど悪質であるとまでは評価できないものというべきです。

それゆえ、Xの慰謝料及び弁護士費用の請求には理由がありません。

【まとめ】


本件降格や給与減額は、

使用者が退職勧奨をするとともに、

一方的に労働者を部長から係長へ降格して、

給与を従前の半額に減額したものであり、

そのような経緯からは合理性・必要性は基礎付けられておらず、

人事権の濫用にわたるものと評価せざるを得ません。

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