近鉄百貨店事件と昇進・降格についての使用者の裁量

(大阪地判平11.9.20)

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管理職でない労働者に対する昇進、降格についての使用者の裁量は、

管理職の労働者に対するものと同じ範囲で認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、平成4年11月に、Yの外商本部庶務部の部長となり、

外商取引申込書の改善、外商取引口座の規約の設定等の業務に従事しました。

その後、Xは、平成6年7月、部長待遇職に降格され、奈良店外商部に配転となりました。

さらに平成7年4月、Xは、外商本部庶務部事務一課に配転され、

Xは、上司との人間関係に円滑を欠くなどの問題点はあったが、

Yから指示された業務については、Yの期待する水準には至らないとしても、

一応の遂行をしていました。

平成8年3月以降においては、Xは、外商本部外商企画部ショップ事業統括課に配転され、

15カ所ある各ショップを定期的に巡回して、

応援、連絡、改善案の提案等を行うよう指示を受けました。

しかし、Xは、同年3月から7月までは、ほとんどショップ巡回をせず、

改善案の提案もしませんでした。

同年8月において、Yは、Xに対し、転身援助制度を活用しての退職を勧奨したが、

Xはこれに応じず、同年9月に、Yは、Xを経理本部商品管理部に配転するとともに、

課長待遇職に降格させ、納品商品の検品作業に従事させることにしました。

そこで、Xは、Yに対し、Yによる部長待遇職から課長待遇職への降格について、

不法行為を構成すること等を理由として、損害賠償を請求しました。

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【判決の概要】


Xは、平成6年2月ころ、ショップ奈良での勤務中、

接客カウンターでテレビを見たり、新聞を読んだりして顧客から苦情を受けたり、

平成7年4月に外商本部庶務部事務一課に配転となった後、

上司との間の人間関係に円満を欠いたり、

平成8年3月に外商本部外商企画部ショップ事業統轄課では、

同年7月下旬ころまで指示されたショップ巡回業務をほとんどしていない等、

勤労意欲を喪失していた面もあった点を除けば、

部長待遇職となった以降も、本件降格まで、

指示された業務を一応遂行していたといえます。

その業務遂行状況は、Yが期待する程度に至ってないとはいいうるものの、

部長待遇職となってその手足となる部下もなく、

それぞれの業務の従事期間が短いことからすると、

Yの期待は過大なものというべきであり、

Xに職務の怠慢があったとまではいえないところです。

しかるに、Yは、平成8年9月、Xに対して本件降格を行いました。

確かに、Yには昇進、降格という人事権の行使について一定の裁量が認められるものの、

本件降格は給与が1か月4万8000円減額されるという不利益をXに与えるものであるうえ、

待遇職は管理職ではないことから、

その昇進、降格についてのYの裁量は管理職についての昇進、降格のそれと比較すれば狭く解するべきです。

そして、本件降格は、部長待遇職への降格時から2年余りという短期間で行われたものであり、

その間、Xは4か所もの配転を受け、

外商本部庶務部の部長としてそれなりの業績を上げてきたXに対し、

部長待遇職となって以降奈良店においてサロン裏の席に配置したり、

外商本部庶務部事務一課で末席しか与えないなどのYの措置により、

Xは勤労意欲を失い、上司との人間関係を悪化させたのであり、

Yにも責められるべき点があること、

本件降格前の平成8年7月下旬以降は、

Xの勤務態度も改善されつつあったことなどの諸事情を考慮すれば、

Xの勤務態度、勤務成績が悪いことと、

その改善がみられないことを理由とする本件降格は、

人事権の裁量の範囲を逸脱し、これを濫用した違法なものといわざるをえず、

Xに対する不法行為を構成するとするのが相当です。

【まとめ】


使用者には昇進、降格という人事権の行使について、

一定の裁量が認められるものの、

本件降格は給与が減額されるという不利益を労働者に与えるものであるうえ、

待遇職は管理職ではないことから、

その昇進、降格についての使用者の裁量は、

管理職についての昇進、降格のそれと比較すれば狭く解するべきです。

【関連判例】


「バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件と降格」
「医療法人財団東京厚生会(大森記念病院)事件と降格」
「エクイタブル生命保険事件と人事権行使としての職位の引下げ」
「アメリカン・スクール事件と人事権の行使としての職位の引下げ」
「倉田学園事件と降職と労働契約の同一性」
「明治ドレスナー・アセットマネジメント事件と人事権の濫用」