日本ガイダント事件と配転と職能資格の引下げとしての降格

(仙台地決 平14.11.14)

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労働者の業務内容を変更する配転と、

業務ごとに位置付けられた給与等級の降格の双方を内包する配転命令は、

使用者の裁量の範囲内といえるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、医薬品、医薬部外品及び医療用具の製造、輸出入及び売買等を目的とする株式会社です。

Xは、Yとの間で平成11年3月8日に労働契約を締結しました。

Xの職務は、仙台営業所の営業係長であり、賃金月額は61万9950円で、

給与等級はPⅢに属していました。

Yは、Xに対して、平成14年3月5日付けで、

従前の営業職(給与等級PⅢ)から仙台営業所事務職(給与等級PⅠ)への配置転換を行う旨辞令を交付しました。

当該配置転換に伴う給与等級の引下げにより、

Xの賃金は月額31万3700円となりました。

そこで、XはYに対し、営業事務職への配置転換命令が無効であるとして、

労働契約上営業職としての地位を有する仮の地位が有ることの確認と、

配転命令を受けて減額される以前の賃金額と減額後の賃金の差額について仮払いを求めて争いました。

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【判決の概要】


本件配転命令は、Xの職務内容を営業職から営業事務職に変更するという配転の側面を有するとともに、

Yにおいては職務内容によって給与等級に格差を設けているところ、

Xが営業職のうちの高位の給与等級であるPⅢに属していたことから、

営業事務職に配転されることによって営業事務職の給与等級であるPⅠとなった結果、

賃金の決定基準である等級についての降格(昇格の反対措置にあたる。以下この意味で「降格」という。)という側面をも有しています。

配転命令の側面についてみると、

使用者は、労働者と労働契約を締結したことの効果として、

労働者をいかなる職種に付かせるかを決定する権限(人事権)を有していると解されるから、

人事権の行使は、基本的に使用者の経営上の裁量判断に属し、

社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用にわたるものでない限り、

使用者の裁量の範囲内のものとして、その効力が否定されるものではないと解されます。

他方、賃金の決定基準である給与等級の降格の側面についてみると、

賃金は労働契約における最も重要な労働条件であるから、

単なる配転の場合とは異なって使用者の経営上の裁量判断に属する事項とはいえず、

降格の客観的合理性を厳格に問うべきものと解されます。

労働者の業務内容を変更する配転と業務ごとに位置付けられた給与等級の降格の双方を内包する配転命令の効力を判断するに際しては、

給与等級の降格があっても、

諸手当等の関係で結果的に支給される賃金が全体として従前より減少しないか又は減少幅が微々たる場合と、

給与等級の降格によって、

基本給等が大幅に減額して支給される賃金が従前の賃金と比較して大きく減少する場合とを同一に取り扱うことは相当ではありません。

従前の賃金を大幅に切り下げる場合の配転命令の効力を判断するにあたっては、

賃金が労働条件中最も重要な要素であり、

賃金減少が労働者の経済生活に直接かつ重大な影響を与えることから、

配転の側面における使用者の人事権の裁量を重視することはできず、

労働者の適性、能力、実績等の労働者の帰責性の有無及びその程度、

降格の動機及び目的、使用者側の業務上の必要性の有無及びその程度、

降格の運用状況等を総合考慮し、

従前の賃金からの減少を相当とする客観的合理性がない限り、

当該降格は無効と解すべきです。

そして、本件において降格が無効となった場合には、

本件配転命令に基づく賃金の減少を根拠付けることができなくなるから、

賃金減少の原因となった給与等級PⅠの営業事務職への配転自体も無効となり、

本件配転命令全体を無効と解すべきです(本件配転命令のうち降格部分のみを無効と解し、配転命令の側面については別途判断すべきものと解した場合、業務内容を営業事務職のまま、給与について営業職担当の給与等級PⅢの賃金支給を認める結果となり得るから相当でない。)。

Xは、賃金減額のためには、労働者がその自由意思に基づきこれに明示の同意をし、

かつ、この同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要である旨主張するけれども、

Xの主張は労働者の職務内容に変更がなく賃金のみを大幅に引き下げた事案の場合には首肯できる場合があり得るとしても、

職務内容の変更に伴って給与等級を引き下げるすべての事案について労働者の明示の同意を要するとは考えられないから、

Xの主張は、その限りで失当です。

他方、Yは、使用者の有する配転命令権に基づいて本件配転命令を発した以上、

これに伴って賃金減額が生ずるのはやむを得ない旨主張するけれども、

賃金が労働条件中最も重要な要素であり、

賃金減少が労働者の経済生活に直接かつ重大な影響を与えるから、

配転の側面における使用者の人事権の裁量を重視することはできないことは前記のとおりであり、

Yの主張は採用の限りでありません。

Xの営業成績の数値が低迷している原因は、

Xの営業能力に起因する部分があるとしても、

売上目標達成率との関係では売上目標の設定自体に問題なしとしない上、

売上実績の関係では担当症例数が少ないことや担当病院数の多さ及び広大な担当地域も影響しているといわざるを得ず、

Xの営業成績をもって従前の賃金と比較して約半分とする本件配転命令の根拠とするには足りないというべきです。

殊にXに対する執拗ともいうべき退職勧奨からすれば、

YとしてはXを何とか退職に持ち込みたかったところ(疎明資料(〈証拠略〉)によれば、Bは、Yから営業成績が悪いことを理由に退職勧奨を受け、平成14年2月、Yを退職していることの疎明がある。)、

Xが退職に応じないために本件配転命令を発することとなった経緯が明らかであり、

本件配転命令以後のXの営業事務職としての就業実態が営業事務職の名に値しない状態であるといわざるを得ないことも併せ考慮すれば、

YにおいてXを営業事務職として稼働させる業務上の必要性を見いだすことはできず、

また、Xに再起の可能性を与えるためともいえず、

むしろ、Xの給与等級をPⅢからPⅠに下げることを目的としてものと判断せざるを得ないところです。

Xの営業成績とそれについてのXの帰責性、降格の動機及び目的、

Y側の業務上の必要性、降格の運用状況等を総合すると、

Xの賃金を従前の約半分とすることについて客観的合理性があるとはいえないから、

本件配転命令に基づくXの降格は無効というべきです。

そして、本件において降格が無効である以上、

本件配転命令に基づく賃金の減少を根拠付けることができなくなるから、

賃金減少の原因となった給与等級PⅠの営業事務職への配転自体も無効となり、

争点(1)についての当事者の主張について検討するまでもなく、

本件配転命令全体を無効というべきです。

【まとめ】


従前の賃金を大幅に切り下げる場合の配転命令の効力を判断するにあたっては、

賃金が労働条件中最も重要な要素であり、

賃金減少が労働者の経済生活に直接かつ重大な影響を与えることから、

配転の側面における使用者の人事権の裁量を重視することはできず、

労働者の適性、能力、実績等の労働者の帰責性の有無及びその程度、

降格の動機及び目的、使用者側の業務上の必要性の有無及びその程度、

降格の運用状況等を総合考慮し、

従前の賃金からの減少を相当とする客観的合理性がない限り、

当該降格は無効と解すべきです。

そして、降格が無効となった場合には、

配転命令に基づく賃金の減少を根拠付けることができなくなるから、

賃金減少の原因となった配転自体も無効となり、

配転命令全体を無効と解すべきです。

【関連判例】


「マッキャンエリクソン事件と職務等級制度における等級の引下げ(降級)」
「コナミデジタルエンタテインメント事件と育休後の降級」