マッキャンエリクソン事件と職務等級制度における等級の引下げ(降級)

(東京高判平19.2.22)

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使用者が、賃金規定において降級基準を定めていた場合、

使用者の裁量の範囲で降級処分にできるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、米国法人と日本法人の共同出資により設立された広告代理店です。

Xは、1984年4月Yに入社し、2002年以降、

メディアマーケティング本部業務部(業務部)に所属していました。

Yは、2001年10月に賃金制度を変更し、

成果主義賃金体系を基礎とする新賃金制度を導入しました。

Yの親会社は、2001年10月、Yに対し人員削減を指示し、

これを受けてY人事部は退職勧奨対象者をリストアップし、

当時メディアマーケティング本部に所属していたXを含む8名が退職勧奨され、

1名を除きこれを拒否しました。

Y副社長は同月頃、Xに対し、経営構想外であるなどと退職を勧奨したが、

Xはこれを拒否し、更に1週間後に退職勧奨をしてもXが拒否したことから、

副社長は、「この先給料が上がると思うな。這いつくばって生きていけ」などと発言しました。

Xの1999年の評価は+1、2000年の評価は0であったのに対し、

2001年の評価は−1であったが、Xはやむを得ない評価として異議を留めず、

2002年1月から新たに就いた業務部次長としての仕事に取組み始めました。

ところが、Xの2002年の評価が−2であったことから、

YはXを降級の対象とし、昇格会議の議を経て2003年4月以降、

Xを7級から6級に降級することに決定し、基本給与は減額されました。

Xは、2002年度の評価−2は不当に低い評価であり、

本件降級処分は裁量権を逸脱して無効であると主張し、

7級としての給与の支払いを求めて争いました。

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【判決の概要】


当裁判所も、Xの請求のうち給与等級7級の労働契約上の地位を有することの確認請求は理由があり、

差額賃金請求についても原判決が認容した限度で理由があるから、

これらを認容すべきであるが、

Xのその余の請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断します。

降級の基準について上記のとおり定める新賃金規程が就業規則であることについては当事者間に争いがないところ、

新賃金規程に基づきYが行う人事評価は、

事柄の性質上使用者であるYの裁量判断にゆだねられているものであるが、

Yが就業規則である新賃金規程において上記のとおり本人の顕在能力と業績が属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていることという降級の基準を定め、

「本人の顕在能力と業績」に着目することにより、

職務遂行上外部に表れた従業員の行為とその成果が当該資格に期待される水準に著しく劣っていることを降級の基準としているのであって、

このことに、「降級はあくまで例外的なケースに備えての制度と考えています。著しい能力の低下・減退のような場合への適用のための制度です。通常の仕事をして、通常に成果を上げている人に適用されるものではありません。」との注釈を加えている趣旨にかんがみれば、

新賃金規程の定める上記の降級の基準は使用者であるYの裁量を制約するものとして定められており、

新賃金規程の下でYが従業員に対し降級を行うには、

その根拠となる具体的事実を必要とし、

具体的事実による根拠に基づいて本人の顕在能力と業績が属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断することができることを要するものと解するのが相当です。

以上によれば、Yが従業員に対して降級を行うには、

周知性を備えた就業規則である新賃金規程の定める降級の基準に従ってこれを行うことを要するのであり、

新賃金規程の下でYが従業員に対し降級を行うには、

その根拠となる具体的事実を必要とし、具体的事実による根拠に基づき、

本人の顕在能力と業績が、本人が属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断することができることを要するものと解するのが相当です。

Yが人事評価の結果に即して降級の内規を定めて運用を行っていることは上記のとおりであるが、

人事評価の結果当該内規に該当したからといって直ちに就業規則である新賃金規程の定める降級の基準に該当するものということはできないのであり、

具体的事実による根拠に基づき、本人の顕在能力と業績が、

本人が属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断することができることを要するものというべきです。

したがって、本件降級処分が有効であるというためには、

Yは、根拠となる具体的事実を挙げて、

Xの顕在能力と業績が7級に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断することができるものであることを示す必要があるというべきところ、

Xの2002年度の業務部での勤務振りは通常の勤務であり、

Yの主張する降級理由がいずれも認めるに足りる的確な証拠の存在しない本件にあっては、

本件降級処分は権限の裁量の範囲を逸脱したものとして、

その効力はないものと解するのが相当です。

したがって、Xを7級から6級に降級した本件降級処分は効力がなく、

Xは依然として7級の地位にあると認めるのが相当です。

以上によれば、Xの請求のうち給与等級7級の労働契約上の地位を有することの確認請求は理由があり、

差額賃金請求についても原判決が認容した限度で理由があるから、

これらを認容すべきであるが、

Xのその余の請求は理由がないからこれを棄却すべきです。

【まとめ】


就業規則である賃金規程に、「本人の顕在能力と業績が、属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っている」という降級基準が定められていたが、

降級はあくまで例外的措置であるとの注釈が加えられていたことから、

実際に降級を行うにはその根拠となる具体的事実を必要とし、

具体的事実による根拠に基づいて、本人の顕在能力と業績が、

属する資格に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断することができることを要します。

【関連判例】


「日本ガイダント事件と配転と職能資格の引下げとしての降格」
「コナミデジタルエンタテインメント事件と育休後の降級」