コナミデジタルエンタテインメント事件と育休後の降級

(東京高判平23.12.27)

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育児休業から復帰した労働者に対して、

担当職務変更に伴う報酬の減額や成果報酬のゼロ査定は認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、コナミ株式会社からその営業部門の事業全てを譲り受けて設立された、

電子応用機器関連のソフトウェア、ハードウェア及び電子部品の研究、制作、製造並びに販売等を目的とする株式会社です。

Xは、平成8年年10月、コナミ株式会社に雇用され、

平成18年3月31日から営業譲渡により設立された株式会社Yとの間で、

期間の定めのない雇用契約を結びました。

Yは、職業内容や職責の区分(「役割グレード」)に応じて給与等級(「報酬グレード」)が決定される人事制度を採用していたところ、

Xが育児休業から復職し、育児のための短時間勤務制度の適用した際、

職種・職位の変更等の人事措置を命じることができるとする就業規則の規定に基づき、

担当業務をそれまでの業務から負担の軽い業務に変更し、

それに伴い役割グレードも2段階下に引き下げる等の措置を提案し、

Xが時短勤務を撤回しても現職復帰を認めませんでした。

その結果、年棒のうち、報酬グレードにより定まる役割報酬が前年の550万円から500万円減額された他、

査定期間中の実績評価によって決まる成果報酬も前年度には90万円支給されていたものを、

産休取得までの稼働期間3か月は一切考慮されずゼロとされました。

そこで、Xは、これらの措置の違法性を主張し、

従前賃金との差額等の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


Yにおいては、コナミ社員の担当職務を変更することにより、

その役割グレードが変更され、その結果として当然に役割報酬が引き下げられるものとして運用されており、

そのような結果はYの報酬体系では当然の結果であると主張しているが、

役割報酬の引下げは、労働者にとって最も重要な労働条件の一つである賃金額を不利益に変更するものであるから、

就業規則や年俸規程に明示的な根拠もなく、労働者の個別の同意もないまま、

使用者の一方的な行為によって行うことは許されないというべきであり、

そして、役割グレードの変更についても、

そのような役割報酬の減額と連動するものとして行われるものである以上、

労働者の個別の同意を得ることなく、

使用者の一方的な行為によって行うことは、同じく許されないというべきであり、

それが担当職務の変更を伴うものであっても、

人事権の濫用として許されないというべきです。

そして、本件におけるXの場合にも、

担当職務の変更に伴って役割グレードがB-1からA-9へと変更され、

それに連動する形で報酬グレードが6から5-1に変更されて、

その役割報酬が年550万円から年500万円に減額されたものであるから、

そのような大幅な報酬の減額を伴う役割グレードの変更を、

就業規則や年俸規程に明示的な根拠もなく、個々の労働者の同意を必要とせず、

使用者であるYの一存で行うことができるとすることは、

労使双方の対等性を損なうものとして許容することができないと解すべきです。

役割グレードと報酬グレード及び役割報酬額とを連動させることについて、

Yの就業規則や年俸規程に明示的な定めがあるわけではないことは、

Yも認めているところである上、前記のとおり、

Yにおいて役割グレードの内容等を説明した本件手引きには、

役割グレードが引き下げられる場合や、役割グレードが引き下げられることによって、

結果的に役割報酬額も大幅に減額されることについては説明がなく、

Xを含むコナミ社員において、そのような報酬額の引下げについても事前に包括的に了解していたものと理解することは困難です。

仮に、Yの主張するところを前提とするならば、

例えば、C-1の役割グレードにある者について、その担当職務を変更した結果、

新たな担当職務の役割グレードがA-9と評価されれば、

その役割報酬は、700万円から500万円へと200万円も減額されてしまうことになるが、

そのような約30パーセント弱もの大幅な賃金の減額が一方的に行えるとすることは、

現行の労働法体系の下では許容されるものではないというべきです。

Yにおいては、本件手引きからも明らかなように、

「役割グレード」と「報酬グレード」及び「役割報酬額」とが連動するものとされており、

役割グレードの引下げは当然に報酬グレード(役割報酬額)の引下げとなり、

年俸(役割報酬部分)の引下げを伴うものとされているのであるが、

そもそもYの就業規則や年俸規程では、

報酬グレード(役割報酬額)が役割グレードと連動していることを定めている条項は存在しないのであり、

本件手引きによっても、役割報酬の大幅な減額を生じるような役割グレードの変更がなされることについて明確に説明した記載は見当たらないのです。

しかるに、Yにおいては,担当職務の変更により役割グレードが変更され、

その結果として役割報酬額も引き下げられているところ、

役割報酬額の引下げは、労働者にとって最も重要な労働条件の一つである賃金額を不利益に変更するものであるから、

就業規則や年俸規程に明示的な根拠もなく、労働者の個別の同意もないまま、

使用者の一方的な行為によってそのような重要な労働条件を変更することは、

許されないというべきです。

そして、本件におけるXの場合にも、

担当職務の変更に伴って役割グレードがB-1からA-9へと変更され、

それに連動する形で報酬グレードが6から5-1に変更されて、

その役割報酬が年550万円から年500万円に減額されたものであって、

そのような大幅な報酬の減額を、役割グレードの変更に伴う当然の結果であるとして、

就業規則や年俸規程に明示的な定めもなく、個々の労働者の同意を必要とせず、

使用者であるYの一存で行うことができるとすることは、

労使双方の対等性を著しく損なうものであるから、

許容することはできないというべきです。

Yにおいては、本件で問題となっている平成21年度の成果報酬について、

平成20年4月1日から平成21年3月31日までの1年間を査定の対象期間としたものであるが、

Xは、このうち平成20年7月16日以降は本件育休等を取って休業していたため、

その間の業務実績はなかったものです。

そして、同年4月1日から休業前日の7月15日までの期間においては、

前記のとおり、Xは見るべき成果を上げていないとした上、

7月16日以降は休業していることから、平成21年度の成果報酬はゼロと査定したものであるが、

そもそも上記4月1日から7月15日までの期間において何も成果がなかったとしたこと自体相当ではないのは、

前記のとおりです。

しかも、Xは、その後は本件育休等を取得して休業していたため、

具体的な業績は上げられなかったのであるが、

平成21年4月16日には職場復帰して業務に従事しており、

何らかの成果を上げられる見込みが高いことは明らかであったのに、

それにもかかわらず、同年6月16日以降の平成21年度の成果報酬を0円と査定するのは、

あまりにも硬直的な取り扱いといわざるを得ません。

本件成果報酬ゼロ査定は、育休取得後、業務に復帰した後も、

育休等を取得して休業したことを理由に成果報酬を支払わないとすることであり、

そのようなことは、「育介指針」において、

「休日の日数を超えて働かなかったものとして取り扱うことは、給与の不利益な算定に該当する」とされている趣旨に照らしても、

育休等を取得して休業したことを理由に不利益な取り扱いをすることに帰着するから、

女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の就労の確保を図ることなどを目的の一つとしている雇用機会均等法や、

育児休業に関する制度を設けるとともに子の養育を行う労働者等の雇用の継続を図ることなどを目的としている育児・介護休業法が、

育休等の取得者に対する不利益取扱いを禁止している趣旨にも反する結果になるものというべきです。

このような場合、Yとしては、成果報酬の査定に当たり、

Xが育休等を取得したことを合理的な限度を超えて不利益に取り扱うことがないよう、

前年度の評価を据え置いたり、あるいはXと同様の役割グレードとされている者の成果報酬査定の平均値を使用したり、

又は合理的な範囲内で仮の評価を行うなど、適切な方法を採用することによって、

育休等を取得した者の不利益を合理的な範囲及び方法等において可能な限り回避するための措置をとるべき義務があるというべきです。

それにもかかわらず、Yは、Xの平成21年度の成果報酬を合理的に査定する代替的な方法を検討することなく、

機械的にゼロと査定したものであるから、

その意味においても、人事権の濫用として違法であるというべきです。

【まとめ】


報酬額の引下げは、労働者にとって最も重要な労働条件の一つの賃金額を不利益に変更するものであるから、

就業規則や年俸規程に明示的な根拠もなく、労働者の個別の同意もないまま、

使用者の一方的な行為によってそのような重要な労働条件を変更することは、

許されません。

使用者は、成果報酬の査定に当たり、

労働者が育休等を取得したことを合理的な限度を超えて不利益に取り扱うことがないよう、

前年度の評価を据え置いたり、

あるいは同様の職務等級とされている者の成果報酬査定の平均値を使用したり、

又は合理的な範囲内で仮の評価を行うなど、適切な方法を採用することによって、

育休等を取得した者の不利益を合理的な範囲及び方法等において、

可能な限り回避するための措置をとるべき義務があります。

【関連判例】


「日本ガイダント事件と配転と職能資格の引下げとしての降格」
「マッキャンエリクソン事件と職務等級制度における等級の引下げ(降級)」