東京海上日動火災保険事件と職種限定合意がある場合の配転

(東京地判平19.3.26)

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職種限定の合意のある労働者に対しては、

労働者の個別の同意がない以上、使用者はいかなる場合も、

他職種への配転を命ずることができないのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、損害保険業等を目的とする株式会社です。

Xらは、Yに雇用される損害保険の契約募集等に従事する外勤の正規従業員(RA)です。

Yは、平成17年10月7日、Xらに対し、RA制度を平成19年7月までに廃止し、

RAの処遇については、代理店開業を前提に退職の募集を行う一方、

継続雇用を希望する者に対しては、

職種を変更した上で継続雇用するという方針を提案しました。

これに対し、Xらは、XらとYとの間の労働契約はRAに限る職種限定契約であり、

RA制度の廃止は、職種をRAに限定しているXらの労働契約上の地位を失わせること、

RAの労働契約は転居を伴う異動は行わないという地域限定の合意があり、

地域限定でこれまで築いてきた顧客との信頼関係を失うこと、

これまで本人の意思に反して他の職種に配転されたRAはいないこと、

経済的理由からRA制度を廃止するだけの高度の必要性は認められないことなどの理由を挙げて、

RAとしての地位の確認を求めました。

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【判決の概要】


YがRA制度廃止を言明している時期まであと5か月ほどを残すのみである現時点(口頭弁論終結時)において、

Xらには、平成19年7月1日以降のRAとしての地位について危険及び不安が存在・切迫し、

それをめぐってYとの間に生じている紛争の解決のため、

判決により当該法律関係の存否を早急に確認する必要性が高く、

そのことが当該紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切な方法であると認めることができます。

また、仮に、Xらの確認請求を認容する判決がされた場合には、

YにおいてもRA制度廃止の方針・内容につき再考する余地も期待することができ、

RAの廃止をめぐる現在の紛争の解決のほか、

廃止後の条件等をめぐる将来の紛争の予防にもつながる可能性が十分に認められます。

そうだとすると、本件訴えは、確認対象の選択の点で不適切であるとはいえず、

即時確定の利益についても欠けるところはないものというべきです。〔中略〕

以上みてきたとおり、RAの業務内容、勤務形態及び給与体系には、

他の内勤職員とは異なる職種としての特殊性及び独自性が存在し、

そのためYは、RAという職種及び勤務地を限定して労働者を募集し、

それに応じた者と契約係特別社員としての労働契約を締結し、

正社員への登用にあたっても、職種及び勤務地の限定の合意は、

正社員としての労働契約に黙示的に引き継がれたものと見ることができます。

それゆえ、YとXらRAとの間の労働契約は、

Xらの職務をRAとしての職務に限定する合意を伴うものと認めるのが相当です。〔中略〕

労働契約において職種を限定する合意が認められる場合には、

使用者は、原則として、労働者の同意がない限り、

他職種への配転を命ずることはできないというべきです。

問題は、労働者の個別の同意がない以上、使用者はいかなる場合も、

他職種への配転を命ずることができないかという点です。

労働者と使用者との間の労働契約関係が継続的に展開される過程をみてみると、

社会情勢の変動に伴う経営事情により当該職種を廃止せざるを得なくなるなど、

当該職種に就いている労働者をやむなく他職種に配転する必要性が生じるような事態が起こることも否定し難い現実です。

このような場合に、労働者の個別の同意がない以上、

使用者が他職種への配転を命ずることができないとすることは、

あまりにも非現実的であり、

労働契約を締結した当事者の合理的意思に合致するものとはいえません。

そのような場合には、職種限定の合意を伴う労働契約関係にある場合でも、

採用経緯と当該職種の内容、使用者における職種変更の必要性の有無及びその程度、

変更後の業務内容の相当性、他職種への配転による労働者の不利益の有無及び程度、

それを補うだけの代替措置又は労働条件の改善の有無等を考慮し、

他職種への配転を命ずるについて正当な理由があるとの特段の事情が認められる場合には、

当該他職種への配転を有効と認めるのが相当です。

そして、当該正当な理由(以下「正当性」という。)の存否を巡って、

使用者であるYは、〔1〕職種変更の必要性及びその程度が高度であること、

〔2〕変更後の業務内容の相当性、

〔3〕他職種への配転による不利益に対する代償措置又は労働条件の改善等正当性を根拠付ける事実を主張立証し、

他方、労働者であるXらは、〔1〕採用の経緯と当該職種の特殊性、専門性、

〔2〕他職種への配転による不利益及びその程度の大きさ等正当性を障害する事実を主張立証することになります。

以下、本件を上記のような観点からみてみることにする。〔中略〕
 
Yは、RA制度を廃止しそれに伴いXらRAの職種を変更することについて、

経営政策上首肯し得る高度の合理的な必要があること、

YがXらRAに対しRA制度廃止後に継続雇用を希望している者に提示している業務内容はこれまでの経験、

知識を活かすことのできる業務であって不適当なものとはいえないことを立証することができています。

そうだとすると、Xらにおいて、RA制度廃止に伴う不利益が大きい等の正当性を障害する事実を立証することができない限り、

Yの職種変更についての正当性を認めることになります。

そこで、以下では、RA制度廃止に伴う不利益の大きさ等の正当性を障害する事実の存否等について検討することにします。〔中略〕

以上の検討結果によれば、YがRA制度を廃止してXらを他職種へ配転することに、

経営政策上、首肯しうる高度の合理的な必要性があること及び他職種の業務内容は不適当でないことが認められます。

しかし、他方で、RA制度の廃止によりXらの被る不利益は、

原告甲野太郎を含むXらの生活面においては職種限定の労働契約を締結した重要な要素である転勤のないことについて保障がなく、

原告甲野太郎を除くXらの生活の基礎となる収入の将来的な不安定性が予想され、

とりわけ職種変更後2年目以降は、

月例給与分が保障されるのみで賞与相当分につき大幅な減収となることが見込まれます。

そうだとすると、YがXらに提示した新たな労働条件の内容をもってしては、

RA制度を廃止してXらの職種を変更することにつき正当性があるとの立証が未だされているとはいえない現状にあります。

以上によれば、XらとYとの間で職種を限定する合意が認められ、

Xらが他職種に転進することに同意をしていない本件にあっては、

現時点で職種変更につき正当性が認められるような特段の事情が立証されていない以上、

Yの主張は理由がないということになります。

【まとめ】


職種限定の合意を伴う労働契約関係にある場合でも、

採用経緯と当該職種の内容、使用者における職種変更の必要性の有無及びその程度、

変更後の業務内容の相当性、他職種への配転による労働者の不利益の有無及び程度、

それを補うだけの代替措置又は労働条件の改善の有無等を考慮し、

他職種への配転を命ずるについて正当な理由があるとの特段の事情が認められる場合には、

当該他職種への配転を有効と認めるのが相当です。

【関連判例】


「九州朝日放送事件と配転命令」
「日産自動車村山工場事件と職種限定の合意」
「国家公務員共済組合連合会事件と職種限定の合意」
「日本テレビ放送網事件と職種限定の合意」
「古賀タクシー事件と職種限定の合意」
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「日野自動車工業事件と職種限定の合意」
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