精電舎電子工業事件と不当な動機・目的の配転命令

(東京地判平18.7.14)

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職種限定の合意が認められず、

異職種への配転命令が契約上許される場合、

不当な動機・目的の配転命令は認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、超音波、高周波及びレーザー等を用いた溶断装置の製造販売等を目的とする株式会社です。

X1は、人材紹介会社により製造部長を探している会社としてYを紹介され、

Yの社長の面接を受けた上、平成14年4月1日にYに採用され、

製造部長として勤務していました。

また、X2は、以前、X1の部下として勤務していたことがあり、

X1が資材・購買業務を改善するために適任であるとYに要請したことにより、

Yの社長の面接を受けた上、平成14年7月1日にYに採用され、

製造部長付を命じられ、

同年8月に製造部資材グループ(後に製造部購買グループに名称変更)の次長を命じられました。

X1及びX2は、Yに入社後、その業務の改善に努めており、

そのことについては相応の評価を得ていたが、

他方、営業や総務の部門との間に原価管理の調査、棚卸しの調査等に関連して摩擦が生じており、

入社間もないXらが管理職として業務の改善を進めることに対すしては従来の幹部職員の中には不快感を抱くものもいました。

Xらは、平成16年7月1日、突然社長から呼出しを受け、

同月20日付けで営業部長付とする人事異動を内示され、同日発令され(本件配転)、

これに伴い職務手当が減額されました。

これに対し、Xらは、Yの就業規則にはYの配転命令権の根拠となる規定がなく、

またYとXらとの間の労働契約上、Yの配転命令権の根拠となる個別合意はないから、

YはXらに配転命令権はないこと、X1は製造部長として労働契約を締結し、

X2は製造部長付として労働契約を締結したものであって、

いずれも職種限定の契約であったから本件配転は無効であることを主張し、

従前の地位にあることの確認を求めました。

また本件配転命令は、Xらとしては全く想定していないものであり、

しかも配転先の営業部では、既存の営業ルートもエリアも客先も与えず、

いわゆる飛び込み営業を指示するものであるにもかかわらず、

およそ不可能な売上目標を与えるなど、

不当、違法な動機に基づくものであることが明らかであり、

業務上の必要性もなかった外、Xらの不利益は重大であるとして、

本件配転の無効と、慰謝料の支払いを求めて争いました。

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【判決の概要】


Xらは、就業規則や労働契約締結の経緯に照らして、

Yが配転命令権を有しない旨主張するが、就業規則上配転に関する規定がないとしても、

そのことから、直ちにYの配転命令権がないとすることはできず、

労働契約締結に至る経緯、Yにおける人事異動の実情等の諸般の事情を考慮して決すべきです。

そして、XらがYと労働契約を締結するに至った経緯は前記のとおりであるが、

他方、XらがYの製造部門の経営改善のため限定された期間のみ就労することが予定されていたような事情は窺われず、

長期の就労が予定されていた見られること、各入社契約書に特段の記載がないこと、

Yでは従来も異動が同一部内に限定されるような慣行があったことも窺われないことからすると、

直ちにYの配転命令を排除する約定があったと認めることはできません。

またXらとYとの間で労働契約を締結するに当たって、

その職を製造部門に限定する旨の明示の合意があったことも窺われないところ、

製造部門の最上級の役職にあるXらに対する異動がこれに限定されているとすれば、

異動の余地は全くないこととなることからしても、

そのような黙示の合意が成立したと認めるのは困難です。

そうすると、Yが配転命令権を有せず、

又は製造部門に限定されるとのXらの主張は採用することができません。

Xらは、Yに入社後、その業務の改善に努めており、

それについては相応の評価を得、成果も上がってきていたが、

他方、営業や総務の部門との間に摩擦が生じており、

各陳述書に記載されている個々の事実については、

必ずしもXらに非があると解することができないか、

あるいは入社間もないXらが管理職として業務の改革を進めていることに対する従来からの幹部職員の抱いた不快感に基づくものと解される程度のものが多いと解されるものの、

その不和の原因がいずれの非にあるかどうかの点は別として、

現に会社の組織内部に不和が生じ、

組織の円滑な運営に支障が生ずることが予想される事態に至った以上は、

これに対処するための人事異動を検討することは企業組織の管理者として当然のことと解されます。

したがって、Y組織内において上記のような対立関係が生じた以上、

業務改善がある程度後れることとなったとしても、

なお職場の和を維持しつつ徐々に改善を進めるとの方針に転換することは、

経営判断としての批判はあり得るとしても、

なお一つの策として企業経営に当たる者の裁量の範囲内にあるというべきであるから、

直ちに本件配転の必要性が存しなかったものと断ずることはできません。

しかしながら、このような方針の変更は、

YがXらを採用するに至った動機とは相容れないものであるから、

YとしてはXらの雇用を継続する必要はなくなったと考えられ、

Xらの退職を期待する理由があるといえること、

Xらの雇用を継続するのであれば、その納得、理解を一定程度得ておくことが必要であるから、

Yとしては本件配転に先立って、Xらに対して他部門との融和を強く指導、勧告して然るべきであるのに、

そのような事実は窺われないし、

またXらが本件配転により採用時の職責とは全く異なる営業職に異動することになるにもかかわらず、

その意向を全く聴取することなく、突然決定事項として本件配転を申し渡していること、

異動先の営業部の上司である営業部長は、

Xらと対立関係にあったCであり、同人はXらに対し、

いわゆる飛び込み販売のみの方法による営業を強い、

しかも到底困難と解されるような売上目標を設定するなど、

およそ教育的配慮の見られない処遇をしていること、

本訴提起直前の平成16年3月25日に渡された競合他社使用先リストについても、

実際の営業活動には役立たないものであり、何ら事態は改善されないばかりか、

かえってXらの営業活動の不振に対する非難の口実とされかねないものであり、

かつその頃からXらに対する嫌がらせに当たるような行為も一層度を増してきたことなどからすると、

本件配転において、営業部を新たな配転先に選定したことは、

Yの経営改善の方針の変更に伴って、Xらの雇用を継続することが不要となり、

かえって、新たな方針の下では会社組織の障害となりかねないことから、

Xらを退職に追い込む意図をもってしたものと推認されます。

そうすると、YのXらに対する本件配転は、

Yの有する配転命令権を濫用するものとしてその効力を有しないというほかありません。

したがって、Xらは、本件配転が無効である以上、

なお当初の職にあるというべきです。

【関連判例】


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