関西電力事件と使用者の懲戒権

(最一小判昭58.9.8)

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労働者が就業時間外に職場外において、

職務遂行に関係なくビラを配布したことを理由に、

懲戒処分にすることは許されるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、エネルギー供給業を営む会社です。

Yに勤務するXは、他の者らとともに、就業時間外の昭和44年1月1日未明、

Yの従業員社宅において、会社と組合を批判するビラ約350枚を配布しました。

この行為が、Yの就業規則に定める懲戒事由の1つである「その他特に不都合な行為があったとき」にあたるものとして、

Yは、Xに対して、就業規則に定める6種の懲戒のうち、

最も軽い懲戒である譴責を課しました。

そこで、Xは、処分の無効を求めて争いました。

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【判決の概要】


労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、

使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、

使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、

その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、

当該労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課することができるものであるところ、

右企業秩序は、通常、労働者の職場内又は職務遂行に関係のある行為を規制することにより維持しうるのであるが、

職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、

企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものもあるのであるから、

使用者は、企業秩序の維持確保のために、そのような行為をも規制の対象とし、

これを理由として労働者に懲戒を課することも許されるのであり(最高裁昭和45年(オ)第1196号同49年2月28日第1小法廷判決・民集28巻1号66頁参照)、

右のような場合を除き、労働者は、その職場外における職務遂行に関係のない行為について、

使用者による規制を受けるべきいわれはないものと解するのが相当です。

これを本件についてみるのに、右ビラの内容が大部分事実に基づかず、

又は事実を誇張歪曲して被上告会社を非難攻撃し、

全体としてこれを中傷誹謗するものであり、

右ビラの配布により労働者の会社に対する不信感を醸成して企業秩序を乱し、

又はそのおそれがあったものとした原審の認定判断は、

原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができないではなく、

その過程に所論の違法があるものとすることはできません。

そして、原審の右認定判断に基づき、上に述べ来つたところに照らせば、

Xによる本件ビラの配布は、就業時間外に職場外であるYの従業員社宅において職務遂行に関係なく行われたものではあるが、

前記就業規則所定の懲戒事由にあたると解することができ、

これを理由としてXに対して懲戒として譴責を課したことは懲戒権者に認められる裁量権の範囲を超えるものとは認められないというべきであり、

これと同旨の原審の判断は正当です。

【関連判例】


「フジ興産事件と就業規則の周知」
「富士重工業事件と調査協力義務」
「国鉄札幌運転区事件と労働者の施設利用」
「山口観光事件と懲戒の有効性」
「ネスレ日本(懲戒解雇)事件と懲戒権の濫用」
「ダイハツ工業事件と使用者の懲戒権」
「富士見交通事件と懲戒当時に使用者が認識していた非違行為」
「中国電力事件と勤務時間外のビラ配布」
「日本鋼管事件と職場外の行為」
「横浜ゴム事件と私生活上の行為」
「国鉄中国支社事件と私生活上の非違行為」
「国鉄小郡駅事件と私生活上の非違行為」