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懲戒当時に使用者が認識していた非違行為について、
懲戒解雇の際に告知されなかった場合、
懲戒の有効性を根拠付けることはできるのでしょうか。
【事件の概要】
Yは、旅客運送業を営むことを目的とする株式会社です。
Xは、昭和58年12月27日付けでYに雇用され、乗務員として勤務していました。
Xは、平成元年9月、労働組合平塚支部の副支部長に就任し、
その後も同副支部長に選任されていました。
Xは、非就労届を提出して、
平成8年2月27日正午から平塚営業所建物内で開催された支部執行委員会に参加し、
同日午後5時頃話合いが終了した後、
執行委員会を欠席したAら数名とともに市内のスナックに行き、
同日午後7時過ぎから午後12時頃まで飲食し、
営業車両を運転して営業所に戻り、
終業時刻である午前2時まで乗車しませんでした。
Xは、同年3月2日、職場放棄をしたとしてAとともに懲戒解雇されました。
そこで、Xは、懲戒解雇は解雇権の濫用に当たると主張し、
解雇無効による雇用契約上の地位の確認と、
解雇された日以降の賃金の支払いを求めて争いました。
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【判決の概要】
使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、
一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、
その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものです。
したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、
特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、
その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないが、
懲戒当時に使用者が認識していた非違行為については、
それが、たとえ懲戒解雇の際に告知されなかったとしても、
告知された非違行為と実質的に同一性を有し、
あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有するものである場合には、
それをもって当該懲戒の有効性を根拠付けることができると解するのが相当です。
これを本件についてみるに、前記認定の事実関係によれば、
Yは、本件懲戒解雇の際、Y主張に係るXの非違行為のうち本件懲戒解雇前に行われたものすべてについて認識し、
かつ、これを懲戒解雇事由とする意思であったが、
これが多岐にわたるため、本件懲戒解雇を最終的に決定する契機となった事由すなわち平成8年2月27日の職場離脱のみを本件通告書に記載したにすぎず、
懲戒解雇事由をこれに限定する趣旨ではなかったものと認めることができます。
Yは、タクシー乗務員の職場離脱、メーターの不正操作、営業車両の違法駐車、
飲酒運転が多いことを重視して警告を繰り返し、
平成元年頃には、Xら組合役員が就業時間中の職場内においてYに対する中傷等を行い正常な業務運営が妨げられているとして、
組合本部に警告書を発するなどしていたこと、特にX及びAについては、
勤務成績が悪く、営業車両の違法駐車、遅刻、無届けの職場離脱行為のほか、
会社職制や職員に対する暴言、威迫行為が目立つとして、
組合本部の役員らに対しその是正指導方を要請したが一向に是正されなかったことから、
組合委員長に対しこのままではXの解雇もやむを得ないと警告していたこと、
同委員長はその都度解雇を避けるよう要請するとともに、
X及びAに繰り返し忠告していたが、Xらの態度が改まらなかったこと、
このため社長は、平成7年4月15日、組合委員長に対し、
Xの解雇に踏み切らざるを得ないとの通告を行ったこと、
これに対し同委員長が「もう1年だけ待って欲しい」と頼んだので、
もう1度だけ猶予を与えることになったこと、
同委員長はX及びAに対し強く注意したが、
結局本件解雇に至ったこと、以上の事実が認められます。
このような経緯をも総合して考えると、
Xの平成8年2月27日の職場離脱及び飲酒の上での営業車両の運転行為は、
他の非違行為ともども、Xの勤務態度の劣悪さを示すものであるとともに、
Xが組合委員長からこれを改めるよう忠告を受けていたものであって、
一体として密接な関連性を有するとみることができます。
したがって、本件通告書に記載された平成8年2月27日の職場離脱のみならず、
それ以外の前記認定に係るXの非違行為もまた、
本件懲戒解雇の有効性を根拠付けることができるものというべきです。
Yは、Xの度重なる非違行為にもかかわらず、Xの更正を期待し、
組合本部とも連絡をとりながら、懲戒解雇の発動を見送ってきたのであり、
本件懲戒解雇処分に至るまでにXに更正、弁明の機会を十分与えたものということができ、
Xの非違行為の内容、態様、程度等を併せ考えると、
本件懲戒解雇は正当であり、解雇権の濫用には当たりません。
【まとめ】
懲戒当時に使用者が認識していた非違行為については、
それが、たとえ懲戒解雇の際に告知されなかったとしても、
告知された非違行為と実質的に同一性を有し、
あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの、
又は密接な関連性を有するものである場合には、
それをもって当該懲戒の有効性を根拠付けることができます。
【関連判例】
→「フジ興産事件と就業規則の周知」
→「富士重工業事件と調査協力義務」
→「国鉄札幌運転区事件と労働者の施設利用」
→「山口観光事件と懲戒の有効性」
→「ネスレ日本(懲戒解雇)事件と懲戒権の濫用」
→「ダイハツ工業事件と使用者の懲戒権」
→「関西電力事件と使用者の懲戒権」