徳島船井電機事件と親会社の労働契約上の責任

(徳島地判昭50.7.23)

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親会社が子会社の労働組合を壊滅させる目的で子会社を解散させた場合、

解散により解雇された子会社の労働者は、親会社に対して、

雇用契約上の地位を求めることはできるのでしょうか。

【事件の概要】


Y1は、カーステレオ、ホームステレオ、トランジスターラジオの組立製造を業務とする株式会社です。

Xらは、Y1と雇用契約を締結し、それ以来従業員として勤務をしてきました。

Y1は、会社解散に伴い、昭和47年11月15日付で、

Xらをいずれも解雇しました。

そこで、Xらは、

Y1は、Y2とは形式上は別会社で独立した法人格を有しているが、

Y2が100パーセント株式を所有するいわゆる一人会社で、

その企業活動はすべての面でY2が現実に統一的管理支配を行っており、

その営業形態からみれば実質的にはY1はY2の一製造部門にすぎないから、

Y1はいわゆる「法人格否認の法理」により独立した法人格を否認される形式会社であると主張し、

Y2に対して、従業員としての地位保全及び賃金仮払の仮処分を申請しました。

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【判決の概要】


法人格の否認が許される場合として(1)法人格が全くの形がいにすぎない場合、

(2)法人格が法律の適用を回避するために濫用されるがごとき場合の2つを最高裁判所昭和44年2月27日判決はあげており、

この要件は親子会社間の雇用関係につき、

法人格を否認する場合にも原則的には適用さるべきです。

しかし、本件においては、親子会社のいずれかの法人格が全くの形がいに過ぎない場合とは認め難いから、

法人格の濫用を理由に法人格が否認されるための要件について検討するに、

(1)背後の実体である親会社が、子会社を現実的・統一的に支配しうる地位にあり、

子会社とその背後にある親会社とが実質的に同一であること、

(2)背後の実体である親会社が会社形態を利用するにつき違法または不当な目的を有していることを要すると解するのが相当です。

そして子会社の設立それ自体は違法または不当な目的の下になされたものでなくても、

子会社の解散が不当労働行為の意思でなされ、

親企業も直接これに加担している場合には、

解散を理由として子会社がなした従業員の解雇は、

まさに会社形態を利用するにつき違法または不当な目的を有しているものというべく、

(この場合形式的に考えれば、親会社は解散の自由と法人格の異別性の故にその責任を免れることがでる。)このような場合には雇用関係につき、

子会社の法人格は否認せられ、

直接親会社との間に雇用関係の存在(法形式的には雇用契約の承継)を認めるべきです。

これを本件についてみると、Y1会社は実質上Y2会社の一製造部門にすぎず、

経済的には単一の企業体とみられるのみならず、

現実的にも、同社はY1会社の企業活動のすべての面にわたって統一的に支配しており、

本件解散もその指導と是認とのもとに行なわれたことは前記認定のとおりであるから、

前記偽装解散及び法人格否認の法理によりY1会社の解散による解雇はY2会社に対する関係では無効で、

右解雇と同時に、同社従業員の雇用契約上の地位は、

そのままY2会社に承継せられたものといわねばなりません。

親会社、子会社間に経済的に単一の企業体たる実体があり、

企業活動の面において親会社の子会社に対する管理支配が現実的統一的でしかも親会社が株主たる地位に基づく一般的権限を行使するにとどまらず、

さらに進んで子会社の労務関係にまで積極的に関与する場合、

さらには子会社の労働組合活動を壊滅させる目的で、

その支配力を利用して子会社を解散させ、

または同様な目的の子会社と意思を通じその影響力を行使して子会社を解散させ、

それの必然的結果として子会社がその従業員を解雇したような場合に、

法人格の異別性を形式的に貫ぬき親会社に子会社従業員に対する雇用契約上の使用者としての責任を問い得ないとすることは、

正義、衡平の観念に反し、極めて不当であり、

このような場合には、いわゆる法人格否認の法理を適用して、

子会社の法人格を否認し、親会社に雇用契約上の使用者として責任を認めるのが相当です。

法形式的にみれば親会社と子会社の潜在的、実質的雇用契約が、

子会社の解散による解雇、事業の廃止により顕在化、現実化し、

子会社が清算会社として存続しているにかかわらず、

子会社の法人格は否認され、

子会社とその従業員間の雇用契約はそのまま親会社に承継されると解すべきです。

【まとめ】


子会社の解散が不当労働行為の意思でなされ、

親企業も直接これに加担している場合には、

解散を理由として子会社がなした従業員の解雇は、

まさに会社形態を利用するにつき、

違法または不当な目的を有しているものというべく、

このような場合には雇用関係につき、

子会社の法人格は否認され、

直接親会社との間に雇用関係の存在が認められます。

【関連判例】


「朝日放送事件と使用者」
「サガテレビ事件と黙示の労働契約」
「黒川建設事件と親会社の労働契約上の責任」
「大映映像ほか事件と黙示の労働契約の成立」