大映映像ほか事件と黙示の労働契約の成立

(東京高判平5.12.22)

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労働者が他の企業に派遣され就労している場合、

受入先の企業を使用者とする黙示の労働契約が成立しているといえるでしょうか。

【事件の概要】


Aは、新聞等の広告でテレビ番組、コマーシャル映画等にエキストラとして出演する希望者を募り、

希望者を会員として登録し、

テレビ番組、コマーシャル映画等の制作会社からエキストラの出演方を依頼された場合、

会員の中から出演希望者を募集し、

これを制作会社に紹介することを業していました。

Xは、Aの会員として登録し、Yらが制作した番組にエキストラとして出演しました。

Aは、YらからXのエキストラ出演料を受領した後、

これをXに支払う前に倒産してしまいた。

そこで、Xは、このエキストラ出演はXとYらとの間の各雇用契約によるものであると主張して、

Yらに対してその出演料の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


当裁判所も、XとYらとの間において雇用契約が成立したものとは認められないので、

Xの本訴請求はいずれも理由がなく棄却すべきものと判断するが、

その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、

原判決の「第三 争点に対する判断」に説示のとおりであるから、

これを引用します。

XとYらとの間に雇用契約が成立したといえるためには、

XとYらとの間に、単に事実上の使用従属関係があるというだけでなく、

雇用条件決定の経緯、指揮命令関係の有無・内容、労務管理の有無・程度、

賃金の支払い方法等諸般の事情に照して、

XがYらの指揮命令のもとにYらに労務を供給する意思を有し、

これに対し、Yらがその対価としてXに賃金を支払う意思を有するものと推認され、

社会通念上、両者間で雇用契約を締結する旨の意思表示の合致があったと評価できるに足りる事情があることが必要です。

前記認定の事実によれば、テレビ番組及びコマーシャル番組に出演するエキストラは、

原則としてその演技力を重視されることはなく、

エキストラ演技という特殊な労務に一定時間従事することにより、

その時間の長さによって労務の対価が決められるものであり、

契約の相手方が誰であるかを暫く措くとすれば、

その労務提供の契約関係は雇用契約に親しみやすい面があるということができます。

しかしながら他方において、Xは、撮影場所においてエキストラとして出演中、

Yらの助監督やアシスタントディレクターの指示・指導に従って演技をしていたものであるところ、

テレビ番組及びコマーシャル番組を制作するためには、

エキストラといえども一定の制作・撮影方針に沿った演技をすることが必要であり、

そのためには監督等の指示・指導に従うことが要求されることは事柄の性質上当然のことであって、

この点では俳優の場合と異なるところはないというべきです。

したがって、Xが演技をする際に助監督やアシスタントディレクターの指示・指導に従ったとの事実から直ちに、

XとYらとの間に雇用関係として評価し得る使用従属関係があったと判断することはできません。

そして、Xは、Aとの間で出演時期・場所、出演料等の出演条件を合意したときは、

専らAから指示を受けて出演場所に集合し、

出演場所に待機しているAの担当者から集合点呼、移動・休憩・食事・解散の指示を受けており、

出演後にAに対し出演料を請求し、Aからその支払いを受けていたものであって、

無断不出演についてはAから制裁を受けることになっていて、

Yらとの間で出演条件の内容を話し合ったこともないのであり、

他方、Yらは、エキストラの確保をAに依頼し、

その対価をAに一括して支払ってきたが、

エキストラとしてのXがAから受領する出演料の決定に関与しておらず、

また、撮影場所に集合したエキストラに対し面接してその採否を決めたり、

住所氏名を確認したりすることはなく、

特定の個人に着目してエキストラとしての出演を求めているわけではなかったものということができます。

このような事情のもとにおいては、

Yらは、Xの賃金その他の雇用条件を決定しておらず、

Xに対し労務提供につき全般的な指揮命令、労務管理をしていたということもできず、

また、賃金の支払いに関与していたともいえないのであるから、

XがYらの助監督・アシスタントディレクターの指示・指導に基づきエキストラとして演技していた事実があるからといって、

これを根拠にXとYらとの間に雇用契約が黙示に成立したということは困難であるというほかありません。

むしろ、弁論の全趣旨によればAがYのほかにも多数の会社と本件におけると同様の契約を締結しているものと認められること、

及び前記認定の事実関係によれば、Xは、Yらに派遣されるに際しては、

その都度Aと雇用契約を締結し、同社とYらとの間の派遣契約のもとに、

Aの従業員としてYらに派遣されたものと解するのが相当です。

【まとめ】


派遣先企業を使用者とする黙示の労働契約が成立したといえるためには、

派遣先企業と労働者との間に、単に事実上の使用従属関係があるというだけでなく、

雇用条件決定の経緯、指揮命令関係の有無・内容、労務管理の有無・程度、

賃金の支払い方法等諸般の事情に照して、

労働者が派遣先企業の指揮命令のもとに派遣先企業に労務を供給する意思を有し、

これに対し、派遣先企業がその対価として労働者に賃金を支払う意思を有するものと推認され、

社会通念上、両者間で雇用契約を締結する旨の意思表示の合致があったと評価できるに足りる事情があることが必要です。

【関連判例】


「朝日放送事件と使用者」
「サガテレビ事件と黙示の労働契約」
「黒川建設事件と親会社の労働契約上の責任」
「徳島船井電機事件と親会社の労働契約上の責任」