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出張中の労働者が、滞在先のホテルで強盗被害に遭い、
死亡してしまった場合、業務起因性は認められるのでしょうか。
【事件の概要】
Aは、ワカメの加工販売等を業とする株式会社Bの業務本部長の職にありました。
Bは、Aに対し、会社の合弁会社であるC有限公司に対する塩蔵ワカメの検品等を目的として、
平成9年4月14日から同月19日までの間、中国への出張を命じました。
Aは、平成9年4月14日、中国に入国し、Cにおいて乾燥ワカメの技術指導をするなどしました。
Aは、平成9年4月18日午後、宿泊先である大連市内のホテルの自室において、
何者かに所持していた財布(約8万円在中)を窃取された上、
左頸動脈を切り付けられ、
同動脈損傷による出血多量により死亡しました(以下「本件事件」という。)。
Xは、Aの妻であり、その死亡により遺族となり、Aの葬祭を行いました。
Xは、平成9年5月26日、Yに対し、
労災保険法に基づく遺族補償年金給付及び葬祭料の支給請求をしました。
これに対し、Yは、同年9月9日、Xに対し、
Aの死亡は業務上の事由によるものではないとして、
これらを支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をしました。
Xは、本件処分を不服として、審査請求をしたが棄却され、
再審査請求をしたが、これも棄却されました。
そこで、Xは、本件処分の取消を求めて争いました。
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【判決の概要】
労災保険法7条にいう「業務上」の事由による災害と認められるためには、
労働者が労働契約に基づく使用者の従属関係にある場合において(業務遂行性)、
業務を原因として生じた災害であり、
しかも業務に内在する危険性が現実化したものと経験則上認められる場合(業務起因性)であることが必要であるところ、
業務遂行中に生じた災害は、特段の事情がない限り、
業務に起因するものと事実上推定されます。
本件事件は、出張中の宿泊先で発生したものであるが、
上記1に認定した各事実によれば、Aは所定の宿泊施設内で行動していたのであり、
積極的な私的行為や恣意的行為に及んだとは認められないから、
業務遂行性が認められることは明らかです。
ところで、Yは、Aは第三者の故意による加害行為により死亡したものであるから業務起因性はない旨を主張するので、
本件におけるAの死亡について業務起因性があるといえるかどうかを検討します。
上記1(8)ないし(11)に認定した各事実によれば、
Aは、本件事件の際、約8万円入りの財布を強取されたこと、
本件の約半年前に、北京市内のホテルにおいて、
日本人旅行者が殺害された上に金品を強奪されるという、
本件とほぼ同様の事件が発生していたほか、
外国人が宿泊先のホテル内で強盗殺人の被害に遭う事件も発生していたこと、
本件後、大連市内では、日本人が被害者となる事件が複数発生していること、
本件当時、フラマホテルにおいて、宿泊者に対する安全対策が十分であったとはいいがたく、
現に本件事件が発生していることが認められます。
これらの諸事情を前提とすると、本件当時、フラマホテル等において、
日本人が強盗殺人等の被害に遭う危険性はあったというべきであり、
本件事件は、業務に内在する危険性が現実化したものと解されます。
したがって、Aの死亡には業務起因性を否定すべき特段の事情はなく、
労災保険法7条の「業務上死亡した場合」にあたります。
よって、これと結論を異にする本件処分は労災保険法7条の解釈適用を誤ったものとして違法であるといわざるを得ません。
【労災保険法7条】
第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
二 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
三 二次健康診断等給付
◯2 前項第二号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
一 住居と就業の場所との間の往復
二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
◯3 労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第二号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。
【関連判例】
→「横浜南労基署長(東京海上横浜支店)事件と業務起因性」
→「神戸東労基署長(ゴールドリングジャパン)事件と出張中の疾病」
→「大館労基署長(四戸電気工事店)事件と業務上の疾病」
→「十和田労基署長事件と通勤途上の災害」
→「行橋労基署長事件と歓送迎会終了後の送迎行為」
→「福井労基署長(足羽道路企業)事件と業務遂行性」
→「国・中央労基署長(通勤災害)事件と飲酒を伴う会合」
→「能代労基署長(日動建設)事件と「住居・就業の場所」」
→「札幌中央労基署長(札幌市農業センター)事件と合理的な往復経路の「逸脱・中断」」
→「羽曳野労基署長事件と介護行為」