国・中央労基署長(通勤災害)事件と飲酒を伴う会合

(東京高判平20.6.25)

スポンサーリンク










労働者が酒食を伴う会合に参加し、その途中業務が終了した後も、

飲酒したり居眠りしたりした後、

帰宅行為に及び、事故にあった場合、

通勤災害と認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Xの亡夫Aは、建設や工事等を業とするB社に雇用され、

平成11年4月からB社東京支店の事務管理部次長の職にあり、

事務管理部を実質上統括し、同部の部員に対して具体的な指示を行っていました。

B社東京支店では、 毎月月初めに主任会議が開催されており、

主任会議終了後、 勤務時間外である午後5時以降、

飲酒を伴う会合(以下、「本件会合」) が開催されていました。

本件会合への出席は任意で、会合開催時間中、自由に出退席でき、

Aはほぼ毎回出席し、 午後7時ころには退社していました。

本件会合に提供される飲食物の費用はB社が負担していました。

本件会合については、 開催の稟議、 案内状、 議題はなく、

事後に議事録が作成されることもなかったが、

出席者が自由に業務上の意見交換を行い、

結果として本件会合における意見が業務に反映されて業務が改善されることが多々ありました。

B社では、30時間以内の実際の時間外労働時間について時間外手当を支給していたが、

Aのような一定以上の管理職には支給されず、

深夜勤務手当のみが支給されていました。

平成11年12月1日、主任会議終了後、午後5時ころから本件会合が開催され、

Aは主任会議、本件会合ともに出席しており、

当日は事務管理部内の配置換えがあり、本件会合中、

出席者から配置換えに対する不満が出たため、Aは説明や説得を行いました。

その後、Aは午後9時分ころから居眠りしたが、

午後10時15分ころ退社したところ、

帰宅途中に地下鉄の階段で転倒し負傷しました(以下、「本件事故」)。

Aは直ちに病院に搬送され治療を受けたが同月13日に死亡しました。

Xは、本件事故が労災保険法7条1項2号にいう通勤災害に該当するとして、

Yに対し、療養給付、遺族給付、葬祭給付の各請求を行ったところ、

Yは、本件事故は通勤災害に当たらないとしていずれも給付しない旨の決定をしました(以下、「本件処分」)。

Xは、本件処分を不服として、審査請求、審査請求をしたがいずれも棄却されました。

そこで、Xは、本件処分の取消を求めて争いました。

スポンサーリンク










【判決の概要】


本件会合の主催者、費用負担、B社としての位置付け、

本件会合における意見交換による成果からすると、

本件会合を業務と無関係な社員同士の純然たる懇親会とみることはできません。

しかし、本件会合は、通常の勤務時間終了後に開催されていること、

任意参加であること、主任会議参加者の多くは不参加であること、

自由に出退席できること、一律に残業と取り扱われるわけではないこと、

開催の稟議や案内状、議題もなく議事録も作成されないこと、

提供されるアルコールの量も少なくないこと、

B社における本件会合の経緯からすると本件会合は慰労会、懇親会の性格もあり、

また、拘束性も低いから、本件会合への参加自体を直ちに業務であるということはできません。

本件会合の主催者たる事務管理部が料理、アルコールの調達や会場の設営をしているところ、

Aは事務管理部の次長の地位にあり、事務管理部を実質上統括しており、

本件会合にはほぼ最初から参加していること、

B社では本件会合を社員のきたんのない意見を聞く機会と位置付け、

Aは本件会合において社員の意見を聴取するなどしてきたことからすると、

Aについては、本件会合への参加は業務と認めるのが相当です。

しかしながら、Aが本件会合に参加しても従来午後7時ころには退社していること、

本件会合は飲酒を伴うもので終了もアルコールがなくなるころであったという実情にあることや開始時刻からの時間の経過からすると、

午後7時前後には本件会合の目的に従った行事は終了していたと認めるのが相当であるから、

Aにとっても業務性のある参加はせいぜい午後7時前後までというべきです。

本件事故当日の本件会合について業務性のある時間を延長すべき特別な事情はないから、

本件事故当日についてもAの業務性のある本件会合への参加は午後7時前後には終了したというべきです。

Aは業務性のある本件会合への参加の終了後も約3時間、本件会合の参加者と飲酒したり、

居眠りをし、退社して帰宅行為を開始したのは午後10時15分ころです。

Aの帰宅行為は業務終了後相当時間が経過した後であって、

帰宅行為が就業に関してされたといい難いです。

帰宅の際、Aは既に相当程度酩酊し、部下に支えられてやっと歩いている状態であったこと、

階段転落時に防御の措置を執ることもできず、

入院先で採取された血液中のエタノール濃度が高かったことからすると、

本件事故にはAの飲酒酩酊が大きくかかわっているとみざるを得ません。

飲酒酩酊が大きくかかわった本件事故を通常の通勤に生じる危険の発現とみることはできないから、

Aの帰宅行為を合理的な方法による通勤ということはできません。

以上から、本件事故を労災保険法にいう通勤災害と認めることはできません。

【労災保険法7条】


第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。

一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付

二 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付

三 二次健康診断等給付

◯2 前項第二号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。

一 住居と就業の場所との間の往復

二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動

三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)

◯3 労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第二号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。

【関連判例】


「横浜南労基署長(東京海上横浜支店)事件と業務起因性」
「神戸東労基署長(ゴールドリングジャパン)事件と出張中の疾病」
「大館労基署長(四戸電気工事店)事件と業務上の疾病」
「十和田労基署長事件と通勤途上の災害」
「行橋労基署長事件と歓送迎会終了後の送迎行為」
「福井労基署長(足羽道路企業)事件と業務遂行性」
「鳴門労基署長(松浦商店)事件と出張中の労働災害」
「能代労基署長(日動建設)事件と「住居・就業の場所」」
「札幌中央労基署長(札幌市農業センター)事件と合理的な往復経路の「逸脱・中断」」
「羽曳野労基署長事件と介護行為」