スポンサーリンク
単身赴任である労働者が、休日を利用して家族の住む自宅に帰り、
その後、単身赴任先に戻る途中に事故にあった場合、
通勤災害と認められるのでしょうか。
【事件の概要】
Aら3名は、いずれも新潟市所在のN建設に雇用され、
鳶職として稼働していました。
Aらは、秋田県能代市の火力発電所建設工事の施行に伴い、
新潟県内の自宅に家族を残し、
工事現場から9キロメートルの能代市内の寮で単身赴任していました。
ところが、工事現場において使用していたクレーンの修理による工事中断が中断したため、
休日を利用し自宅へ帰省することとし、
休日の前日の午後、工事現場からN建設所有のワゴンで直接自宅へ出発し、
自宅で休日を過ごしました。
N建設から鳶職の危険性ゆえに災害防止のために就労日の前日には寮に戻って充分な睡眠をとるよう指示されていたこともあって、
翌日の就業に備えるため、休日が終わる日の午後に再びワゴン車に同乗して寮へ向かっていたが、
その途中に、路面の凍結によりスリップして、
対抗車線の欄干を破って道路から転落し全員が亡してしまいました。
そのため、Aらの妻Xは、
死亡を通勤によるものである等として能代労基署長Yに対して、
遺族給付等の請求を行いました。
しかし、Yは、Aらの死亡は通勤災害の要件を充足しないとして、
遺族給付を支給しない旨の決定をしました。
Xらは、処分を不服として、審査請求、再審査請求を行いましたが、
いずれも棄却されました。
そこで、Xらは、不支給処分の取り消しを求めて争いました。
スポンサーリンク
【判決の概要】
既に認定したところによれば、本件において、
Aらは、本件工事現場における鳶職としての作業に従事していたものであるから、
本来的には、本件工事現場が、業務を行う場所としての「就業の場所」となることは明らかです。
そして、Aらは、本件工事に従事するための拠点として、
本件寮に居住し、ここで日常生活を営んでいたのであるから、
本件寮が被災者らの「住居」となることもまた疑いを入れないところです。
なお、Xらは、本件寮も「就業の場所」となると主張し、
右一2のとおり、これに沿う証拠もあるが、
既に認定したところによれば、本件寮は、
被災者らが本件工事に従事する期間の宿舎としてN建設が借り上げたものであり、
宿舎としての設備を有するにすぎないものであるから、
特段の事情がない限り、本件寮を「就業の場所」とみることはできないところ、
本件寮における生活がN建設の労務管理下にあるとする右の証拠は、
既に説示したとおり、採用することができません。
また、本件寮において、業務となるミーティング等を行っていたとする証拠もあるが、
仮にそのとおりであったとしても、
これによって本件寮が「就業の場所」となるのは、
右のミーテイング等を行っている時間帯に限った一時的なものであるというべきであり、
既に認定したとおり、本件事故当日には、
本件寮において右のミーティング等が予定されていたのではなかったから、
本件寮に向かっていたAらは、
ミーティング等の行われる「就業の場所」に向かっていたものということはできず、
したがって、この点においても、本件寮を「就業の場所」ということはできません。
結局、本件寮を本来の「就業の場所」ということは困難です。〔中略〕
本件事故当時の行政解釈によっても、
一定の要件を満たして週末帰宅型通勤と認められる場合には、
Aらの自宅もまた「住居」と取り扱われてきたものであるが、
法7条2項が、通勤について、
「就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復すること」と定めていることに照らすと、
本来、単身赴任者らの生活の本拠は家族らの住むそれぞれの自宅であるから、
単身赴任者らが、日常的には自宅を離れた「就業の場所」の近辺の「住居」から通勤しているとしても、
休日等を利用して「就業の場所」と家族らの住む自宅との間を往復しているとすれば、
これが反復・継続するものと認められる限り、
法の定める右の通勤の定義に該当し得るとするのに妨げはないというべきであって、
右の自宅もまた「住居」になるというべきです。
したがって、Aらについても、週末帰宅型通勤を行っていたものと認められる場合には、
Aらの新潟県内の自宅もまた「住居」に該当することとなります。〔中略〕
Aらは、休日の前日の午後に本件工事現場を出発して自宅に戻り、
就労日の前日の昼ころ自宅を出て本件寮に向かう型で帰省をしていたものであるが、
被災者のうち亡A及び亡Bは本件事故発生日を含む週以前の12週間のうち6週間の週において、
亡Cは同じく5週間の週において、いずれも週1回以上自宅に帰っていたのであるから、
右の帰省は反復・継続して行われていたものということができます。
したがって、Xらの主張するように、本件寮に向かって帰任する行為が、
「就業の場所」に向かう行為と同視し得るとすれば、
Aらも週末帰宅型通勤をしていたものということができます。〔中略〕
本件寮は、N建設が請け負った本件工事を支障なく遂行するために、
本件工事現場が従業員の自宅とは遠隔地にあることから、
従業員の宿舎を確保する必要に基づいて、本件工事の期間中に限り、
N建設が借り上げたものであって、本件寮に関わる費用については、
N建設が一切負担していたのであるから、
本件寮は、N建設の事業の運営上の必要から設けられたものであるということができます。
したがって、本件寮は、N建設の業務の必要に基づいて設けられたもので、
本件工事現場と一体となって業務を遂行するための付帯施設であるというべきです。〔中略〕
N建設の従業員らが真に自由な生活を営み得るのはそれぞれの自宅であるというべきであるから、
このような従業員の帰省の必要性には、
他の一般の単身赴任者とは異なった重い意味があるというべきであり、
このような生活状況にある従業員らが、帰省を終えて、
自宅から本件工事現場と一体となった付帯施設である本件寮に向かう行為は、
まさに「就業の場所」に向かうのと質的に異なるところがないというべきです。〔中略〕
以上のとおりであるから、本件においては、本件事故当時、
Aらが、その自宅から本件寮に向かって移動していたのは、
「就業の場所」に向かっていたものと同視し得るものというべきです。
したがって、右三において説示したとおり、
Aらは、週末帰宅型通勤を行っていたものというべきです。〔中略〕
通勤災害に対して保護を与えようとする法の趣旨は、
通勤が業務と密接に関連して行われるものであることから、
これに内在する危険から労働者を保護しようとするところにあるものと解されるから、
その移動が業務と密接に関連して行われていることを要するものであり、
日常的に日々反復して行われる通勤に関しては、
就業を開始する時刻ないしは就業を終えた時刻からかけ離れた時間に移動するのは、
一般的には業務との密接な関運性を失わせるものというべきです。
しかしながら、法は、その往復行為が「就業に関して」行われることを求めているのであって、
右のような業務との密接な関連性が認められれば足りるというべきであるから、
時間的に相当な間隔があるか否か、
Yが主張する直行直帰であるか否かという形式的な面のみから、
右の関連性を判断しなければならないものではないと解すべきです。〔中略〕
本件において、Aらは、鳶職という危険な業務に、
翌日の午前8時から従事することを目的として、
十分な睡眠をとって体調を整えるために、
前日から本件寮に向かっていたものであり、既に説示したとおり、
前日の夕刻までに本件寮に帰任せよという業務命令があったものとまではいえないとしても、
N建設においては、災害防止などのために、
休日に帰省した場合にも、就労日の前日には本件寮に戻り、
十分な睡眠をとった上で就労するように、
常日頃から従業員を教育していたところであるから、
Aらは、まさに、就業に不可欠な行動として、
就労日の前日に移動していたものというべきこととなります。
そして、Aらが、本件事故当時、
翌日の就労とは全く関係のない目的で移動していたことなどを窺わせる事情はなく、
そのような事情の主張・立証もないから、
少なくとも本件のように、週末帰宅型通勤をするに際し、
鳶職という危険な業務に従事することに備えて、
十分に体調を整えるため、就労日の前日に本件寮に帰任しようとしていた場合には、
その移動は、業務に密接に関連するというべきであって、
「就業に関して」行われるものという要件を満たすと解すべきです。
以上のとおりであるから、本件事故は、
Aらが就業に関して週末帰宅型通勤を行っていた途上において発生したものというべきであり、
通勤災害に該当するものであるから、
これを通勤災害には該当しないとした本件処分は違法であり、
取り消されるべきです。
【労災保険法7条】
第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
二 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
三 二次健康診断等給付
◯2 前項第二号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
一 住居と就業の場所との間の往復
二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
◯3 労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第二号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。
【関連判例】
→「横浜南労基署長(東京海上横浜支店)事件と業務起因性」
→「神戸東労基署長(ゴールドリングジャパン)事件と出張中の疾病」
→「大館労基署長(四戸電気工事店)事件と業務上の疾病」
→「十和田労基署長事件と通勤途上の災害」
→「行橋労基署長事件と歓送迎会終了後の送迎行為」
→「福井労基署長(足羽道路企業)事件と業務遂行性」
→「鳴門労基署長(松浦商店)事件と出張中の労働災害」
→「国・中央労基署長(通勤災害)事件と飲酒を伴う会合」
→「札幌中央労基署長(札幌市農業センター)事件と合理的な往復経路の「逸脱・中断」」
→「羽曳野労基署長事件と介護行為」