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勤務先から徒歩で帰宅中の労働者が、
夕食の材料等を購入する目的で、
自宅と反対方向にある商店に向かって歩いている時に、
交通事故にあった場合、通勤災害と認められるのでしょうか。
【事件の概要】
Aは、札幌市のBセンターに臨時的任用職員として勤務していました。
昭和56年6月3日、Aは就業を終えて帰宅の途に着いたが、
途中、通常の通勤経路から140メートル外れた地点にある食料品店へ、
夕食の材料を購入するため歩行していたところ、
通常の通勤経路から40メートルそれた地点で交通事故に遭い、
即死してしまいました。
Xら(Aの夫と18歳未満の子2名)は、昭和56年8月3日、
交通事故は労災保険法7条の定める通勤災害に当たるものとして、
札幌労基署長Yに対して、労災保険給付を請求をしました。
しかし、Yは、昭和56年12月14日、
交通事故はAが通常の通勤経路から逸脱している間に起きたものであるから通勤災害には当たらないとして、
不支給の決定をしました。
Xらは、これを不服として審査請求、再審査請求したが、
いずれもこれを棄却しました。
そこでXらは、不支給決定の取り消しを求めて争いました。
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【判決の概要】
ところで、労働者災害補償保険法(以下においても、昭和61年法律第59号による改正前のもの。)7条2項にいわゆる合理的な経路とは、
労働者の住居と就業の場所との間を往復する場合に一般に労働者が採ると認められる経路をいうものと解され、
同条3項にいわゆる往復の経路を逸脱するとは、
通勤の途中において就業又は通勤と関係のない目的で右の合理的経路をそれることをいい、
同項にいわゆる往復を中断するとは、
通勤の経路上において通勤とは関係のない行為をすることをいうものと解すべきです。
前記の認定事実によれば、Aは、就業の場所であるBセンターから徒歩による退勤途中に、
夕食の材料等を購入する目的で、前記交差点で左折し、
自宅と反対方向にある商店に向かって40数メートル歩行した際に、
本件災害に遭遇したことが明らかにされています。
Aが就業場所と住居との間の通常の経路をそれたことは否定することができないし、
また、その目的も、食事の材料等の購入にあって、
住居と就業の場所との間の往復に通常伴いうる些細な行為の域を出ており、
通勤と無関係なものであるというほかありません。
そうすると、本件災害は、同条3項所定の往復の経路を逸脱した間に生じたものと認めざるをえません。
そして、本件における経路の逸脱はAの日常生活上の必要に基づくことが窺われないではないが、
同条3項の文理上、労働者が往復の経路を逸脱した間は、
たとえその逸脱が日常生活上必要な行為をやむをえない事由により行うための最小限度のものであっても、
同条1項2号の通勤に該当しないことが明らかです。
したがって、本件災害は、労働者災害補償保険法7条1項2号所定の通勤災害に該当しないというべきです。〔中略〕
しかしながら、通勤災害保護制度は、業務上災害とみることは困難であっても、
ある程度不可避的に生ずる社会的危険である通勤災害を、
労働者個人の私生活上の損失として放置すべきでないことから、
元来賠償責任のない事業主による保険料全額の負担の下に、
特に創設された社会的保護制度であって、
その保護を受ける要件は明確に法定されており、
文理を離れていたずらに拡張解釈することは許されないというべきです。
この理は、Xらの主張するとおり、
通勤災害保護制度の立法事実としてILO121号条約採択等の事実があり、
制度制定当時に予測し得なかったほど家事、
育児を担当しながら労働する婦人労働者が増大しているとしても、
いささかも影響を受けないといわなければなりません。
Xらの主張は、立法論として考慮に値するものと言い得ても、
現行法の解釈論としては採用することができません。
【労災保険法7条】
第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
二 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
三 二次健康診断等給付
◯2 前項第二号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
一 住居と就業の場所との間の往復
二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
◯3 労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第二号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。
【関連判例】
→「横浜南労基署長(東京海上横浜支店)事件と業務起因性」
→「神戸東労基署長(ゴールドリングジャパン)事件と出張中の疾病」
→「大館労基署長(四戸電気工事店)事件と業務上の疾病」
→「十和田労基署長事件と通勤途上の災害」
→「行橋労基署長事件と歓送迎会終了後の送迎行為」
→「福井労基署長(足羽道路企業)事件と業務遂行性」
→「鳴門労基署長(松浦商店)事件と出張中の労働災害」
→「国・中央労基署長(通勤災害)事件と飲酒を伴う会合」
→「能代労基署長(日動建設)事件と「住居・就業の場所」」
→「羽曳野労基署長事件と介護行為」