新光美術事件と本採用拒否

(大阪地決平11.2.5)

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試用期間中の労働者が、組合集会に参加した後に、

指示された業務を真剣に行わないなど勤務態度にも問題があるとして、

本採用を拒否されたが、当該本採用拒否は有効なのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、高級カタログの企画立案から印刷・加工まで一貫した受注を行っている印刷会社です。

Xは、試用期間3か月としてYに採用され、

平成10年7月13日より勤務を開始しました。

Xは、同年10月1日、自家用RV車をY所有の遊休地に乗り入れ、

組合事務所に寝泊まりしました。

Xは、同年9月29日の再度の給料遅配や、組合による給料遅配に関する集会に参加後、

度々総務部長から組合加入の有無などを聞かれたこともあって不安になり、

組合に相談に行ってたまたま1泊することになったものです。

これに先立つ同年6月30日、Yは不動産会社と遊休地を売却する契約を締結し、

その明渡しが同年9月30日で、その土地上の組合事務所の撤去が必要であったが、

組合はYの不誠実な対応を理由に、その撤去に応じていなかったことから、

YはXの行為をYへの妨害と捉えました。

また、Yは営業社員を募集する際、未経験者も可という求人広告をし、

Xは採用面接の際、営業社員として即戦力となる旨アピールして採用されたが、

採用後、Xは印刷物の見積計算ができないことが判明したため、

初歩的な見積計算書の練習をさせなければならなりませんでした。

Xは採用面接時、希望給与額を聞かれ、手取り25万円と答えたが、

希望額に満たなかったため、基本給を27万円にして欲しい旨の上申書を提出しました。

Xは、入社後に提出を求められた誓約保証書を提出しなかった外、

同年9月29日、再度の給料遅配が発生した際には、

他の組合員らとともに総務部長らを追及しました。

そして、Xは、Y入社後、M電器A事業部担当となり、

1日2回は訪問するよう指示を受け、これに従って訪問していたが、

会えないことも多かったため、B部長の指示により、

できるだけアポを取って訪問するようになり、訪問頻度は1日1回となりました。

またXは、B部長からM電器の夏期休暇中、

日本橋電器販売店を回るよう指示されたが、訪問できたのは1回だけでした。

同年9月、M電器に対し99年度オーディオ商品販売促進策に関してのプレゼンテーションを行うことになり、

ミーティングを予定していたが、同月9日父が急死したため、

Xは同月13日まで忌引きを取り、復帰後補助業務を命じられました。

Yは、Xが即戦力として期待された能力を有さず、社会常識や責任感を欠如し、

採用面接時には虚偽申告を行い、会社の業務を妨害した外、

指示された業務を真剣に行わないなど勤務態度にも問題があるとして、

Xの本採用を拒否しました。

そこで、Xは、本件本採用拒否は何ら合理的な理由がなく、

解雇権の濫用として無効であるとして、Yに対し、

労働契約上の権利を有することの確認と賃金の支払いを求めて争いました。

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【判決の概要】


本件試用契約は、解約権留保付き労働契約というべきであり、

その留保解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的(採用決定の当初には把握できなかった労働者の資質、性格や能力等を試用期間中の観察等により把握する趣旨・目的)に照らして、

客観的に合理的な理由が存在し、

社会通念上相当として是認される場合のみ許されるというべきであるところ、

Yは、Xに留保解約権を行使した理由として、

Xが営業員としての資質・能力面で必要な適性を欠いていること、

Yに差し入れるべき誓約保証書も提出せず、

入社から10日後に給与額変更の上申書を提出し、

Yの規則に反して大型のRV車を無断で債務者の構内に乗り入れて工事作業に支障となるようなことをしたことを指摘します。

そして、Xが営業員としての資質・能力面で必要な適性を欠いている点については、

具体的にはA事業部に対する営業活動におけるXの勤務態度及び勤務成績が不良であること、

特に、XがA事業部から、同事業部に対する提案に必要な得意先情報を入手し、

これをB部長等に連絡し、自らも右提案についての企画書の骨子案をまとめてこれをB部長等に提出するという役割を果たさなかったこと、

見積価格の積算についての基礎知識が欠如していること、

株式会社C通販事業部宛の提案趣旨及び企画書の作成を指示されながらこれに関する作業を放棄したことを主張します。〔中略〕

Yは、経験者に限った従業員の応募をしていないのであって、

Xが見積価格の積算についての基礎知識が欠如しているために営業員としての適性、能力を欠いていると認めるに足りる疎明はないし、

Xが株式会社C通販事業部宛の提案趣旨及び企画書の作成を指示されたことについては、

この主張に沿うB部長の陳述書(書証略)は、

Xの陳述書(書証略)に照らして直ちに採用することができず、

他に右事実を認めるに足りる疎明はありません。

Xが債務者に差し入れるべき誓約保証書を提出しなかったのは、

給料についての合意がなかったからに過ぎないし(書証略)、

入社から10日後に給与額変更の上申書(書証略)を提出していることもXの資質、性格に疑問をさしはさませるものではないし、

Yの規則に反して大型のRV車を無断でYの構内に乗り入れさせたことも、

それがYの留保解約権の行使を正当化させるものと認めるに足りる疎明はありません。

他に、Xの資質、性格や能力等において従業員としての適格性に問題があると認めるに足りる疎明はありません。

以上によれば、YのXに対する留保解約権の行使につき、

客観的に合理的な理由が存在し、

社会通念上相当として是認される場合に当たると認めるに足りる疎明はないというべきです。

むしろ、前記一で認定した本件解雇に至る経緯によれば、

Xは、B部長によって行われた指示についてはこれを誠実に履行しており、

Yは、Xが自己の労働契約上の権利を主張することを嫌い、

かつ、Xが前記労働組合に加入するのではないかとの疑念を抱いたことから、

本件解雇に至ったのではないかと推認するのが相当です。

したがって、本件解雇は無効であるというべきです。

【関連判例】


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