ニュース証券事件と試用期間途中の解雇

(東京高判平21.9.15)

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試用期間を6か月として、期間の定めのない雇用契約により、

営業職の正社員として雇用された労働者が、

営業担当としての資質に欠けるとの理由で、

6か月の試用期間の経過を待たずに解雇された場合、

その解雇は有効なのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、平成12年4月、O証券株式会社(以下「O証券」という)に入社し、

営業職として勤務してきました。

平成19年5月20日、同社を退職し、同月21日、Yに、

期間の定めのない雇用契約により営業職の正社員として雇用されました。

Xの試用期間は、平成19年6月21日から6か月間とされています。

Xは、平成19年5月21日から同年9月3日までYにて勤務していたが、

この期間のXの手数料収入は、同年6月は63万8000円、

同年7月は41万2000円、同年8月は11万4000円であり、

3か月間の平均額は38万8000円です。

Xの預かり資産は、平成19年6月は2200万円、同年7月は3100万円、

及び同年8月は3800万円でした。

Yは、平成19年9月3日、「営業担当として採用したが、営業担当としての資質に欠けるので、就業規則19条2項(試用期間中に不適と認められるときの解雇)により解雇する」として、

Xを同日付で解雇しました。

そこで、Xは、解雇が無効であるとして、

労働契約上の地位確認及び未払給与の支払等を求めて争いました。

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【判決の概要】


本件雇用契約書(〈証拠略〉)には、

本件雇用契約におけるXの試用期間を6か月とする規定(1条1項)が置かれているところ、

試用期間満了前に、Yはいつでも留保解約権を行使できる旨の規定はないから(同条2項は、試用期間終了時までの間に不適と認められた者につき、同期間終了時において解雇することができるという、試用期間の制度を設けたことに伴う当然の効果を明確にした規定にとどまるものと解すべきである。)、

XとYとの間で、Xの資質、性格、能力等を把握し、

Yの従業員としての適性を判断するために6か月間の試用期間を定める合意が成立したものと認めるべきです。

そして、試用期間が経過した時における解約留保条項に基づく解約権の行使が、

上記のとおり、解約につき客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当と是認され得る場合に制限されることに照らせば、

6か月の試用期間の経過を待たずしてYが行った本件解雇には、

より一層高度の合理性と相当性が求められるものというべきです。

なるほど平成19年5月21日から同年9月3日までの期間のXの手数料収入は高いものとはいえないが、

XとYとの間では、Xの資質、性格、能力等を把握し、

Yの従業員としての適性を判断するために6か月の試用期間を定める合意が成立しているのであって、

わずか3か月強の期間の手数料収入のみをもってXの資質、性格、能力等がYの従業員としての適格性を有しないと判断して本件解雇をすることは、

試用期間を定めた合意に反してYの側で試用期間をXの同意なく短縮するに等しいものというべきであって、

Xが業務上横領等の犯罪を行ったり、

Yの就業規則に違反する行為を重ねながら反省するところがないなど、

試用期間の満了を待つまでもなくXの資質、性格、能力等を把握することができ、

Yの従業員としての適性に著しく欠けるものと判断することができるような特段の事情が認められるのであれば格別、

合意した試用期間である6か月間におけるXの業務能力又は業務遂行の状態を考慮しないでYが行った本件解雇(留保解約権の行使)は、

客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当として是認することができません。

Yは、本件解雇は留保解約権の行使として客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当であるとし、

その理由として、YがXに対して、忠告を行い、

成績を改善する機会を与えていたこと、

Xが、Yに対する訴訟の提起やYの違法行為の公表をほのめかしたことが信頼関係を破壊するものであることを主張します。

しかし、前者については、既に説示したとおり、

XとYとの間で試用期間を6か月と合意したのであるから、

試用期間の経過を待たずして、留保解約権を行使する理由には該当しないというべきであり、

後者については、Xが訴訟を提起することやYの違法行為を内部告発することを理由に、

YがXを不利に扱うことが許容されると解することができないことも、

既に説示したとおりです。

よって、Yの上記主張はいずれも採用することができません。

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