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試用期間中である労働者が、単純なミス多く、
使用者の要求する水準に達していないといして、
試用期間の満了を待たずに解雇されたが、
その解雇は有効なのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、Y病院に総合事務職として採用されました。
Y病院には、3か月の試用期間があります。
試用期間中とはいえ、Xは単純ミスを繰り返し直さないため、
上司が指導・指摘をし、
時には業務において厳しい物言いもすることがありました。
その後、Xは、精神疾患による体調不良を理由に休職届を郵送しました。
Y病院は、試用期間満了まで20日間程度を残す時点で、
Xを、事務能力の欠如により、常勤事務職員としての適性に欠けることを理由に、
解雇しました。
そこで、Xは、解雇の無効を主張し、地位確認及び賃金等の支払を求めて争いました。
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【判決の概要】
Xは、第1回面接において、Aから厳しく指摘され、
第2回面接までの間に、入力についてはその都度3回の見直しをするなどの注意を払うようになったため、
少なくとも入力についてのミスが指摘されることはなくなり、
周りの職員に対する気配りも一定程度するようになるなど、
業務態度等に相当程度の改善が見られました。
第2回面接においては、上記改善が確認されたものの、
Xについては、未だ入力内容を常勤職員が点検している段階で、
ほぼ同時期に入職した派遣事務のDと比較して仕事内容に広がりが生じていることや、
5月以後に受診者が増えたときに健康管理室の業務に対応できないおそれがあるなど、
未だYが常勤事務職員として要求する水準に達していないとして、
Aから、この点が厳しく指摘されました。
そして、Xは、一度は退職する意向を示したものの、本件面談の結果、
退職せずに、引き続き試用期間中は、健康管理室で勤務し、
その間のXの勤務状況を見て、
Yの要求する常勤事務職員の水準に達するかどうかを見極めることになりました。
しかるに、Yは、上記の経緯があるにもかかわらず、
H事務長及びEからそれまでの事実経過等を聴取したにとどまり、
直属の上司であるAからXの勤務態度、勤務成績、勤務状況、
執務の改善状況及び今後の改善の見込み等を直接聴取することもなく、
また、勤務状況等が改善傾向にあり、Xの努力如何によっては、
残りの試用期間を勤務することによってYの要求する常勤事務職員の水準に達する可能性もあるのに、
さらに、Xから、Y理事長に宛てて退職強要や劣悪な労働環境を訴えた手紙が送付され、
次いで、全日本民主医療機関連合会長その他に宛てて、
Yのパワハラ等を訴える手紙が送付されたのであるから、
YからXに対し、これらの手紙の内容が誤解であるならばその旨真摯に誤解を解くなどの努力を行い、
その上で職務復帰を命じ、それでも職務に復帰しないとか、
復帰してもやはりYの要求する常勤事務職員の水準に達しないというのであれば、
その時点で採用を取り消すとするのが前記経緯に照らしても相当であったというべきであり、
加えて、第2回面接があった時点ではA及びEのいずれもXを退職させるとは全く考えていなかったこと(〈人証略〉)も併せ考えれば、
試用期間満了まで20日間程度を残す時点において、
事務能力の欠如により常勤事務としての適性に欠けると判断して本件解雇をしたことは、
解雇すべき時期の選択を誤ったものというべく、
試用期間中の本採用拒否としては、
客観的に合理的理由を有し社会通念上相当であるとまでは認められず、
無効というべきです。
【関連判例】
→「三菱樹脂事件と均等待遇」
→「雅叙園観光事件と試用期間の延長」
→「ブラザー工業事件と長期の試用期間」
→「テーダブルジェー事件と試用期間中の解雇」
→「神戸弘陵学園事件と試用期間」
→「三井倉庫事件と試用期間中の解雇」
→「ブレーンベース事件と試用期間中の解雇」
→「新光美術事件と本採用拒否」