中部カラー事件と就業規則の周知

(東京高判平19.10.30)

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就業規則による退職金制度の変更について、

全体朝礼等での説明や休憩室の壁への掲示をした場合、

労働者に対して、周知したと認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、天然色及び一般写真フィルム並びに印画紙の現像、密着、

引伸、複写の加工並びに販売等を業とする株式会社です。

Xは、昭和50年3月にYに入社し、

平成15年11月30日、自己都合によりYを退社しました。

勤続期間は28年9か月でした。

Xは、Yに対し、平成12年4月1日一部変更の就業規則及び同就業規則の委任を受けた退職年金規程に従って計算した退職金の支払を求めました。

しかし、Yは、就業規則は平成15年4月1日一部変更され、

この変更後の就業規則に従って計算された退職金は、

すでにXに支払った主張し、争ってています。

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【判決の概要】


(1) 争点(1)(就業規則の変更の有無)について  

ア 乙2、29号証によれば、乙29就業規則の末尾には、

変更日が「平成6年4月1日一部変更」、「平成9年4月1日一部変更」、

「平成12年4月1日一部変更」と記載されているのに対し、

乙2就業規則の末尾には、変更日が「平成6年4月1日一部変更」、

「平成15年4月1日一部変更」と記載されているだけであり、

乙2就業規則には、変更の経過がすべて記載されているわけではないことが認められます。

イ しかし、平成14年4月1日に確定給付企業年金法が施行され、

全国の企業に対して、退職金準備制度を適格退職年金制度から他の制度への移行することが求められ、

Yにおいても新制度を採用することとし、移行のための手続がとられ〔中略〕、

平成15年4月1日に乙29就業規則を一部変更して乙2就業規則としたものです。

ウ 以上から、Yは、労働基準監督署に対する変更の届出はしていないが、

乙29就業規則を一部変更して乙2就業規則を成立させたものと認められます(その有効性の点は、後述する。)。

(2) 争点(2)(変更後の就業規則の有効性)について

ア 乙2就業規則が労働基準監督署への届出が行われなかったことは、前記のとおりです。

イ しかし、就業規則の変更について、労働基準監督署への届出がなかった場合であっても、

従業員に対し実質的に周知されていれば、変更は有効と解する余地があるので、

以下、乙2就業規則への変更が従業員に対し、

実質的に周知されたかについて判断します。〔中略〕

d 以上から、経営会議、全体朝礼における説明などにより、

Xを含む従業員に対し、実質的周知がされたものとはいえません。

(イ) 次に、Yの休憩室の壁に就業規則が掛けてあり、

そのことを従業員は知っていたとのYの主張について検討します。

a 前記のとおり、乙2就業規則には、退職金の金額の計算、算出に関して、

73条という規定を置くのみであり、

それ以外、中退共から支給される退職金の金額、

第一生命の養老保険の解約返還金の金額の計算を可能とする原判決の別紙1ないし3として添付されたようなものが存在しません。

したがって、Yの就業規則がYの休憩室の壁に掛けてあったとしても、

中退共から支給される退職金の金額、

第一生命の養老保険の解約返還金の金額の計算を可能とするものが掛けられていたわけではありませんでした。

b 労働基準法89条3号の2は、「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払並びに退職手当の支払に関する事項」について就業規則を作成し、

行政官庁に届け出ることを要求しています。

ところが、本件において、届出の点は措くとしても、

退職手当の決定、計算に関して乙2就業規則には定められておらず、

仮に、Yの休憩室の壁に就業規則が掛けてあったとしても、

それは退職手当の決定、計算に関する事項に関する規程を含まない就業規則にすぎません。

以上から、仮に、Yの休憩室の壁に乙2就業規則が掛けてあったとしても、

Xを含む従業員に対し、退職金の計算について実質的周知がされたものとはいえません。

なお、新制度は、退職金準備制度を適格退職年金制度から中退共及び第一生命の養老保険に移行することとしたが、

このうち養老保険は運用利回りの変動に伴い配当、返戻金も変動するから、

就業規則に確定額を記載することはできません。

しかし、就業規則においては、Yが退職者に対し、

一定の条件を満たす従業員が退職した場合には退職金を支給すること、

Yは、退職金を、中小企業退職金共済制度による給付と第一生命の養老保険による保険金により支払うものとすること、

中小企業退職金共済制度による給付(基本退職金及び付加退職金)は、

従業員ごとに掛金月額を設定し、掛金納付月数により給付額が算定されるものであり、

掛金納付月数が12月未満の場合は退職金は支給されず、

12月以上24月未満の場合は、掛金納付額を下回ることなどを明示すること、

Yは従業員に対し、中小企業退職金共済事業団、

第一生命から定期的に受け取る確定給付金企業年金又は養老保険の業務の運用状況等の情報(具体的には、中小企業退職金共済事業団については、掛金納付状況票及び退職金試算票(乙6)など)を事務所に備え付けるなどし、

かつ、そのように備えつけてあることを速やかに従業員に対し周知させるものとすることなどの規定を設けることは、十分可能です。

(ウ) 以上から、乙2就業規則への変更が従業員に対し実質的に周知されたとは認められません。

そして、この結論は、Xが中退共の契約である中小企業退職金共済契約申込書(勤労者退職金共済機構中小企業退職金共済事業本部宛)に自筆で署名したこと〔中略〕、

Xが退職願を提出した際、Yの会長らが慰留したこと〔中略〕により、

影響を受けるものではありません。

そして、乙2就業規則への変更が従業員に対し実質的に周知されたとは認められないことなどから、

同変更は無効であり、乙29就業規則が効力を有するものと認めます。

【まとめ】


経営会議、全体朝礼等での説明や休憩室の壁掲示などでは、

退職金の計算についての従業員への実質的周知がされたものといえません。

【関連判例】


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