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労働契約の締結準備をしている過程で、
使用者に過失があった場合、
労働者は損害賠償を請求できるでしょうか。
【事件の概要】
Xは、中小企業であるZの取締役兼総務部長でした。
小規模な家族的企業であるYは、
かねてより経営全般の助言をしていたXを幹部社員として採用しようと考え、
Xに給与等の入社条件を知らせ、Xの意思確認をしていました。
ところが、Yは興信所調査の結果、Xに不信感を抱くようになりました。
Xは、Yとの間に雇用契約が確実に成立すると信じ、
Zに強く慰留されたがこれを振り切って退社したにもかかわらず、
Yに入社を断られました。
そこで、Xは、Yに対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求しました。
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【判決の概要】
契約締結の準備段階であっても、その当事者は、
信義則上互いに相手方と誠実に交渉しなければならず、
相手方の財産上の利益や人格を毀損するようなことはできる限り避けるべきです。
特に本件は雇傭契約の締結をめぐっての準備段階とはいっても、
YがXを幹部社員として迎えるかどうかであって、
両者の信頼関係は通常の契約締結準備段階よりも強かったことはさきに認定したとおりです。
したがって、右準備段階での一方の当事者の言動を相手方が誤解し、
契約が成立し、もしくは確実に成立するとの誤った認識のもとに行動しようとし、
その結果として過大な損害を負担する結果を招く可能性があるような場合には、
一方の当事者としても相手方の誤解を是正し、
損害の発生を防止することに協力すべき信義則上の義務があり、
同義務に違背したときはこれによって相手方に加えた損害を賠償すべき責任があると解するのが相当です。
【関連判例】
→「三菱樹脂事件と均等待遇」
→「大日本印刷事件と採用内定」
→「神戸弘陵学園事件と試用期間」
→「炭研精工事件と経歴詐称」
→「慶応病院看護婦不採用事件と採用の自由」
→「わいわいランド(解雇)事件と労働契約締結における信義則違反」
→「ユタカ精工事件と契約締結過程の損害回避義務」
→「KPIソリューションズ事件と労働者の申告義務」
→「コーセーアールイー(第2)事件と内々定の取り消し」