わいわいランド(解雇)事件と労働契約締結における信義則違反

(大阪高判平13.3.6)

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使用者は、自らが示した雇用条件をもって、

労働者に対して雇用を実現し、

雇用を続けることができるよう配慮すべき信義則上の注意義務はあるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、フランチャイズ方式で園長を募集する方式で託児所を経営する有限会社です。

平成11年4月からのZ社からの保育業務委託を見込み、

保育ルームのトレーナーとしてXらを勧誘し、

Xらは、おおむね承諾していました。

当時幼稚園教諭であったX1及び工務店等で勤務していたX2(幼稚園教諭歴あり)は、

その数ヶ月後、労働条件を記載した雇入通知表と就労開始月の勤務表を交付され、

X1は承諾、X2は労働条件が勧誘時の会社の説明と異なっていたため、

考えさせて欲しいと述べるに止まっていました。

その後、Xらは、会社Yの指示により出席した会議でトレーナーとして紹介されたが、

結局、Yは、委託業務契約が成立しなかったことを理由に就労開始前にXらに対し、

「この話はなかったことにして下さい」と述べたため、

Xらは、これは解雇の意思表示であり、解雇権濫用にあたるとして、

債務不履行又は不法行為責任に基づく慰謝料等の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


使用者は、被用者との雇用契約が期限の定のないものである場合、

権利の濫用等の場合を除いて、

解雇の意思表示によって雇用契約を終了させることができます。

Yは、X1と期限の定のない雇用契約を結び、

そのなかでX1の職種等としてZ等からの委託に基づくヤクルト保育ルームでの保母及びトレーナーとする旨を合意したことが認められます。

ところが、前示認定のとおり、Zとの保育業務委託契約が成立するに至らなかったため、

X1に提供する職場を確保することができなくなりました。

そこで、Yは平成11年4月6日にX1を解雇する旨の意思表示(本件解雇)をしたものです。

本件解雇は、予定していたZの保育所における業務をYが委託を受けることができなくなったという客観的な事実を理由とするものです。

X1もそこを職場とすることを予定して雇用契約を結んだものです。

したがって、本件解雇は、やむをえないものであって、

権利の濫用や信義則に違反するとはいえません。〔中略〕

Yは、X1に対する本件解雇をするにあたり30日以上前にその予告をしたとは認められません。

したがって、その解雇通知は、即時解雇としての効力を生じないが、

特段の事情がない限り、通知後労働基準法20条1項所定の30日の期間を経過したときに解雇の効力を生ずるものです(最判昭和35.3.11民集14巻3号403頁参照)。

したがって、Yに対し労働基準法114条所定の付加金請求権はともかく、

同法20条1項に基づく同条項所定の30日分以上の平均賃金相当の解雇予告手当の支払請求権が生ずるわけではありません。

この場合、X1は、本件解雇の生ずるまでの期間の賃金請求をなすことができます(民法413条、536条2項)。

以上によると、X1のYに対する解雇予告手当の支払請求は理由がなく棄却を免れません。

しかし、X1はYに対し平成11年4月6日からの1か月分の賃金24万円の支払を求めることができます。〔中略〕

Yは、保育所を運営するYの代表者として、Xらに積極的に働きかけ、

具体的な雇用条件を提示してYとの雇用契約を結ぶことを勧誘しました。

Xらは、その結果、Yの言葉を信頼し、Yと雇用契約を結んだうえ、

相当期間保母等として勤務を続けることができるものと期待しました。

雇用契約の性質上、労務に服するXらが、

Yと雇用契約を結ぼうとする場合は、勤務先があるときはこれを解約し、

また転職予定があってもこれを断念しなければなりません。

Yはこのことを知っていたか、知ることができたはずです。

雇用によって被用者が得る賃金は生活の糧であることが通常であることにもかんがみると、

Yは、Xらの信頼に答(ママ)えて、

自らが示した雇用条件をもってXらの雇用を実現し雇用を続けることができるよう配慮すべき信義則上の注意義務があったというべきです。

また、副次的にはXらがYを信頼したことによって発生することのある損害を抑止するために、

雇用の実現、継続に関係する客観的な事情を説明する義務もあったということができます。

ところが、Yは、Zとの保育業務の委託契約の折衝当初からこれが成立するものと誤って判断しました。

そのうえ、その折衝経過及び内容をXらに説明することなく、

業務委託契約の成立があるものとしてYとの雇用契約を勧誘しました。

その結果、X1については契約を締結させたものの就労する機会もなく失職させ、

X2については雇用契約を締結することなく失職させたものです。

Yに帰責事由がないとのYの主張は採用できません。

以上のYの一連の行為は、全体としてこれをみると、

Xらが雇用の場を得て賃金を得ることができた法的地位を違法に侵害した不法行為にあたるものというべきです。

したがって、Yが代表者の地位にあるYは民法709条、44条1項により、

これと相当因果関係にあるXらの損害を賠償する義務があります。〔中略〕

前示認定のX1の再就職状況や通常再就職に要する期間(数か月単位であろう。)、

雇用保険法における一般被保険者の求職者給付中の基本手当の受給資格としての最低被保険者期間が6か月であること(最低限度の就職期間と評価することができる。)にかんがみると、

X1がYの不法行為によってYから賃金を得ることができなかった期間のうち、

その5か月分(X1は前示のとおり平成11年4月分の賃金の支払を受けることができるから、これとあわせて6か月分となる。)を不法行為と相当因果関係に立つと認めるのが相当です。

【まとめ】


使用者は、労働者の信頼にこたえて、

自らが示した雇用条件をもって、労働者の雇用を実現し、

雇用を続けることができるよう配慮すべき信義則上の注意義務があります。

また、副次的には労働者が使用者を信頼したことによって発生することのある損害を抑止するために、

雇用の実現、継続に関係する客観的な事情を説明する義務もあります。

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