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取引先から個人的にお金を借り入れたり、
その取引先に顧客を紹介したりしたことに対して、
謝礼を受領した労働者に対する懲戒解雇処分は、
有効なのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、Y銀行の本店営業部主任調査役でした。
Xは、支店の副支店長時代に、取引先の不動産会社から個人的に350万円を借り入れ、
更に、渉外業務で知り合った顧客をその取引先に紹介して、
不動産取引を成功させた謝礼として約620万円の謝礼を受け取りまいした。
Yは、Xのそれらの行為が、就業規則所定の懲戒解雇事由(規則規程に反して不正行為があったとき、職務に関連して不正に謝礼等を受けたとき)に該当するとして、
Xを懲戒解雇しまいした。
また、退職金規程によって退職金を支払いませんでした。
そこで、Xは、主位的に解雇無効を主張し雇用関係存在の確認、
予備的に解雇が有効であった場合に退職金の支払を請求しました。
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【判決の概要】
Yが業として普通銀行を営んでおり、
広く社会一般から預金等の形態で調達した資金を運用することを企業活動の根本とする以上、
Yの銀行業務の公正さに対して社会一般から寄せられる信頼を維持していくことが企業秩序の維持・存続の大前提であること、
本件就業規則12条(7)は、
銀行の取引先及び関係者に対する金銭・手形・物品の借入れを禁止しているのみならず、
銀行の取引先及び関係者に対する金銭・手形・物品の貸付け及びその保証並びに銀行の取引先及び関係者に対する金融のあっせんも禁止していること、
以上の点に照らせば、本件就業規則12条(7)は、
Yの職員個人と特定の取引先との癒着を想起させる金銭消費貸借等を禁止することで、
Yの公正さに対する顧客一般の信頼を確保する目的で設けられた規定であると解されます。〔中略〕
そうすると、本件金銭借入は、本件就業規則12条(7)に違反しているというべきであり、
したがって、本件就業規則73条(2)に該当するというべきです(なお、本件就業規則73条(2)で懲戒処分の対象となるのは単に規則・規程に違反する「行為」ではなく、規則・規程に違反する「不正行為」であるが、本件就業規則12条(7)が設けられた趣旨からすれば、本件就業規則12条(7)に違反する行為は「公正さ」を害する行為という意味において「不正行為」であると解することができるから、本件就業規則12条(7)に違反する行為は本件就業規則73条(2)に該当するものというべきである。)。〔中略〕
Yの銀行業務の公正さに対して社会一般から寄せられる信頼を維持していくことが企業秩序の維持・存続の大前提であるといえること、
本件就業規則12条(6)は、Yの職員が職務に関連して贈与及び饗応を受けることを一切禁止していること、
以上の点に照らせば、本件就業規則12条(6)は、
Yの職員個人と特定の取引先との癒着を想起させる謝礼の受領等を禁止することで、
Yの公正さに対する顧客一般の信頼を確保する目的で設けられた規定であると解されます。〔中略〕
本件解雇の懲戒処分としての相当性について前記一で認定した事実によれば、
Yにおいては、その営む銀行業務の公正さに対して社会一般から寄せられる信頼を維持していくことが企業秩序の維持・存続の大前提であり、
Yの公正さに対する顧客一般の信頼を確保する目的で本件就業規則12条(7)及び12条(6)を設けているが、
Xが行った本件金銭借入及び本件謝礼受領は、
これらの規定に違反する行為であり、
Yとしては到底看過することができない重大な非違行為であるといえること、
本件金銭借入及び本件謝礼受領の各非違行為を犯した当時のXは、
板橋支店の副支店長の地位にあり、
部下の職員に被告の諸規定・規則類を遵守するよう指導監督すべき職責を担っていた者であるにもかかわらず、
そのような職責を担うXが自ら率先して本件就業規則をないがしろにする所為に出たことは、
YとXとの間の信頼関係を破壊するものといえること、
Xが本件金銭借入及び本件謝礼受領によって得た金員は620万円余りと多額にのぼっており、
その金額はXの請求に係る退職一時金の金額よりも多いこと、
以上の事実が認められ、これらの事実を総合すれば、
Xは、Yから本件金銭借入及び本件謝礼受領について事情を聴取された早い段階で本件金銭借入及び本件謝礼受領を認めていたこと、
Xは、A銀行から通算すると、Yに19年余り勤務していたことになるが、
前記第二の二2の事実及び証拠(〈証拠略〉)によれば、
その間のXの勤務態度や勤務成績が格別不良であったことは認められないこと、
本件金銭借入及び本件謝礼受領によってYに実損害が発生したことやYの対外的な信用が毀損されたことはうかがわれないこと、
本件金銭借入や本件謝礼受領によってYの職員に対し何らかの悪影響を与えたこともうかがわれないことなど、
Xに有利な事実を勘案しても、
Yが本件金銭借入及び本件謝礼受領を理由にXに対する懲戒処分として懲戒解雇を選択したことは合理的かつやむを得ないものであると認めることができます。
Xに賞罰委員会の席上での弁明の機会を与えていなかったこと、
しかし、賞罰委員会の委員でもある人事部長及び人事部副部長がXと面談しており、
その面談の際に本件金銭借入及び本件謝礼受領を認めた上で、
これらの行為が本件就業規則上禁止されていることは理解していた旨を表明していたこと、
Xは、検査部におる事情聴取の際に、
本件金銭借入及び本件謝礼受領を自認しており、
その旨の自筆の調書が作成されていたことが認められ、
これらの事実によれば、Xに賞罰委員会の席上での弁明の機会を与えていなかったからといって、
そのことから直ちに本件解雇の手続に瑕疵があり、
本件解雇が無効であるということはできません。
以上によれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由を有し、
社会通念上相当として是認することができるから、
解雇権の濫用として無効であるということはできません。
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