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法人事務局の最高責任者であった労働者が、
会計処理上違法な行為を行った等を理由にされた懲戒免職処分は、
有効なのでしょうか。
【事件の概要】
学校法人Yは、中学校及び高等学校を運営しています。
Xは、Yの長期計画推進室長として雇用され、
採用後約半年後からYの法人事務次長を兼務していました。
Xは、法人事務次長として、
〔1〕台風災害復旧工事に関してYの法人事務組織規程、決済規程、経理規定等に違反し、適切な事務処理、会計処理を行わず、特定企業(D社)に工事代金の不当な水増し請求を行わせるなど、その任に背き、Y学園に損害を与えた、
〔2〕リース契約に関し、Yとクレジット会社との間に、必要もないのに殊更D社を介在させ、虚偽の内容のリース契約をさせるなどして、D社に不当な利得を得させた、
〔3〕日常の勤務態度は劣悪であり、Yの職員としての適格性を欠く行為が多々あること、
等を理由として、就業規則に照らし、
Yは、Xを懲戒免職処分としました。
そこで、Xはこれを不当として、従業員たる地位の確認、
賃金等の支払いを求めて争いました。
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【判決の概要】
本件懲戒免職を無効であるとした原審の判断は、是認することができません。
その理由は、次のとおりです。
(1)前記事実関係によれば、Yは、補助金の交付を受ける学校法人であるが、
本件台風被害に関しA海上から2992万6349円に上る保険金の支払を受けながら、
A海上に指示して工事業者に対し保険金を直接振り込ませ、
その処理について正規の決裁の手続を履践せず、
保険金受領の事実及び本件復旧工事代金支払の事実を何ら会計帳簿に記載しなかったものです。
Yにおいて上記のような簡略な支払方法を主導しこれを実行させたのはXであり、
それがB理事長の意向に沿ったものとしても、
適正な会計処理に直結すべき正規の決裁手続を行わなかった責任は、
Xにあるといわざるを得ません。
Xが、C経理課長の上司である事務局次長という要職にあり、
本件復旧工事の処理の担当とされていたことを考えれば、
適正な会計帳簿を作成しなかったことについてC経理課長に責任があるなどの事情があったとしても、
Xの責任が軽減されるものではありません。〔中略〕
Xは、YがA海上から本件復旧工事代金を賄うに足りる保険金の支払を受けることができるような措置を執り、
これが奏功すると、A海上に保険金の中からDワークに対して工事代金を直接振り込ませることにより、
A海上から支払を受けた保険金と本件復旧工事代金との差額をDワークに取得させたものです。
しかしながら、本件損害保険契約に基づき支払われた保険金は、
正当な金額である限り、保険契約者であるYに帰属すべきものであるし、
過大な部分があれば、Yがこれを返還すべき義務を負うべきものであるから、
Yが、Xの上記各行為により、損害を受けなかったものとはいえません。
そして、Xの上記各行為は、生徒の父母、学校関係者、監督行政庁、
さらには社会一般から、Yが不正行為を行っているという疑惑を招くことを避けられないものであって、
著しく不相当な行為です。
その結果、前記のとおり、Yの学校関係者から、
本件復旧工事に関連する保険金の支払方法等につき、
Xが不正な行為をしているのではないかとの指摘等がされ、
広島県知事が、Yに対し、
本件台風被害に係る保険金収入及び本件復旧工事代金の支払を学校会計に計上していないこと等が法令及び寄附行為に違反するとの指摘を行い、
改善実施計画等を作成して提出するように求め、
Yに対する補助金の交付を保留することとしたのです。
これらによれば、Xは、Yが著しく不相当な行為を行ったとして社会一般から非難され、
信用を失墜したことについて、責任を免れません。〔中略〕
Xは、法人事務局次長であり、職員としては法人事務局の最高責任者であったのに、
会計処理上違法な行為を行い、Yの信用を失墜させ、
Yに損害を与えたのであって、その責任を軽視することはできません。
原審が挙げるような事情によって、
Xの責任が軽減されるということはできません。
また、Xは、特定の業者に契約に基づかない利得を与えて、
これと深い結び付きを持ったと見られてもやむを得ません。
そうすると、YがXに対し本件懲戒免職に及んだことは、
客観的にみて合理的理由に基づくものというべきであり、
本件懲戒免職は、社会通念上相当として是認することができ、
懲戒権を濫用したものということはできません。
【関連判例】
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