長野電鉄事件と企業の風紀を乱す行為

(東京高判昭41.7.30)

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妻子あるバス運転手が未成年の女子車掌と情交関係を持ち、

同女を妊娠させたことに対して、

懲戒解雇とすべきところを普通解雇処分としたが、

当該処分は有効なのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、地方鉄道事業、自動車運送業、旅館等の観光事業、

索道事業等を営む株式会社です。

Xは、昭和33年3月7日、Yに自動車運転士として雇用されました。

Xは、昭和34年4月1日以降、Yの自動車部営業課に所属し、

バスの運転士として勤務していました。

Xには、妻子があったが、独身の女子車掌と長期にわたり情交関係をもち、

同女を妊娠させました。

そのため、Yは、XがYの風紀を乱し職場秩序を破ったことを理由に、

Xは、昭和40年5月31日に普通解雇されました。

そこで、Xは、普通解雇は解雇権の濫用であり無効であるとして、

地位保全の仮処分を求めました。

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【判決の概要】


Yは協約第28条第1号就業規則第97条により懲戒による解雇処分をなしうるとともに、

協約第28条第2号ないし第8号により通常解雇をなしうるものと解します。

そして協約第28条第4号、第5号および第6号には就業規則第97条第3号、

第4号および第1号の各規定と同一ないし類似の内容が規定されているが、

後者は解雇以外の降職または諭旨退職等の懲戒事由たる場合をも含んでおり、

かつ、懲戒解雇事由に該当する場合においても事情を勘案して懲戒解雇に処することなく、

同一の事由を通常解雇事由と定めた協約の当該条項にもとづいて通常解雇に付することは、

もとより妨げないところと解すべきであり、

この点はY主張のとおりであるが、

既にYが通常解雇の処置を択んだ以上、その経緯の如何を問わず、

これをもって協約第28条第1号の「懲戒により解雇処分をされたとき」とある条項によったものといいえないことは明らかです。

妻子を有し分別ある年輩の運転士たるXが無責任にも同じ職場に勤務する未成年の女子車掌と長期間にわたり不倫な関係を結んだ挙句同女を妊娠させ、

その中絶手術を受けて退職するの止むなきに至らしめた行為は、

それ自体すでにY従業員間の風紀を紊し職場の秩序を破ること著しきものであり、

これによって現に当該女子車掌の退職、女子従業員の不安動揺、

求人についての悪影響等を招来したほか、

バス事業を経営するYの企業者としての社会的地位、名誉、

信用等を傷つけるとともに多かれ少かれその業務の正常な運営を阻害し、

もってYに損害を与えたものと認められるからです。

元来運転士および女子車掌間の風紀維持はバス事業運営のため経営者として最も留意すべき重要事項であるから、

Yが運転士たるXによって引き起された本件の如き態様程度の風紀紊乱に対し、

事業体の名誉信用を維持し、

その正常なる業務の運営を計るうえに到底これを放置しえないものとして協約所定の該当条項を適用しXを企業の埓外に排除したのは、

その立場上まことにやむをえない措置であったといわざるをえません。

これを解雇権の濫用であるとするXの主張は全く理由がありません。

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