小川建設事件と労働者の二重就職

(東京地決昭57.11.19)

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会社に無断で就業時間外に二重就職した労働者が、

解雇処分されたが、当該処分は有効なのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、総合建設業、一般土木建築工事業等を目的とした会社です。

Xは、昭和55年2月25日Yに雇用され、事務員として勤務してきました。

Xの勤務時間は午前8時45分から午後5時15分までであり、

その具体的職務内容は本社・外回りの社員・顧客からの電話連絡の処理、

営業所内の清掃、本社と営業所との通信事務、営業所内の書類整理等でした。

Xは、Yに勤務する傍ら、キャバレーにおいて、

昭和55年4月8日から同年5月15日まではリスト係として、

また同年6月10日からは会計係として勤務しました。

Xの同キヤバレーでの勤務時間は午後6時から午前零時まででした。

Xのキャバレーへの二重就職がYに知れるところとなり、

Yは、Xに対し、昭和57年1月23日付内容証明郵便により、

二重就職は会社就業規則第31条4項に該当するので懲戒解雇にすべきところを通常解雇にとどめるとして、

通常解雇の意思表示をなし、同意思表示は、

昭和57年1月25日、Xに到達しました。

そこで、Xは、解雇が無効である旨を主張し、

労働契約上の地位保全と賃金支払の仮処分を求めて争いました。

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【判決の概要】


法律で兼業が禁止されている公務員と異り、

私企業の労働者は一般的には兼業は禁止されておらず、

その制限禁止は就業規則等の具体的定めによることになるが、

労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ、

労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由であることからして、

就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠きます。

しかしながら、労働者がその自由なる時間を精神的肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労働提供のための基礎的条件をなすものであるから、

使用者としても労働者の自由な時間の利用について関心を持たざるをえず、

また、兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し、

または企業の対外的信用、体面が傷つけられる場合もありうるので、

従業員の兼業の許否について、

労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえでの会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とはいいがく、

したがって、同趣旨のY就業規則第31条4項の規定は合理性を有するものです。

Y就業規則第31条4項の規定は、

前述のとおり従業員が二重就職をするについて当該兼業の職務内容が会社に対する本来の労務提供に支障を与えるものではないか等の判断を会社に委ねる趣旨をも含むものであるから、

本件Xの兼業の職務内容のいかんにかかわらず、

XがYに対して兼業の具体的職務内容を告知してその承諾を求めることなく、

無断で二重就職したことは、それ自体が企業秩序を阻害する行為であり、

Yに対する雇用契約上の信用関係を破壊する行為と評価されうるものです。

そして、本件Xの兼業の職務内容は、Yの就業時間とは重複してはいないものの、

軽労働とはいえ毎日の勤務時間は6時間に互りかつ深夜に及ぶものであって、

単なる余暇利用のアルバイトの域を越えるものであり、

したがって当該兼業がYへの労務の誠実な提供に何らかの支障をきたす蓋然性が高いものとみるのが社会一般の通念であり、

事前にYへの申告があった場合には当然にYの承諾が得られるとは限らないものであったことからして、

本件Xの無断二重就職行為は不問に付して然るべきものとは認められません。

更に、審尋の結果および本件疎明資料によれば、

Xには、本件二重就職の影響によるものか否かは明らかではないが、

就業時間中居眠りが多く、残業を嫌忌する等の就業態度がみられ、

また、本件解雇後の事情ではあるが、Xは、Y採用面接に際してYに提出した履歴書中には「クラブおおとり」や「東宝観光株式会社」等水商売関係への勤務経歴を脱漏させていた節がみられることや、

前記横浜地方裁判所での地位保全等仮処分事件のX本人尋問において、

後の供述で訂正はしたものの、

Yに雇用されている事実を隠蔽する供述をしたことなどがYのXに対する信用を一層失わしめることとなったことがそれぞれ認められます。

これらの事情を総合すれば、

Yが前記Xの無断二重就職の就業規則違背行為をとらえて懲戒解雇とすべきところを通常解雇にした処置は企業秩序維持のためにやむをえないものであって妥当性を欠くものとはいいがたく、

本件解雇当時Xは既に前記キャバレー「相模原ハリウツド」への勤務を事実上やめていたとの事情を考慮しても、

右解雇が権利濫用により無効であるとは認めることができません。

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