都タクシー事件とアルバイト

(広島地決昭59.12.18)

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非番の日に会社に無断でアルバイトをした労働者が、

懲戒事由に該当するとして解雇されたが、

当該解雇は有効なのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、タクシー営業を目的とする会社であり、

Xは、昭和52年9月2日、Yにタクシー乗務員として雇用されました。

Xは、3年前から非番日に、会社に無断で輸送車の移送、

船積み等をするアルバイトに従事し、

加えて移送に関して中心的責任者として、

長期的に継続的に報酬を受取っていました。

アルバイトは、輸出車に関するものであるから、

常時あるわけではなく、回数も一定していないが、

平均すると非番日の中で1か月7、8回(多いときには10回以上)でした。

Yは、Xに対し、就業規則所定の懲戒解雇事由である会社の承諾なき兼職に当るが、

普通解雇処分にしました。

そこで、Xは、地位保全等の仮処分を求めて争いました。

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【判決の概要】


前記のYの就業規則13条1号、69条4号は会社の事前承諾を得ない従業員の兼職を禁止しているものと解されるが、

労働者は原則として労働契約に定められた労働時間のみ服務する義務を負うものであるし、

右就業規則において兼業禁止違反の制裁が懲戒解雇を基準としていること等に照らすと、

就業規則によって禁止されるのは会社の秩序を乱し、

労務の提供に支障を来たすおそれのあるものに限られると解するのが相当です。

これを本件についてみるに、

Yのタクシー運転手の就労時間は午前8時から翌日午前2時までであり、

勤務日が1か月13日くらいでその余が非番日或いは休日となること、

Xのアルバイトの回数(多いときには1か月10回以上)、

継続した期間、及び後記するように連絡責任者の地位はそれ程重要視すべきでないとしても、

Xからの連絡によりYの従業員4、5人がアルバイトに行くようになること(予め定められた順に従って機械的に連絡していたとは認めい。)、

タクシー乗務の性質上、乗務前の休養が要請されること等の事情を考えると、

Xの本件アルバイト(連絡責任者としての行為を含む)は、

Yの就業規則により禁止された兼業に該当すると解するのが相当です。

しかしながら、前記の勤務及びアルバイトの時間からみて、

アルバイトには勤務の後に十分に休養できないまま行くことになるが、

夕方には終了するから、その夜は休養できるものであって、

翌日が勤務日でも午前8時からの就労に備えることもできる(但し、長期的には影響を無視し得ない。)こと、

1週に1度は非番日と休日が連続すること、

Yにおいては、昭和52年ころから相当数の従業員が輸出車移送等のアルバイトをしていたが、

それが原因で現実に労務提供に支障が生じたことをうかがわせる資料はないこと、

YはXが連絡責任者であったことを強調するが、

アルバイト料も同じで特別の手当等があるわけではなく、

班員からの1か月500円の拠出金の内、謝礼にあたる部分は1か月分が1日のアルバイト料にも満たない金額であり、

かつ、わずらわしさからその立場になるのを断る者もいるくらいで、

実質的には単なる連絡係に近いものとみられ、

班員との間に余り大きな差異はないこと(これに対し、今回のアルバイトに対する処分例に照らすと、Yは連絡責任者のみを解雇の対象としていたとみられる。)、

Yの従業員の間では長期間、本件のアルバイトが行なわれており、

その中には課長、班長など管理職も含まれるなど、

課長以下の従業員の間では半ば公然と行なわれていたとみられ、

かつ、Yではアルバイトについての具体的な指導注意がなされていなかったこと(特に、昭和58年には陸運事務所からタクシー運転手の輸出車に関するアルバイトにつき注意がなされたのに、Yはそのとき判明した運転手に自社の者が含まれていなかったので、特に何らの措置をとらなかったこと)、

従って、従業員のアルバイトに対する考え方がやや甘くなるような状況があったとみられること、

Xは会社に知られてからアルバイトに行ってないこと、

Yの就業規則には、兼業禁止違反は懲戒解雇を基準とするが、

各種の事状を考慮して決定する旨の規定があり、

懲戒には他に譴責、減給、昇給停止、業務停止、出勤停止、格下げ、説諭退社があること、

アルバイトに行っていた他の従業員に対する懲戒処分の内容、並びにYはXの勤務成績不良も解雇理由の一つであると主張し、

Xの運賃収入が乗務員の下位である(これは疎明資料により一応認められる)がアルバイトと勤務成績を関連づける疎明資料はないこと(むしろ、Xが別の理由により残業までしなくてよいと話していたとの疎明がある)等の事情を綜合すると、

YがXに対し何らの指導注意をしないまま直ちになした解雇は(懲戒解雇を普通解雇にしたとしても)余りに過酷であり、

解雇権の濫用として許されないものと認めるのが相当です。

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