日経ビーピー事件と職務怠慢

(東京地判平14.4.22)

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労働者の業務過誤、無断欠席、業務命令違反等に対してなされた各種懲戒処分、

その後の長期欠勤と再三なされた職務復帰命令の違反等を理由に懲戒解雇されたが、

当該処分は有効なのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、出版会社Yに採用され、数次の異動を経ながらも編集業務に従事してきました。

Xは、記者として就労した際には、

取材時に一貫してメモを取らないという取材方針を貫いたため、

記事のもと情報が不正確になり取材先との間でトラブルになったこと、

文章の表現力が不十分でそのままでは記事として使えないこと等から各職場における上司の記者としての評価は非常に悪く、

又パソコン通信システムの担当の際には、

メッセージの書き込みにより会社の信用を傷つけたとしてけん責処分を受けるなど勤務実績はすこぶる悪いとの評価を受け、

又周囲との関係での態度や、体力不足から又上司と口論した直後に突然に年休をとったり、

記事の締切りを守らず周囲の記者が穴埋めしたりするなど各配属先の上司や同僚からの勤務態度に関する評価も悪かったため、

人事部でXを他の編集部に異動することが検討されたが、

引き受けようとする編集長がなく、又他の部での受け入れを拒まれたことから、

福利厚生部への異動命令がなされました。

しかし、そこでも業務過誤を繰り返し、

その経過報告書の提出命令も2度にわたり拒否したためけん責処分を受け、

その後上司が警告書で出席を命じたにもかかわらず福利厚生部会を約2か月間で7回にわたり欠席したことから再度けん責処分、

その後も同部会の度々の欠席、無断の早退、業務命令の不服従があったことを理由に減給処分や出勤停止処分され、

その後も同様の行為を繰り返したうえ事情聴取も拒否して約2か月欠勤する旨の電子メールを上司に送信した以降、

出社せず、上司からの再三の欠勤届の提出、

メールや郵便、FAXによる出社指示などによる職場復帰命令にも応じなかったため、

Yは、Xを懲戒解雇しました。

そこで、Xは、Y社の編集記者としての地位の確認及び各種懲戒の無効確認並びに慰謝料の支払いを求めて争いました。

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【判決の概要】


XとYとの労働契約は、職種指定契約であるとの主張については、

職種指定契約の意味が、Yに職種を超えた異動命令権がないという意味であるとすれば、

これを認定させるだけの証拠はなく、X本人尋問においても、

Yの職種を超えた異動命令権を否定まではしていないと供述しています。

むしろ、前記認定によれば、Xは、Yと労働契約を締結した際、

他の内定者と同様の労働条件の提示を受け、

Yが業務上の都合による転勤、職場の変更を命令する権限を有するという内容を含む就業規則を守るとの誓約保証書を作成していることからすれば、

Xは、Yに配転命令権があるという労働条件による労働契約を締結したと考えるのが相当です。〔中略〕

Xは、Yが配転命令権があることを前提としても、

Xに対する本件異動命令は、Xを必要とする業務上の理由がないのに、

不当な動機に基づいて行われたものであること、

編集記者の身分に伴って支給される手当が受給できなくなることから、

Yの異動命令権の濫用であるから無効であると主張します。

しかし、前記認定によれば、本件異動命令は、

Xが10年以上、Yに記者として稼働した結果、

記者としての働きぶりについての上司や同僚から評価が芳しくないことから、

異動対象としてXを引き受けようとする編集長がいなかったという客観的状況を踏まえて、

Yが、人材の活用を考えた結果行ったものであり、

労働力の適正配置、業務の能率運営、業務運営上の円滑化という観点からは、

業務上の必要性があって本件異動命令が出されたものと考えるのが相当です。

Xの主張する本件異動命令の不当な動機についての具体的な根拠はありません。

また、Xは、本件異動命令により、

編集記者として受給していた手当が受けられなくなると主張します。

もとより、勤務時間帯が不規則な編集記者と福利厚生部のような事務職とでは、

時間外賃金の積算方法が異なり得るにしても、

それをもって通常甘受すべき程度を超えたものと評価することはできません。

以上から、異動命令権の濫用であるとするXの主張もまた、採用することはできません。

したがって、本件異動命令は適法であって、有効であるという結論となります。〔中略〕

前記認定のとおり、本件第2けん責処分の後の福利厚生部会を欠席し、

過誤防止の一つの手段としてYが出した伝票をA次長に提出するとの業務指示を拒否し、

また、了解を取って早退することの指示違反をしたことが、

就業規則51条1号に該当するとして、本件減給処分をしたことは、

妥当な処分であると評価することができます。〔中略〕

前記認定のとおり、本件減給処分後のXによる福利厚生部会の度重なる欠席、

伝票のA次長への不提出という業務指示違反、

Xの業務過誤に関する事情聴取の拒否を就業規則51条1号に該当するとして出勤停止処分を行うことは、

相当なものであると評価することができます。〔中略〕

前記認定によれば、Xは、平成12年1月11日から同年3月2日までの長期間、

上司による承認を受けることなく連続して欠勤し、

Y、Yの人事部長及び人事・総務担当役員による職務復帰命令に違反したという点は、

XのYの従業員としての基本的な義務に反する重大な命令違反であるといわなければなりません。

それだけでなく、前記認定のとおり、本件出勤停止処分の後の福利厚生部会の出席拒否、

伝票をA次長に提出するとの指示命令違反行為、

早退に許可を受けるべしとの指示命令違反行為は、

Xの重大な非違行為であると評価することができます。

そして、前述のとおり、Xは、それまでに、

本件第1けん責処分、本件第2けん責処分、

本件減給処分及び本件出勤停止処分という懲戒処分を受けていることを合わせ考えれば、

本件懲戒解雇は、相当な処分であるし、

平等原則の見地からも適切であるといわなければなりません。

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