関西フエルトファブリック事件と部下の不祥事

(大阪地判平10.3.23)

スポンサーリンク










部下の多額の金銭の横領行為を重大な過失によって見過ごしたことによって、

被害額を著しく増大させたこと等を理由として営業所長の労働者が懲戒解雇されたが、

当該処分は有効なのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、フェルトの製造・加工・販売を業とする会社です。

Xは、YのH営業所の営業所長であったが、その在任中に、

経理担当社員Aの多額にわたる金銭横領行為を知りながら、

その社員と右横領金で多数回飲食をともにし、

また、不良債権の入金を偽装工作するなどしたことが、

就業規則63条3号の「会社内における窃盗、横領、傷害などの刑法犯に該当する行為があったとき」、

同条7号の「重大な過失により会社に損害を与えたとき」に該当するとして、

懲戒解雇されました。

そこで、Xは、懲戒解雇の無効を求めて争いました。

スポンサーリンク










【判決の概要】


XがAの横領行為に積極的に加担ないし関与した(抗弁1(二)(1))とまでは断定できないものの(なお、前記のB会社及びC会社の未払金並びに前借金の返済に関する原告の行為は、横領に関わる行為というよりは、不良債権の発覚を恐れてした行為であると認められる。)、

Aが経理手続を一手に握っている以上、

Xが健全な常識を働かせればAの行為に不審の念を抱き、

同人がYの金員を横領していることを容易に知り得る状況にあったということができます。

そして、Xが広島営業所の営業所長(ないし所長代理)として経理関係書類をチェックしていれば容易にAの横領行為を発見できたのであり、

とりわけ日計表と現金預金残高を確認照合するなどしさえすればAの横領行為をたやすく発見し得たにもかかわらず、

Xが経理内容のチェックを著しく怠ったため、

Aの横領行為の発見が遅れ、

その結果、Yの被害額を著しく増大させたということができます。

よって、Xの右所為は、

Y就業規則63条7号に規定する「重大な過失により会社に損害を与えたとき」に該当するものということができるので、

本件解雇は有効です。〔中略〕

Xが広島営業所(とりわけ所長代理及び所長)在任中にAの横領額が目立って増加していること、

AがXと飲食をともにするなどし、

D所長をはじめ歴代の営業所長に比してXと長時間密接に行動をともにしていたにもかかわらず、

かえってXによる経理上のチェックが全くされなかったことからAの横領行為を助長したふしがあることなどが認められるであって、

これらによれば、Xの義務違反の程度は決して軽視できないものを含むばかりか、

Xが月20万円程度の給与しかもらっていないAに対し、

歓送迎会の2次会費用をはじめ、

「味処藤」での飲食費や取引先の未払金等さまざまな場面で数万円から数十万円もの金額の立替払いをさせておきながら、

その精算を全く申し出ることなく漫然これを放置し、

又はAが右のごとき大金を立て替えることにつきほとんど何らの疑問を呈することがなかったことなど前記認定事実をも加味すれば、

Xの義務違反の内容は重大な過失とはいえほとんど故意に近い程度のものといって差し支えないものであり、

その点からも特に本件解雇が懲戒処分として重きに失するものとはいえず、

したがって、本件解雇が懲戒権の濫用として無効であるとの原告の主張は理由がありません。〔中略〕

前記認定事実並びに証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、

Yが本件解雇に当たり、平成7年5月22日及び同年6月21日の合計2回にわたって、

Xに対し、事前の事情聴取の機会を設けたこと、

その際、XはEらからAの横領への関与の有無につき詰問調で質問を受けたものの、

Aの横領を知りつつ関与したものではない旨答えて、

終始Aの横領への関与を否認していたことが認められるところ、

右Eらによる事情聴取がある程度詰問調であったとしても、

横領という不祥事の真相解明のためには事の性質上ある程度まではやむを得ないと考えられるのであって、

X自身Aの横領への関与の事実を否認し続けていたことなどに照らしても、

特に強制にわたっていたとは認められず、

手続的に適正を欠くものではなかったと認められます。〔中略〕

解雇予告手当の支払なき解雇は即時解雇としては効力を有しないが、

使用者が即時解雇に固執する趣旨でないときは、

解雇から30日の経過又は30日分の給与相当額が支払われたときに解雇としての効力が発生すると解されるところ、

本件においてYは必ずしも即時解雇に固執する趣旨ではないと認められるので、

本件解雇から30日が経過した平成7年7月21日に懲戒解雇としての効力が発生するものと解されます(この点、Xが主張するように、本件解雇自体が予告手当不払いの故に当然に無効であるということはできない。)。

【関連判例】


「東京プレス工業事件と無断遅刻・欠勤」
「日経ビーピー事件と職務怠慢」
「日本HP(ヒューレット・パッカード)事件と精神的不調による欠勤」
「日経クイック情報事件と私用メール」
「K工業技術専門学校事件と私用メール」
「グレイワールドワイド事件と私用メール」
「古河鉱業足尾製作所事件と企業秘密の漏洩」
「日本リーバ事件と企業秘密の漏洩」
「メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件と秘密保持義務」