日経クイック情報事件と私用メール

(東京地判平14.2.26)

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勤務時間中に私用メールを送ることは、

懲戒処分の対象になり得るのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、経済情報等をコンピューター処理して販売すること等を業とする会社です。

Xは、営業関係の業務を担当し社内システム委員会の委員を担当していました。

Yでは、ある社員に対して誹謗中傷メールが送信されてきた事件等があり、

その送信者がXである可能性が高いと判断され、

Yがその調査等を行った過程(第1回事情聴取)で、

Xの私用メールが過度であることが判明しました。

そのことについての第2回事情聴取が行われた結果、

Yは、Xの私用メールが就業規則所定の懲戒処分事由に該当するとして、

Xを譴責処分にしました。(第2回事情聴取後Xは退職届を提出している)

そこで、Xは、第1回及び第2回事情聴取がXの名誉毀損に当たる、

X使用のパソコン等の調査及びその際入手したXの個人データをその後も返却しないこと、

その印刷物を自ら閲覧し、

また、多数の者に閲覧させたことはXのプライバシー等の侵害に当たるなどと主張して、

慰謝料等の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


使用者の行う企業秩序違反事件の調査に対する労働者の協力義務については次のように解されます。

すなわち、企業秩序は、企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであるから、

企業は企業秩序を定立し維持する権限を有します。

他方、労働者は労働契約の締結によって当然に企業秩序の遵守義務を負います。

したがって、企業は、具体的な規則を定めるまでもなく当然のこととして、

企業秩序を維持確保するため、具体的に労働者に指示、命令することができ、

また、企業秩序に違反する行為があった場合には、

その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、

乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、

又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、

事実関係の調査をすることができます。

しかしながら、上記調査や命令も、

それが企業の円滑な運営上必要かつ合理的なものであること、

その方法態様が労働者の人格や自由に対する行きすぎた支配や拘束ではないことを要し、

調査等の必要性を欠いたり、

調査の態様等が社会的に許容しうる限界を超えていると認められる場合には労働者の精神的自由を侵害した違法な行為として不法行為を構成することがあります。〔中略〕

誹謗中傷メールの送信者が、

A及びBにごく近い立場のYの社員であることは明らかであり、

その内容がAの言動を事細かに指摘し、非難し、皆から嫌われているとするなど、

その送信は違法性を有すると考えられ、

Aの申出で(ママ)に応じて発信者を特定して防止措置を講じることはもちろん必要であり、

のみならず、それは企業秩序を乱す行為であり、

就業規則(3条のほか、29条の1、2、10項、55条の1、5、8、12項)に照らして懲戒処分の対象となる可能性があるから、

その観点からいっても速やかに調査の必要があります。

そして、メールの送受信記録、XとBの関係、

XがAのパソコンを預かったことからすると、

Xが誹謗中傷メールの送信者であると疑う合理的理由があったから、

Xに対し事情聴取その他の調査を行う業務上の必要があったということができます。
〔中略〕

Yとしては、まず、誹謗中傷メール事件について、

Xにはその送信者であると合理的に疑われる事情が存したことから、

Xから事情聴取したが、

その結果、Xが送信者であることを否定する一方、

その疑いをぬぐい去ることができなかったのであるから、

さらに調査をする必要があり、

事件が社内でメールを使用して行われたことからすると、

その犯人の特定につながる情報がXのメールファイルに書かれている可能性があり、

その内容を点検する必要がありました。

また、私用メール事件についても、

私用メールは、送信者が文書を考え作成し送信することにより、

送信者がその間職務専念義務に違反し、

かつ、私用で会社の施設を使用するという企業秩序違反行為を行うことになることはもちろん、

受信者に私用メールを読ませることにより受信者の就労を阻害することにもなります。

また、本件ではこれに止まらず、証拠(〈証拠略〉)によると、

受信者に返事を求める内容のもの、

これに応じて現に返信として私用メールが送信されたものが相当数存在します。

これは、自分が職務専念義務等に違反するだけではなく、

受信者に返事の文書を考え作成し送信させることにより、

送信者にその間職務専念義務に違反し、

私用で会社の施設を使用させるという企業秩序違反行為を行わせるものです。

【まとめ】


私用メールは、送信者が文書を考え作成し送信することにより、

送信者がその間職務専念義務に違反し、

かつ、私用で会社の施設を使用するという企業秩序違反行為を行うことになることはもちろん、

受信者に私用メールを読ませることにより受信者の就労を阻害することにもなり、

懲戒処分の対象となる可能性があります。

【関連判例】


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