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業務用のパソコンを利用して出会い系サイトに登録したり、
大量の私用メールを送受信していたこと等を理由にされた懲戒解雇は、
有効なのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、私立学校法人Yが経営するK工業技術専門学校で教員として26年間勤務してきました。
Xは、本件当時は授業担当の教師と進路指導課長を兼任していました。
この進路指導課長は、学生課長や教務課長等とならんで校長に次ぐ役職でした。
Yでは、全職員にパソコンが貸与されていたが、
使用方法や遵守事項等につき特に指示はなく、
使用規程も定められていませんでした。
Xは、平成12年12月頃から、貸与された業務用パソコンを使用しての私用メールにより、
出会い系サイトで知り合った複数の女性と連絡を取り合い、
メールを交換したりしていました。
平成15年8月に投稿した掲示板でメールアドレスを閲覧可能にしていたため、
その掲示板を見た者からYに連絡があり、Xの行為が発覚しました。
Yは、Xの私的メールを知り、メールサーバーの調査をしたところ、
平成10年9月から平成15年9月までのXのメールにつき、
受信記録約1650通のうち約半数と、
送信記録約1330通の約6割がそのような私用メールであり、
それらの約半数が昼休みを除く勤務時間内に行われていました。
Yは、処分が決まるまでの間、Xを出勤停止処分にした上で、
就業規則に基づき懲戒解雇にしました。
そこで、Xは、本件懲戒解雇処分は権利の濫用により無効であるとして、
雇用契約上の地位の確認と未払の給与の支払いを求めて争いました。
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【判決の概要】
Xが受送信したメールには性的な関係を持つことを露骨に求めるものは少なく、
日常の出来事に関する雑談に類するようなたわいもないものがほとんどであったとしても、
Xは、Yから貸与されたパーソナルコンピューターを使用し、
本件メールアドレスを用いて平成12年12月18日ころからaとの間で私用メールのやり取りを繰り返し、
その後も、多数の出会い系サイトに登録し、
同サイトで知り合った女性(又は女性を名乗る者)との間でメールのやり取りを繰り返していたものであり、
その回数も、ハードディスクに保存されていたものだけでも、
平成10年9月21日から平成15年9月3日までの間の受信記録は1650件余、
平成11年5月18日から平成15年9月4日までの送信記録も1330件余にのぼっており、
そのうちのa及び出会い系サイトでの受送信分も各800件以上という膨大な件数に達していて、
しかも、その約半数程度が勤務時間内に受送信され、
また、XがYからパーソナルコンピューターを引き上げた平成15年9月から夏休みを挟んだ同年6月中に限ってみても、
同パーソナルコンピューターによる送受信メールは各約100件ずつあり、
しかも、そのほとんどがbとの私的なメールのやり取りであって、
業務に関連するものはほとんどなく、連日のように複数回メールを送信し、
その多くが勤務時間内に行われていたものであるなど、
Xの行っていた私用メールは、
Yの服務規則に定める職責の遂行に専念すべき義務等に著しく反し、
その程度も相当に重いものというほかありません。
また、Xは、たわいのないメールの送受信にとどまらず、
その発信元がYのパーソナルコンピューターであることを推知し得る本件メールアドレスを用い、
しかも、前記のとおり、複数のメール相手からYのパーソナルコンピューターを使用していることについての危倶を示されていたにもかかわらず、
平成15年7月18日には、「自分はMじゃないかな?またはMですよって思っている女性の方、先ずはお互いを十分理解するまでメール交換しましょう。話を重ねていく中でお互いの信頼が確立するまではプレーには入りませんし貴女の嫌がる行為は基本的にしません。ソフトでもハードでもご要望にお答えしますので、勇気を出して先ずメールを下さい。秘密厳守しますので安心して下さい。」との、
同年8月6日には、「M嬢を探しています。経験、年齢は一切問いませんので少しでも興味があればメール下さい。お互いの感性を知ることが大切ですのでメールからゆっくり始めましょう。感性が合うM嬢と良きパートナーの関係が築けるようにお互いに努力して行きたいと思っています。SMに少しでも興味があってマゾっ気の女性であればどなたでもどうぞメール待っています。」との露骨に性的関係を求める内容のメールを送信し、
しかも、上記メールは同年9月16日まで削除されることなく、
第三者も閲覧可能な状態にあったのであり、
かかるXの行為は著しく軽率かつ不謹慎であるとともに、
これによりYの品位、体面及び名誉信用を傷つけるものというべきです。
(中略)しかし、Xは、Yのものであることを推知し得る本件アドレスを用いてSMの相手を求める旨の内容のメールを送信していたものであり、
かかるメールが第三者に閲覧可能な状態におかれただけでYの名誉等を傷つけ得るものであって、
このことは、上記メールを通じてXが現実に交際をしたか否かとは関わりのないところであるし、
Yとの雇用契約に基づき、Xは勤務時間中、
Yの職務に専念すべき義務を負っていたものと認められるにもかかわらず、
Xは、前記のとおり、長期間にわたり、
膨大な量の私用メールを勤務時間中に送受信していたものであり、
その分の時間と労力を本来の職務に充てれば、
より一層の成果が得られたはずであって、
かかる職務専念義務を軽視し得ないほどに怠っておきながら、
事務を疎かにしなかったなどということはできません。
また、勤務時間中、職務に用いるために貸与されたパーソナルコンピューターを用いた私用メールのやり取りを長期間にわたり、
かつ膨大な回数にわたって続けることが許容されるはずがないことは誰にでも分かる自明のことであって、
Yがパーソナルコンピューターの使用規程を設けていたか否かによって、
その背信性の程度を異にするものということはできないし、
X以外のYの職員の中に、少なくとも、
Xに匹敵するほどに私用メールを繰り返していた者がいたことを推認させる証拠はなく、
仮にかかる行為を行っていた者が他にいたとしても、
Yがその事実を把握していながら、Xに限って、
懲戒解雇するなどの偏頗な処分をしていたことを窺わせる証拠もありません。
Yの調査によってXの不正行為が発覚した後も、
本件出勤停止の措置が採られるまでの間、
事情聴取をした上司に対して謝罪や反省の弁を述べることもなかったのであり、
その後に謝罪文を提出し、同僚が嘆願を求めるなどしていたとしても、
そのことを殊更に重視することはできません。
また、本件懲戒解雇が過去のXの行為に対する報復的なものであると認めるに足りる証拠はないうえ、
前記のとおりのXの非違行為の程度及びXが教育者たる立場にあったことからすれば、
本件懲戒解雇は誠にやむを得ないものであって、
これが不当に苛酷なものということもできません。(中略)
上記のとおり、Xが行った行為がYの服務規則に定める懲戒解雇事由に該当することは明らかであり、
このことは、Xの行為によって、
現実にYの志願者数に影響を与えるなどの実害を生じたか否かによって変わるところはないし、
その他に、本件懲戒解雇が解雇権の濫用であるとしてXが縷々主張するところは、
いずれも採用することができません。
以上によれば、本件懲戒解雇は相当であり、
これが権利の濫用として許されないものということはできないから、
その余の点を判断するまでもなく、Xの本訴請求には理由がありません。
【関連判例】
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