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就業時間中に業務用パソコンで私用メールを送受信する行為は、
職務専念義務違反となり、
一切認められないのでしょうか。
【事件の概要】
Yは、広告企画,ブランド構築等を主たる業務とする会社です。
Xは、昭和54年2月にYに採用され、社長秘書として勤務した後、
平成元年11月からはインターナショナル・コーディネーターとして、
主に秘書業務、英文による情報提供業務等に従事していました。
Xは、業務用のパソコンを利用して、就業時間に多数の私用メールを送受信し、
Yの内部のみならず外部に対しても、Yの経営陣を「わがアホバカCEO」などと呼び、
経営陣がYを私物化し、
不公正で恣意的な人事を行っているなどと繰り返し批判したこと等を理由に、
解雇されました。
そこで、Xは、本件解雇は解雇権の濫用として無効であるとして、
従業員としての地位の確認と未払賃金の支払いを求めて争いました。
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【判決の概要】
労働者は、労働契約上の義務として就業時間中は職務に専念すべき義務を負っているが、
労働者といえども個人として社会生活を送っている以上、
就業時間中に外部と連絡をとることが一切許されないわけではなく、
就業規則等に特段の定めがない限り、職務遂行の支障とならず、
使用者に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる限度で使用者のパソコン等を利用して私用メールを送受信しても上記職務専念義務に違反するものではないと考えられます。
本件について見ると,Yにおいては就業時間中の私用メールが明確には禁じられていなかった上、
就業時間中にXが送受信したメールは1日あたり2通程度であり、
それによってXが職務遂行に支障を来したとかYに過度の経済的負担をかけたとは認められず、
社会通念上相当な範囲内にとどまるというべきであるから、
私用メールの送受信行為自体をとらえてXが職務専念義務に違反したということはできません。
以上を前提に本件解雇が解雇権の濫用にあたるか否かを検討するに、
Yの主張する解雇事由のうち、
就業規則上の解雇事由に該当するといえるのは、
私用メールによる上司への誹謗中傷行為及び他の従業員の転職あっせん行為のみであり、
後者については前記のとおり背信性の程度が低いこと、
Xが、本件解雇時まで約22年間にわたりYのもとで勤務し、
その間、特段の非違行為もなく、
むしろ良好な勤務実績を挙げてYに貢献してきたことを併せ考慮すると、
本件解雇が客観的合理性及び社会的相当性を備えているとは評価し難いです。
したがって、本件解雇は解雇権の濫用にあたり無効です。
【関連判例】
→「東京プレス工業事件と無断遅刻・欠勤」
→「日経ビーピー事件と職務怠慢」
→「日本HP(ヒューレット・パッカード)事件と精神的不調による欠勤」
→「関西フエルトファブリック事件と部下の不祥事」
→「日経クイック情報事件と私用メール」
→「K工業技術専門学校事件と私用メール」
→「古河鉱業足尾製作所事件と企業秘密の漏洩」
→「日本リーバ事件と企業秘密の漏洩」
→「メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件と秘密保持義務」