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早期退職制度を利用して退職した労働者が、
その後、競業会社へ就職することを知ったことから、
事業の重大な秘密を漏洩しようとしたことが明らかであるとして懲戒解雇されたが、
当該処分は有効なのでしょうか。
【事件の概要】
Yは、化粧品の製造販売等を営む会社です。
Xは、Yのコンシューマー・リサーチ・マネージャーとして、
コンシューマリサーチの方法の提案・実施及び予算管理に従事していました。
Xは、Yの早期退職制度を利用して退職したが、
その後、Xが競業会社へ就職することを知ることとなり、
Yは、事業の重大な秘密を漏洩しようとしたことが明らかであるとして、
Xを懲戒解雇としました。
そこで、Xは、懲戒解雇は無効であるとして、
早期退職割増退職金の支払いを求めて争いました。
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【判決の概要】
ア 化粧品等の輸入手続の照会について
XがAやEの依頼を受けてしたFに対する化粧品等(泥パック製品)の輸入手続等の照会は、
Yの組織、資源を利用して他人を利する行為であるといえなくはないが、
Fに照会しEに伝えた事項は、主として法律上、行政上の事項であり、
Yの秘密や保護に値する事項ではないから、
これをもって、秘密保持義務違反があるということはできません。
イ Yが開発を検討していた透明石鹸のサンプルの開発依頼について
透明石鹸はYが開発を検討していた石鹸であり、
成分、コスト、着色等の付加価値の有無、刺激性の強弱などは、
Yの商品としての基本的な重要データであり、Yの事業の重大なる秘密であると認められます。
Xは、これらのデータをE社から聞き出して、Aに伝えると共に、
Aの指示どおりのサンプルを作らせて、これをAやEに送っているのであり、
Aが日本R社に就職してからも行われていることからすると、
Yに対する背信的な秘密漏洩行為であるといわざるを得ませn。(中略)
ウ ポート・サンライト会議の出席、同会議の資料の持ち出し、データの漏えいについて
ポート・サンライト会議の議題は、日本市場の分析、
Yの主力製品であるラックス・スーパーリッチのその後数年にわたる開発計画(プロジェクトは2つあった。)の協議・立案、
並びにそれに適用されるべき数々の技術、
アイデア(仮説を含む。)の評価・検討等が中心であり、
当日配布された資料も、ユニリーバ社の研究所本部作成のものもあり、
データにアクセスできる従業員も限られていたのであるから、
高い機密性を有していたというべきです。(中略)
そして、ポート・サンライト会議前にインターネット・リサーチによる市場調査に関する資料を会社から自分の個人のメールアドレスに転送したり、
日本リーバの親会社であるユニリーバ社のイントラネットのパスワードを取得し、
ユニリーバ社のサーバ内にあるデータにアクセスしたりしたこと、
会議資料を返還していないこと、
帰国後に会社のサーバ内の自らのプライベートフォルダに保存されている60通の電子メール全てを削除したことからすれば、
Xは、当初よりYの機密情報を取得した状態で日本R社に就職しようとしていたものと認めるのが相当であるし、
Aとのこれまでの接触状況に照らすと、
Xは(資料を渡したかどうかはともかく)、
Yの重要な機密データ(ポート・サンライト会議の情報を含む。)を外部に漏えいしたと推認するのが相当です。(中略)
したがって、本件懲戒解雇は、
客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができないとはいえないから有効であり、
長年の功労を否定し尽くすだけの著しく重大なものであるというのが相当です。
【関連判例】
→「日経クイック情報事件と私用メール」
→「K工業技術専門学校事件と私用メール」
→「グレイワールドワイド事件と私用メール」
→「古河鉱業足尾製作所事件と企業秘密の漏洩」
→「メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件と秘密保持義務」
→「フォセコ・ジャパン・リミテッド事件と競業行為の禁止」
→「ダイオーズサービシーズ事件と秘密保持義務」
→「大阪いずみ市民生協事件と内部告発」
→「財団法人骨髄移植推進財団事件と内部告発」
→「トナミ運輸事件と内部告発」
→「日本鋼管鶴見造船所事件と学歴詐称」
→「近藤化学工業事件と学歴詐称」
→「正興産業事件と学歴詐称」