トナミ運輸事件と内部告発

(富山地判平17.2.23)

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労働者が、勤務先の闇カルテルに関する事実を新聞社に内部告発したため、

会社が当該労働者を、

長期間にわたり昇格させない等して不利益に取り扱ったことは、

不法行為に当たるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、貨物自動車運送事業等を営む株式会社です。

Xは、昭和45年3月、大学を卒業してYに入社しました。

Xは、Yが他の同業者との間で、

認可運賃枠内での最高運賃収受や、

荷主移動(顧客争奪)禁止を内容とするヤミカルテル(以下「本件ヤミカルテル」という。)を締結しているなどと内部告発しました。

Xは、Yがこれを理由として長期間にわたりXを昇格させなかったり、

Xに不当な異動を命じて個室に隔離したうえ雑務に従事させるなど、

Xに対して不利益な取扱いをしたと主張して、

Yに対し、雇用契約上の平等取扱義務、人格尊重義務、

配慮義務等に違反する債務不履行又は不法行為に基づき、

慰謝料等の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


Yが、現実に、①他の同業者と共同して本件ヤミカルテルを結んでいたこと及び②容積品の最低換算重量を正規の重量を超える重量に設定し、

輸送距離の計算を最短距離で行わず遠回りの路線で行うなどして認可運賃を超える運賃を収受していたことが認められます。

また、Xが、これらを違法又は不当と考えたことについても合理的な理由があります。

したがって、内部告発に係る事実関係は真実であったか、

少なくとも真実であると信ずるに足りる合理的な理由があったといえます。

上記①の本件ヤミカルテルは公正かつ自由な競争を阻害しひいては顧客らの利益を損なうものであり、

上記②はより直接的に顧客らの利益を害するものです。

したがって,告発内容に公益性があることは明らかです。

また、Xはこれらの是正を目的として内部告発をしていると認められ、

Xが個人で、かつYに対して内部告発後直ぐに自己の関与を明らかにしていることに照らしても、

およそYを加害するとか、告発によって私的な利益を得る目的があったとは認められません。

なお、日消連にした上記②の内部告発については、

Yに対する感情的な反発もあったことがうかがわれるが(甲13)、

仮にこのような感情が併存していたとしても、

基本的に公益を実現する目的であったと認める妨げとなるものではありません。

内部告発方法の妥当性についてみると、

Xが最初に告発した先は全国紙の新聞社です。

報道機関は本件ヤミカルテルの是正を図るために必要な者といいうるものの、

告発に係る違法な行為の内容が不特定多数に広がることが容易に予測され、

少なくとも短期的にはYに打撃を与える可能性があることからすると、

労働契約において要請される信頼関係維持の観点から、

ある程度Yの被る不利益にも配慮することが必要です。

そこで、Xが行ったY内部での是正努力についてみると、

まずXはA副社長に対して上記(2)ア(ア)のとおり直訴しているが、

経営のトップに準じる者に対し訓示の直後にいきなり訴えるという方法はいささか唐突にすぎるきらいがあります。

しかも、その内容は主として中継料の問題であり、

Xは本件ヤミカルテルを是正すべきであるとは明確に言いませんでした。

Xは、中継料の収受と荷主移動禁止のヤミカルテルとは密接に関連し、

本件ヤミカルテルの実態を凝縮したものとして中継料の収受を問題にしたと主張するが、

そもそも本件ヤミカルテルが明確に結ばれたのは昭和49年7月であり、

それ以前の顧客争奪禁止の実態は証拠上必ずしも明らかでありません。

また、Xのいう中継料収受をめぐる問題点を見ても、

中継料の収受自体が具体的にどのような点で違法又は不当であるか必ずしも明らかでなく、

X自身中継料を取ってはならないのに取っていたということではないとも述べています〈証拠略〉。

これらの点をおくとしても、

Xは本件ヤミカルテルが問題であると明確に指摘していない以上、

その内心では中継料の収受は本件ヤミカルテルの問題でもあると考えていたとしても、

この直訴を本件ヤミカルテルを是正するための努力として評価することは難しいです。

このことは上記(2)ア(イ)のB岐阜営業所長への訴えについても同様であり、

B所長に対しても本件ヤミカルテルの事実やこれが独禁法に違反することを明確に指摘していなかったから、

これを内部努力として大きく評価することはできません。

なお、XはB所長に対して認可最高運賃の収受や荷主移動禁止条項について話したとも主張するが、

むしろ、X本人によってもこれらを具体的に指摘した事実はなかったと認められます。

以上によれば、Xが行った上記(2)ア(ア)、(イ)の行為そのものでは、

本件ヤミカルテルを是正するための内部努力としてやや不十分であったといわざるを得ません。

しかし、他方、本件ヤミカルテル及び違法運賃収受は、

Yが会社ぐるみで、さらにはYを含む運送業界全体で行われていたものです。

このことは、Yが荷主移動禁止条項を破った業者に対して抗議に行こうとしたり、

逆に荷主移動禁止条項を破ったYに同業者が抗議をしていた事実や、

読売新聞に本件ヤミカルテルのうち認可運賃枠内で最高額の運賃を統一して収受する旨の協定が存するとの記事が掲載された後、

Yが従業員に対し荷主移動禁止条項の口外を禁じていることからも明らかです。

このような状況からすると、管理職でもなく発言力も乏しかったXが、

仮に本件ヤミカルテルを是正するためにY内部で努力したとしても、

Yがこれを聞き入れて本件ヤミカルテルの廃止等のために何らかの措置を講じた可能性は極めて低かったと認められます。

このようなY内部の当時の状況を考慮すると、

Xが十分な内部努力をしないまま外部の報道機関に内部告発したことは無理からぬことというべきです。

したがって、内部告発の方法が不当であるとまではいえません。

以上のような事情、すなわち、告発に係る事実が真実であるか、

真実であると信じるに足りる合理的な理由があること、

告発内容に公益性が認められ、その動機も公益を実現する目的であること、

告発方法が不当とまではいえないことを総合考慮すると、

Xの内部告発は正当な行為であって法的保護に値するというべきです。(中略)

以上によれば、Yが、Xに対し、

法的保護に値する内部告発を理由に、

①旧教育研修所に異動させて長期間にわたり個室においたうえほとんど雑務にのみ従事させ、

新教育研修所に移った後も同様の仕事しか与えなかったこと、

②Xの昇格を停止して賃金格差を生じさせたこと及び③退職強要行為を行ったことが認められます。

このうち、③については後記6のとおり消滅時効期間が経過した行為であることが明らかであるから、

ここでは①及び②の責任原因について判断します。

従業員の配置、異動、担当職務の決定及び人事考課・査定、昇進・昇格等は、

使用者が、企業主体の立場で事業の効率的遂行や労働の能力・意欲を高めて組織の活性化を図るなどの観点から、

人事権の行使として行うものです。

このような人事権の性質上、その行使は相当程度使用者の裁量的判断に委ねられます。

しかし、このような裁量権もその合理的な目的の範囲内で、

法令や公序良俗に反しない限度で行使されるべきであり、

これらの範囲を逸脱する場合は違法であるとの評価を免れません。

また、従業員は、雇用契約の締結・維持において、

配置、異動、担当職務の決定及び人事考課、昇格等について使用者に自由裁量があることを承認したものではなく、

これらの人事権が公正に行使されることを期待しているものと認められ、

このような従業員の期待的利益は法的保護に値するものと解されます。

これを本件に即していえば、Xの内部告発は正当であって法的保護に値するものであるから、

人事権の行使においてこのような法的保護に値する内部告発を理由に不利益に取り扱うことは、

配置、異動、担当職務の決定及び人事考課、昇格等の本来の趣旨目的から外れるものであって、

公序良俗にも反するものです。

また、従業員は、正当な内部告発をしたことによっては、

配置、異動、担当職務の決定及び人事考課、

昇格等について他の従業員と差別的処遇を受けることがないという期待的利益を有するものといえます。

そうすると、Yの上記①、②の行為は、

人事権の裁量の範囲を逸脱する違法なものであって、

これにより侵害したXの上記期待的利益について、

不法行為に基づき損害賠償すべき義務があるというべきです。

Xは、上記各行為は雇用契約上の平等取扱義務、人格尊重義務、配慮義務などに違反する債務不履行であると主張します。

そこで検討すると、従業員は、雇用契約の締結・維持において、

上記(2)のとおり人事権が公正に行使されることを期待し、

使用者もそのことを当然の前提として雇用契約を締結・維持してきたものと解されます。

そうすると、使用者は、信義則上、このような雇用契約の付随的義務として、

その契約の本来の趣旨に則して、

合理的な裁量の範囲内で配置、異動、担当職務の決定及び人事考課、昇格等についての人事権を行使すべき義務を負っているというべきであり、

その裁量を逸脱した場合はこのような義務に違反したものとして債務不履行責任を負うと解すべきです。

このことは、使用者の人事権に広範な裁量が認められることによって否定されるものではなく、

また、人事権の行使が手続的に適正になされているとしても、

そのことが実体的な裁量逸脱の有無を左右するものではないから、

やはり債務不履行責任を免れるものではありません。

本件では、Xの内部告発は正当な行為であるから、

Yがこれを理由にXに不利益な配置、担当職務の決定及び人事考課等を行う差別的な処遇をすることは、

その裁量を逸脱するものであって、

正当な内部告発によっては人事権の行使において不利益に取り扱わないという信義則上の義務に違反したものというべきです。

したがって、YはXに対し債務不履行に基づく損害賠償責任を負います。

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