グラバス事件と経歴詐称

(東京地判平16.12.17)

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プログラマーとしての能力を偽って採用された労働者が、

経歴詐称を理由に懲戒解雇されたが、

当該処分は有効なのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、コンピュータソフトウェアの研究開発、制作、販売、輸出入、

及び保守サービス等を目的とする株式会社です。

Yは、平成14年7月ごろ、契約社員の募集を行い、

Xをプログラマーとして採用しました。

しかし、Xは、N社でのチケットサービスのシステム開発プログラミング作業を開始して以降、

JAVA言語のプログラマーとしては考え難い質問をしたり、

チーム内の従業員からは仕事が分かっていないようであると指摘されたり、

必要であれば応援の社員を入れる旨のYの申出に対し進捗状況についてまともに答えなかったりし、

N社担当者及びYの従業員が納期に間に合うか確認したところ、

プログラムとしてほとんどできていない状態にあることが判明しました。

そのため、Yは、Xに対して、

XがJAVA言語のプログラミング能力がないにもかかわらず、

それがあるかのような記載をした経歴書を提出して採用されたと判断し、

即日解雇する旨の意思表示をしました。

そこで、Xは、主位的に、契約期間の途中にされた懲戒解雇は無効であるとして、

残期間分の賃金並びに未払の時間外・深夜・休日手当等の支払いを求め、

予備的に、Xに対する解雇は普通解雇の限度でしか効力がないとして、

解雇予告手当及び未払の時間外・深夜・休日手当等の支払いを求めて争いました。

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【判決の概要】


Xは、JAVA言語のプログラミング能力がほとんどなかったにもかかわらず、

本件経歴書にはJAVA言語のプログラミング能力があるかのような記載をし、

また、採用時の面接においても、同趣旨の説明をしたものであるところ、

Xは、本件開発に必要なJAVA言語のプログラマーとして、採用されたのであるから、

Xは、「重要な経歴を偽り採用された」というべきであり、

就業規則86条3号(懲戒解雇事由)に該当するというべきです。

そして、認定事実によれば、

Yは、XがJAVA言語プログラマーとしての能力を偽ってYに採用されたとして、

Xを即日解雇したもので、平成14年9日30日にXに宛てた書面においても、

本件解雇は懲戒解雇であるとしているのであるから、

本件解雇は、懲戒権の行使としてされたものであるとするのが相当であり、

このことは、本件解雇当時「懲戒解雇」という言葉が用いられていないことによって左右されるものではありません(懲戒権の行使か否かは、表意者である使用者の当時の意思を合理的に解釈することによって決される問題である)。

使用者は、懲戒権行使に際して、

懲戒事由に該当する事実の存在自体を認識していなければならないものの、

その裏付けとなる証拠まで収集していなければならない理由はありません。

また、本件解雇で問題となったのは、JAVA言語プログラマーとしての経歴であるから(本件経歴書は、単なる履歴書ではなく「技術経歴書」である)、

経歴詐称の有無は、JAVA言語のプログラミング能力の有無という文脈において判断される事柄です。

Xについては、本件解雇の時点でJAVA言語のプログラミング能力がないことが明らかとなっており、

Yは、その文脈において本件経歴書の記載が虚偽であると判断していたものと解され、

懲戒権行使の要件に欠けるところはないというべきです。

Xは、JAVA言語プログラマーとしての能力に係る経歴を詐称して、

Yに採用されたもので、かかる経歴詐称を理由にYを解雇されたものであるから、

本件解雇は、労働基準法20条1項ただし書の「労働者の責めに帰すべき事由」に基づく解雇に該当するというべきであり、

解雇予告の除外事由があります。

この点、Yの就業規則には、除外認定を受けたときは、

解雇予告手当を支給しない旨定められているところ、

Yが本件解雇について解雇予告の除外認定を受けた事実はありません。

ところで、労基署長による解雇予告の除外認定は、

行政庁による事実の確認手続にすぎず、解雇予告手当支給の要否は、

客観的な解雇予告除外事由の存否によって決せられ、

使用者は、除外認定を受けられなかったとしても、

有効に即時解雇することを妨げられず、

逆に、除外認定を受けた場合であっても客観的にみて除外事由が存しない場合には、

解雇予告手当の支払義務を免れるものではないと解されます。

そうすると、前記就業規則の定めは、

労基署長の除外認定を受けていないものの客観的に解雇予告の除外事由があると判断された場合においても、

Yが解雇予告手当を支払うことを定めたと解するのは不合理であり、

就業規則を定めたYの合理的意思に反するというべきであるから、

客観的に解雇予告の除外事由がある本件においては、

就業規則の定めにかかわらず、

YがXに対して解雇予告手当を支払う義務はないと解するのが相当です。

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