メッセ事件と経歴詐称

(東京地判平22.11.10)

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経歴について虚偽の申告をして採用された労働者は、

具体的な財産的損害の発生やその蓋然性がない場合でも、

懲戒解雇できるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、労働者派遣事業を目的とする会社です。

Xは、平成20年5月11日、Yとの間で、雇用期間1年で雇用契約を締結しました。

その際、Yは、アメリカで経営コンサルタントをやっていたとの略歴書を信用してXの採用を決めました。

しかし、同時期、Xは、名誉棄損罪で控訴提起され、

同罪で懲役2年6か月の言渡を受け、控訴も棄却され、服役していました。

Yの代表取締役Y1は、本件契約締結後、

Xが、会議において他の従業員に強い調子で意見を述べた際に、

その発言内容に理解しがたいところがあったことなどから、

Xが従前コンサルタントをしていたとの経歴に疑問を感じるようになりました。

そこで、インターネットでXの氏名を検索したところ、

食品菓子販売大手のA社の役員を中傷するファックスを流したため、

平成16年6月、自称経営コンサルタントXを容疑者を逮捕したなどと記載された記事を発見しました。

Y1は、Xに対して、本件記事の人物がX本人であるかどうかを確認したところ、

これを認め謝罪するとともに、自身は無罪であると主張しました。

Y1は、Xの経歴詐称は、本件雇用契約締結の動機づけを覆すものであるから、

Xを解雇しようと考えたが、できればXが円満に退職することを望み、

30万円を一括して支払うことを条件にXに対して退職勧奨をしたが、

Xは、退職条件について記載した書面の交付を求め続けたため、

Yは、平成19年10月から20年1月まで実刑を受け服役していたにもかかわらず経営コンサルタントをしていたと称したこと、

賞罰なしと記載したなど、

虚偽の履歴書を提出していたことを理由に、

就業規則の懲戒事由に該当するとしてXを懲戒解雇しました。

そこで、Xは、Xは、本件懲戒解雇の無効を求めて争いました。

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【判決の概要】


雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、

労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるといえることからすると、

使用者が、雇用契約の締結に先立ち、

雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項や、

これに加え、企業秩序の維持に関係する事項について必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、

労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負うものというべきです。

したがって、労働者が前記義務に違反し、

『重要な経歴をいつわり採用された場合』(本件就業規則21条7号)、

当該労働者を懲戒解雇する旨定めた就業規則の規定は合理的であるといえます。

労働者が雇用契約の締結に際し、経歴について真実を告知していたならば、

使用者は当該雇用契約を締結しなかったであろうと客観的に認められるような場合には、

経歴詐称それ自体が、

使用者と労働者との信頼関係を破壊するものであるといえることからすると、

前記のような場合には、

具体的な財産的損害の発生やその蓋然性がなくとも、

「重要な経歴をいつわり採用された場合」に該当するというべきです。

Y1は、前記虚偽の経歴を重視してXの労働力を評価し、

本件雇用契約を締結したのであって、

Xが前記のように2年6か月の実刑を受けて服役していたという真実をYに告知していた場合、

Yは、企業秩序に対する影響等を考慮して、

本件雇用契約を締結しなかったであろうと認められ、

かつ客観的に見ても、そのように認めるのが相当であるとして、

就業規則21条7号の懲戒解雇事由が認められます。

本件解雇は、Xの経歴詐称行為の性質および態様その他の事情からして、

客観的合理的な理由があり、社会通念上相当なものと認められるから、

解雇権濫用とは認められません。

【まとめ】


労働者が雇用契約の締結に際し、

経歴について真実を告知していたならば、

使用者は当該雇用契約を締結しなかったであろうと客観的に認められるような場合には、

経歴詐称それ自体が、

使用者と労働者との信頼関係を破壊するものであるといえることからすると、

具体的な財産的損害の発生やその蓋然性がなくとも、

「重要な経歴をいつわり採用された場合」に該当します。

【関連判例】


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