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退出のタイムカード打刻の際に、
一斉に行われた所持品検査を拒否した労働者が懲戒解雇されたが、
当該処分は有効なのでしょうか。
【事件の概要】
Yは、テレビ、ラジオの部品その他通信機類の製造販売を業とする会社です。
Xは、昭和38年3月23日、Yに雇用され、
川崎工場工作課自動機係従業員として現場作業に従事していました。
Xが退社するためタイムカードを打刻し退門しようとしたので、
守衛がXに対し、その所持する鞄の検査を求めたところ、
Xはこれを開くことを肯ぜず、検査を拒否しました。
その際、守衛はXに対し、
「現場から電話があったので退場者全員について検査する。」、
「検査は就業規則でできることになっている。」旨明言したのに、
Xは、「断る」と言うのみで、
他に何らの理由を述べることもしませんでした。
Yは、所持品検査を拒否したことを理由として、
就業規則に基づいてXを懲戒解雇しました。
そこで、Xは、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、
及び賃金の支払を求めて争いました。
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【判決の概要】
当日のXの行為は、前記のとおりこれを全体として見れば検査拒否ということになり、
Y会社企業秩序に違反するとの評価を受けることはやむを得ないとしても、
Xの検査拒否は、実質的にみてその就業規則違反の程度において比較的重くないものというべきです。
そしてYにおいても、Xの当日の行為自体については、
これを重大な企業秩序違反であると見ていたものでないことは、
叙上認定のとおりYがXに始末書を提出させる程度でこの事件の結末をつけようとしていたことからも推認できます。
従ってYをして懲戒解雇という最も重い懲戒処分に踏み切らせたものは、
事後におけるXの態度、なかんずくXが自己の行為に誤りはなかったとし、
今後も検査を拒否するとの主張を変えなかったことにあるものと認められます。
以上(1)ないし(4)の事実その他叙上認定の諸般の事情を総合して考察すると、
Xの行為は雇傭関係の存続を不可能ならしめる程重大かつ悪質なものであるとするには十分でなく、
従って就業規則第74条本文により懲戒解雇とするには苛酷に過ぎ、
同条但書を適用して懲戒解雇以外の処分を選択すべき場合であったと認めるのが相当です。
してみると本件懲戒解雇は客観的妥当性を欠き、
権利の濫用であって無効であるといわなければなりません。
【関連判例】
→「西日本鉄道事件と所持品検査」
→「東陶機器事件と所持品検査」
→「芸陽バス事件と所持品検査」
→「サンデン交通事件と所持品検査」
→「日立物流事件と所持品検査」
→「富士重工業事件と調査協力義務」
→「東京電力事件と調査協力義務」