サンデン交通事件と所持品検査

(山口地下関支判昭54.10.8)

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バスの運転手として働く労働者が、

所持品検査を拒否したことを理由に、

懲戒処分として降格させられたが、

当該処分は有効なのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、道路運送事業等を目的とする株式会社です。

バスの運転手として運転業務に従事するXは、

所持品検査につき、その一部を拒否したことを理由に、

懲戒処分として降格させられました。

そこで、Xは、処分の無効と慰謝料を求めて争いました。

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【判決の概要】


おもうに、被検査者に何らの不審な点もないのにその着衣の上から検査者が手で触わったり、

被検査者自身に全てのポケットの中袋を裏返しさせたりするいわゆる確認行為は、

被検査者をバス乗務員であるがゆえにチャージするおそれのある者とみて不信感を露骨に表明し、

これに多大の屈辱感、侮辱感を与えかねない行為と認めざるを得ません。

チャージなどしない多くの正直者ほどこの様な人を泥棒視した確認方法に反撥しかねないものともいえます。

一般に使用者は労働者を採用するに際して、

自由に本人の人柄、身辺等の信用調査をなしえ、

かくて成立した労使間の労働契約には相互に信頼を寄せ合う関係が存在すべきものと解されるので、

この点からも、右にみたような確認行為は、

それが懲戒処分を背景にして強要される限り、

被検査者たる労働者に対し不信感をあらわにし、

これに屈辱感を与えるような行為と評することができるでしょう。

この点、支給された制服を着用し、

私金所持禁止の社内規則を遵守して業務に従事する者は、

たとえ所持品検査により私金所持の有無の確認を要求されようとも、

被検査者として何らの痛痒も感じないはずであるとの考え方もあり得ようが、

これは、人は何の理由や説明もなく泥棒視されたような取扱いを受けることには耐え難い屈辱感を覚え易いという一般的な事実を看過した考えとして、

到底左袒し難いところです。

ところで、本件のXは、前記二の2に認定したところによると、

私物(私金)を携帯するのに敢えてその提示を拒否したという事実は認められず、

むしろ所属組合(支部組合)の指導方針に沿ってその確認を拒否したものといえるが、

他方、Yの方は、前記1に認定のとおり、

昭和43年における乗務員規程26条の改訂問題に際しては、

その趣旨の説明を求める右組合に何らの説明も与えることなしに、

あるいは補導掛自らが被検査者のポケットに手を突っ込んだり、

あるいは被検査者にポケットの中袋を裏返しさせる等して、

所持品検査に安全地帯はないのだとの認識からその時々に応じた適当な確認方法をとっていたことがうかがえるのであって、

このことが被検査者に及ぼす右の如き屈辱感に対しては、

殆ど配慮らしい配慮を加えなかったことが認められるものです。

従って、Xをはじめとする被検査者側からすれば、

右の如きYの確認行為は、自己に対する会社の不信感のあらわれとして、

少なからず屈辱感、侮辱感を招致するような行為であったものと認めざるを得ず、

チャージの疑いがあるなど特段の理由なくして、

一律に被検査者全員に対し押しなべて強要しうる所持品検査の態様としては、

著しくその方法・程度を逸脱したものと認めざるを得ません。

以上のところから、Y補導掛のXに対して求めた本件確認行為は、

画一的・一律的に実施すべき所持品検査の方法・程度として行き過ぎがあったものと認めざるを得ず、

前記三の3記載の例外事由が存しない限り、

Yの就業規則等に何らの根拠も有しない違法な検査方法であったと認められます。

しかして右例外事由の存否については、(人証略)によると、

本件各所持品検査当時Xの運賃収入は平均以下であった、

これには統計資料もあるとの供述部分がうかがえるものの、

さらに(人証略)によると、Xに対する本件各所持品検査の際は、

補導掛らはいずれも右の如き事情をXに告げていないばかりか、

むしろこのような事情の存否は全く考慮することなく、

他の被検査者等に対するのと同様に一律に確認行為までをも求めた事実が認められるのであって、

右例外事由の存在は認定しえず、

他にこれを認めうるに足る証拠も存しないものです。

よってY補導掛がXに求めた本件所持品検査は、

前記三の2の(二)に掲げた(ロ)の要件のうち画一性、一律性の要請に違反する疑いがあるばかりか、

更に右検査のうち前記確認行為を求めた部分については、

何らYの就業規則等に根拠のない行為と言い得るものであって、

いずれにしても右確認行為は違法な検査方法であったものと認められます。

懲戒処分としての降格は無効であり、慰謝料30万円の支払いが認めらます。

【関連判例】


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