日立物流事件と所持品検査

(浦和地判平3.11.22)

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就業規則その他明示の根拠規定がなく所持品検査が実施された場合、

当該所持品検査は違法といえるのでしょうか。

【事件の概要】


物流会社Yに勤務するXは、引越作業の責任者として稼働していました。

Xは、Yの下請会社の従業員と共に、引越作業に出掛け、

作業終了後、Yに戻った際に、

仕事先から財布がなくなった旨の連絡があったため、

上司から所持品検査を受け、

当該作業に従事したXらの所持品を机の上に出すよう指示し、

また、Xらの身体に触れる検査を実施しました。

そこで、Xは、右所持品検査は違法なものであり、

それにより、名誉、信用等を傷つけられたとして、

Yに対して慰謝料を請求しました。

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【判決の概要】


使用者がその企業の従業員に対して行う所持品検査は、

従業員の基本的人権に密接に係わる事柄であるため、

その実施に当たっては常に被検査者の名誉、

信用等の人権侵害のおそれを伴うものであるから、

たとえ、それが企業にとって必要かつ効果的な措置であるとしても、

当然に適法視されるものではありません。

右所持品検査が適法といえるためには、

少なくともこれを許容する就業規則その他明示の根拠に基づいて行われることを要するほか、

さらに、これを必要とする合理的理由に基づいて、

一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、

職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければなりません。

これを本件についてみるに、《証拠略》によれば、

Yにおいては、本件のような引っ越し作業員の所持品検査について、

これを許容する就業規則その他明示の根拠規定は存在しないことが認められます。

したがって、Aの行った本件身体検査を含む本件所持品検査は、

この点で既に違法であると言わざるをえません。

Xが、身体検査を受けない自由や所持品携帯の自由が、

就業規則や労働協約によって保障されたものであるかどうかは別として、

本件身体検査を含む本件所持品検査が、

Xの承諾を受けたものとは認められないことは前記のとおりであるから、

これによりXが有する身体的自由に対する侵害がなされたということはできます。〔中略〕

Yの主張(二)(1)の事実のうち、A及びBが、

Xに対し、Aの行動が行きすぎで、適切を欠いたことは認め、

「お詫び申し上げます。」と記載した書面を提出したことは当事者間に争いがありません。

しかし、右の事実により、本件所持品検査の違法性が完全に消滅し、

Xの受けた損害が完全に回復されたとまでいうことはできません。

Yは、Xが、昭和63年12月下旬、Bが謝罪した際、

「所長には、詫び状とともにすまない、と謝ってもらったので何度も謝ってもらわなくて結構だ。」「わざわざ本部から出向いてもらって恐縮だ。この件は時間が解決してくれるだろう。」と述べ、

また、Xは、平成元年1月20日Bと面談した際、

「慰謝料のことは考えていない。」と述べたので、

本件所持品検査の違法性は消滅したものであると主張するが、

右事実を認めるに足りる証拠はありません。

そして、Xが従来社内で受けていた評価、

本件身体検査を含む本件所持品検査の目的・態様、

その後のAらの対応等、諸般の事情を考慮すると、

Xが右5の名誉毀損等により被った精神的苦痛を慰謝するためには金30万円が相当です。

【関連判例】


「西日本鉄道事件と所持品検査」
「東陶機器事件と所持品検査」
「芸陽バス事件と所持品検査」
「帝国通信工業事件と所持品検査」
「サンデン交通事件と所持品検査」
「富士重工業事件と調査協力義務」
「東京電力事件と調査協力義務」