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職場外でされた職務遂行に関係のないところで、
公務執行妨害罪、傷害罪による懲役5月執行猶予1年の有罪判決を受けた労働者が、
懲戒免職処分されたが、
当該処分は有効なのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、昭和20年8月にYの職員として採用され、
山陽本線小郡駅配車係として勤務していたが、
昭和38年6月1日に岩国市で開催された岩国基地撤去要求山口県民大会に引続いて行われたデモ行進に際し、
警備の警察官に暴行を加え、加療3日を要する傷害を与えた、
との犯罪事実で公務執行妨害罪、傷害罪による懲役5月執行猶予1年の有罪判決が、
昭和44年1月5日に確定しました。
Yの総裁は、昭和44年11月30日に、Xに対し、
右有罪確定判決を受けたことを理由として、
国鉄法31条により懲戒免職の処分をしました。
そこで、Xは、処分の無効を求めて争いました。
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【判決の概要】
本件懲戒処分の効力に関連して検討をすすめます。
1、本件懲戒処分の性質
Yは、本件懲戒処分は行政処分であって、
重大かつ明白な瑕疵がない限り当然に無効となるものではない、と主張します。
しかしながら、Yは公法上の法人であり、
その経営する鉄道事業を中心とする事業は高度の公共性を有するものではあるが、
その行う事業は経済的活動を内容とし、
公権力の行使という性格を有しないものであり、
国家機関による規制も監督的、後見的なものであることに照らすと、
一般的にYの機関が行政庁としての性格を有し、
その行為が行政処分ないしはこれに準じるものと解することはできず、
また右のように解すべき実定法上の根拠もなく、
かえって、本件懲戒処分は私法上の行為の性格を有するものと解するのが相当であり、
Yの右主張は採用できません。
2、 懲戒事由該当の点
Xの前記行為は職場外でなされたもので職務遂行に関係はないが、
公務執行中の警察官に対し暴行を加えて傷害を与えたもので、
国鉄法31条1項1号及びこれに基づく国鉄就業規則66条17号所定の懲戒事由である「その他著しく不都合な行いがあつたとき」に該当することが明らかです。
Xは、前記行為は私生活上のものであるから右懲戒事由に該当しない、と主張します。
しかしながら、Yのように極めて高度の公共性を有し、
公共の利益と密接な関係のある企業体においては、
事業の円滑な運営の確保とともにその廉潔性の保持が社会から要請あるいは期待されているから右「著しく不都合な行いがあつたとき」には、
Yの右社会的評価を低下、毀損するおそれがあると客観的に認められる限り、
職場外の職務遂行に関係のない行為のうちで著しく不都合なものと評価されるものを含むと解するのが相当であって、
右規定には具体的な業務阻害等の発生を要求しているとは解されないからXの右主張は採用できません。
3、免職処分の相当性の点
Xは、本件免職処分は裁量権の範囲を逸脱し、
又は権利の濫用に当るものとして無効である、と主張します。
国鉄法31条1項は懲戒処分として、
免職、停職、減給又は戒告の4種類を、
懲戒事由として「この法律又は日本国有鉄道の定める業務上の規程に違反した場合」と規定しているが、
具体的基準の定めはなく、
右業務上の規程であるYの就業規則66条は具体的懲戒事由を定めているが、
各懲戒処分毎の懲戒事由の定めはないところ、
このような場合、懲戒権者は、懲戒事由に該当する行為の外形的なもののほか、
原因、動機、状況、結果等のほか、
当該職員について前記二、7末段記載のような諸般の事情を斟酌したうえ、
企業秩序の維持確保の見地から相当と判断する処分を選択できるのであって、
当該処分が社会通念上、当該行為との対比において甚しく均衡を失して合理性を欠くものでない限り、
その裁量権の範囲内にあるものとして是認されるべきものです。
右見地から本件を検討すると、
Xの行為は傷害罪をともなった公務執行妨害罪にあたる軽視し得ない犯罪行為であり、
単に偶然的なものとはいえず、
懲役5月執行猶予1年の有罪判決が確定しているのであり、
前記懲戒処分歴も無視し得ないものであり、
懲戒処分のうち免職処分についてはその重要性に鑑み特に慎重な配慮を要することなどを勘案しても、
Yの総裁がXに対し本件行為につき免職処分を選択した判断が甚しく均衡を失して合理性を欠くものとするには足りず、
裁量権の範囲を超えた違法なものあるいは権利の濫用にあたるとは認め難いです。
【関連判例】
→「日本鋼管事件と職場外の行為」
→「小田急電鉄事件と懲戒解雇に伴う退職金不支給」
→「横浜ゴム事件と私生活上の行為」
→「国鉄中国支社事件と私生活上の非違行為」
→「関西電力事件と使用者の懲戒権」
→「中国電力事件と勤務時間外のビラ配布」
→「繁機工設備事件と企業の風紀を乱す行為」
→「全日本空輸事件と休職処分」